ステージ復帰への道:寄り道編

MYK
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ギターのレッスンを受け始めて1年が経過。毎年3月には音楽教室主宰の発表会ライブが開催されていて、私も出演することに。生徒さんの中には「練習は好きだけど、人前で演奏するのは嫌だ」という人もいるらしいが、私は「ライブ出る?」と聞かれて「出る!出る!何曲?」と前のめりで答えるタイプである。しかし残念なことに、初出場の人は1曲だけと決まっているらしい。そうなれば、レパートリー(レッスンで教わった曲)の中で一番長い曲をやるしかあるまい……ということで、ゲイリー・ムーアの『Sunset』を弾くことに決定。

12月に出たライブと大きく違うのは、バンドという体裁で演奏するものの、メンバーは先生(たち)だ。これが私にとって大きなプレッシャーになるとは、「出る!出る!」とはしゃいだときは予想だにしなかった。

ライブ当日はゾンビランド佐賀でも一番のお祭りイベント、さが桜マラソンが開催されており、朝から市内各所で渋滞していたらしい。幸い、実家が会場のすぐ近くなので、家を出た3分後には会場に到着。他の出演者が遅れていることもあって座るまもなく音出しスタート。しかもドラム抜きで。

意気揚々とスタートしたはいいが、サイドギターを担当する師匠はともかく、ベーシストの人とは初対面で挨拶すらしていない。ドラムがいないからテンポがちょっと不安定になる。そして、ステージ上で感じた「孤独感」に圧倒された。バンドでステージに立つときは常に「仲間と一緒」だが、先生(たち)とのステージは一人でステージに立つのと同じだった。それに、先生(たち)はミスをしない。ミスをする可能性があるのは私だけで、その可能性が100%だというのもなかなかのプレッシャーだった。リハ1回目、ソロが丸っと飛んだ(ど忘れした)。「わー、ごめん。飛んだ。もう1回ソロのとこからお願い!」とやり直し。半年間毎日弾いていたのに、こんなにも簡単に飛ぶものか?と驚く。

他の人のリハを見ていても初出場組の緊張が伝わってきて胃が締め付けられた。そんななか、中学2年生の少女のギターに心を奪われる。天使のような彼女が奏でるキラキラした透明の音に私の欲深い心が浄化され、思わず涙ぐんでしまった。感動を抑えられなくて、本人と付き添いのご両親に「すごい素敵な演奏でしたよ。心が洗われました!」と話しかけると、恥ずかしそうに小さな声で「ありがとうございます」と答える様子が天使そのものだった。まぶしくて目が潰れそうだった。

ようやくドラムの人が到着して2回目のリハ。またもや、挨拶するまもなく演奏開始。1回目で盛大にミスったおかげで、細かなミスはあったものの、落ち着いて演奏できた。ステージを降りると、さきほどの天使のお母さんが私の所にやって来た。「かっこよかったです! 」「わー、ありがとうございます」「私、なんかもう、感動しちゃって! 途中から涙がこぼれてきて!」「え?! そんなに?!」天使母に何が響いたのかは分からないけれど、一人でも喜んでくれてミュージシャン冥利に尽きる(ミュージシャンじゃないけど)。

開始時刻が近付くとお客さんも増えて満席に。「お客さん=出演者の家族・友人」なので、とてもアットホームな雰囲気に包まれている。夫も最前列に陣取っている。友人も2人、見に来てくれた。

さて、本番である。好調な滑り出しでノリノリになってきたのだが、私にとってこれはマズいサインである。そしてやはりというか、これまでにほとんど間違えたことのないところで1小節くらい飛んでしまった。「あ!! 今どこだっけ?」と一瞬迷子になったが、サイドギターを弾く師匠と目を合わせて平常心に戻る。なにせ、5分半の曲をちょっとゆっくりめのテンポでやるので6分くらいかかる。最後の2分はアドリブパート――ゲイリー・ムーアの音源ではあっさりフェードアウトするパートを2分も引っ張る私の見せ場なのだ。このパートは全部自分で考えた。3か月もかけて「あーでもない、こーでもない」と構成を考えた自信作なのだ。ゲイリーのパートが弾けなくても、自分のパートさえ弾ければオッケーなのだ。そこを目立たせるためにゲイリーパートを少し抑えめにしようとまで考えた渾身のアドリブ(厳密には9割方決めているのでアドリブではないが)、そこで120%の力を出さねばならぬのだ!

アドリブパート前、いったん全パートがフェードアウト後ドラムが「ドドッドドドド、ズダダダダーン」となる。最初の8小節はごくごく控えめなバッキングでスタート。その後8小節は中音、次の8小節は低音でチョーキングしまくり、スライドしまくり。そして最後の8小節は高音でぎゅんぎゅんいわせた後にすーっと波が弾くように終わる。最後の1音はためにためて、(初対面で挨拶もろくにできなかった)ドラムの人とタイミングを合わせて丁寧にならす。思いどおりに弾けた2分間だった。

辛口コメンテーターの夫からは「やっぱミスったねー。でもこの曲誰も知らないから大丈夫。最後のアドリブがすごく良かった」と高評価。会場の後方で見ていた元バンド仲間の友人からはSNS経由で「すごく良かった。最後のソロ、周りのおじさんたちが響めいてたよ!」とお褒めの言葉をもらった。

あっという間の6分間だったが、来年こそは2曲。できれば、ハードロックを1曲やりたいと目論んでいる。

ところで、20人ほどの生徒さんが出演した今回の発表会で群を抜いていたのが小学6年生の女子が叩いたドラムだった。途中から小学生であることも、生徒さんであることも忘れてしまった。ちなみに、モッズの『激しい雨』とアルフィーの『星空のディスタンス』の2曲だったが、サポートでボーカルを担当した楽器店バイト君(20代)が「モッズとか知らんですよー。僕が生まれるずーっと前ですよ?」と言って私を含む中高年に鋭い矢を刺しまくっていた。

@imyk_ja
福岡在住の英日実務翻訳者。猫と酒とロックが好き。