今から4週間前の2025年10月15日、私は真夏の服を着ていた。それなのに、今朝は買い物に行くときに寒くて車のシートヒーターをオンにした。車を買い替えるときに「シートヒーターなんて九州じゃいらんやろ?」と思ったのに、今日は「シートヒーターがあってよかった」と思った。もちろん、食べるものだって温かいものが中心だ。
我が家の冬の定番はおでんと鍋で、さっそく実家で今シーズン初のおでんを済ませた。私の好きなおでんの具はがんもどきと大根と餅巾着だ。味が染みにくい具材は圧力鍋で煮込み、大きな鍋一杯のおでんをドンとテーブルの真ん中において食べる冬の幸せ(まだ冬じゃないけど)。私は唐辛子は得意だが、からしには弱いのでちびちびと付けてハフハフしながら食べる(猫舌)。大量に作って具材を足しながら、3日間おでんは続く。
おでん2日目。昨日3個入れた餅巾着が2つ残っている。危ないので母には食べさせていないが、大食漢の弟は食べなかったのだろうか? 「あんた、餅巾着は食べんの?」と尋ねると、それまで機嫌良くおでんを頬張っていた弟がさっと無表情になった。「えーっとね、餅巾着は食べないねー。いつも食べてないねー。そもそも餅が好きじゃないからねー」と抑揚のない声で言われた。そしてそのやり取りの途中で、「あれ? この会話、初めてじゃないぞ」と気付いたのである。
自宅に戻ってから夫に「ねえ、知ってた? 弟は餅巾着を食べないんだよ」と言うと、「知ってるよ」と言われた。そればかりか、「年末年始に毎年繰り返してるけど、弟くん餅好きじゃないよね?」と指摘されて「マジで?」といろんな意味で驚いてしまった。弟が餅を好きではないこともだが、それを他人である夫が知っていること(覚えていること)に驚いてしまったのだ。
毎年年末年始に繰り返される私と弟の「餅問答」について、夫は毎度「デジャヴだな」と眺めていたらしい。それは、私と弟の間だけでなく、私と父の間で繰り返されていた「スイカ問答」であり「ブドウ問答」でもあったのだ。
私は訳あってスイカとブドウが好きではない(原因は父なのだが)。ところが、毎年夏になると父はいそいそとスイカを切って「スイカ食わんね?」と言う。秋になれば「ブドウ食わんね?」と言う。「いらん」と素っ気なく答える私に、父は毎度、100%ピュアな、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして「なんで?」と聞く。それを見ていた弟が「姉ちゃんはスイカとブドウは嫌いなんだってば! 毎年言うてるやん! いい加減覚えて!」と言うのがお決まりだった。
弟によると、「餅だけではなく、トマトも嫌いだって幼稚園のときから言ってるのに、お父さんと姉ちゃんは一向に覚えない」だそうである。これはトマトジュースを「飲む?」とすすめたときに指摘された。
ちなみに夫の嫌いな食べ物は玉ねぎである。付き合い始めのころ一緒に行ったあまり安くないイタリアンレストランで玉ねぎがゴロゴロはいったペペロンチーノが出てきて、一切手を付けずに帰るという、なかなか印象的な出来事があったので覚えている。それでも何年かは、うどんにきざみねぎを乗せては「ネギは全部ダメだってば!」と言われ、ニラ玉を出しては「ニラもネギの仲間だからダメだってば!」と言われ続けてきた。最近覚えたのだが、ニンニクも基本好きではないらしい。ビックリである。
実家のおでんに入れた餅巾着は3日かけて全部、私の胃袋に収まった。