最近、散歩中や運転中に、小説家の朝井リョウと歌人の加藤千恵のポッドキャスト『信頼できない語り手』を聞いている。その中で、「卒業式の思い出」として加藤千恵が、仲がよかった部活の先輩数人から制服の第2ボタンをもらい、それをじゃらじゃらと袋に入れていたら、友人に“千恵ちゃんが●●先輩の第2ボタンをもらったの?”と聞かれ、そのとき第2ボタンの意味を勘違いしていたと気付いた、と思い出を語り、朝井リョウから非難されていた。
実は、私にもそれに近い経験がある。
高校の部活で一緒だったY君はシュッとしたイケメンで、私たちの学年のイケメントップ3のひとりだった。部室にいるときに、下級生の女子から「Y先輩にこれを渡してください」と手紙を託されたこともある。Y君はイケメンなのにそれを鼻にかけることなく、にこやかでユーモアがあって、一緒にいてとても楽しい友人だった。
卒業式の後、予想通り大勢のY君ファンの女子が部室めがけてやってくる。もちろん、彼女たちの狙いは第2ボタンである。私は離れたところから見物しようと思った。ところが、Y君は私を呼び止めると、制服から第2ボタンを引きちぎり「これ!」と私に押しつけた。
「なんでっ?!」「いいから、もってって!!」。ファンに見つかったらマズい。私はY君の第2ボタンをさっとポケットに隠し、その場を離れた。
Y君とは卒業後もしばしば会っていた。数人で会うこともあれば、ふたりだけのこともあった。第2ボタンをなぜ私に渡したか、理由を尋ねた気もするし、今となっては覚えていない。当時、彼には彼女がいたし、私にも彼氏がいた。大学生になっても、社会人になっても、高校生の頃とまったく変わりなく、何一つ気負うことなく話ができる得がたい友人だった。
私はずっと「たまたまそこにいた友人である私にボタンを預けて混乱回避を図っただけ」だと思っていた。夫にこの話をしたときに「えー? そんなわけないやろ!」と言われたが、本当のところは分からないし、Y君は私にボタンを押しつけたことなど覚えていないかもしれない。真相は分からないが、私は友情説が気に入っているので、これからも「混乱回避のためにボタンを預けられた」と思っていたい。
ところで、Y君は下級生女子にもらった手紙を私に見せてくれたのだが、「好きなタイプは?」という質問に「ずばり、おれの彼女」と書いていたので「こんなん書いたらかわいそうやろ。夢もへったくれもないやん」と言うと、「変に期待持たせる方がひどいやろ?」と反論されて妙に納得した。ちなみに、Y君に預けられた第2ボタンは度重なる引っ越しでなくなった。