今年のうちに書いておきたいことがもうひとつあった。
今日のこれは、わたしを涙の海に沈めて睡眠時間を奪い、人生を今一度考えさせようとしている、先日最終回を迎えたTBS日曜劇場ドラマ「海に眠るダイヤモンド」への、とりとめのない感想文というか、思いの丈である。恥ずかしいポエムとも言う。
なお、ネタバレには配慮していない。序盤は謎が多く、推理したりしながら観るのが楽しいドラマだったため、これから観ようと考えている人は読まないほうがいい。
とてもいいドラマだった。是非多くの人に観てほしい。
前置きとして断っておくと、わたしはこのドラマを序盤ほとんど観ていなかった。題材にあまり興味が湧かなくて、家族が観ているのを横目にチラチラ程度だった。
好きなモデル兼歌手兼タレント兼女優の池田エライザさんが出ているので、彼女が出ているシーンばかり観ていた。かわいいしかっこいいし歌がうまい。エライザさんが演じたリナは、エライザさんの強みをこれでもかと活かすキャラクターだった。
そんな感じだったわたしが最終回まで観たところ、バカみたいに泣いて、数日経っても主題歌を聴くだけで泣いて、コスモスの花と海と島の組み合わせを見るだけで泣くという事態に陥っている。これはもうただごとではないので、なにかしらしたためておかねばならないと思った次第。
素晴らしいドラマだ。自分史上最高まである。この文章内でもとにかく絶賛しちゃう。
前置きはここまで。
「人生、変えたくないか?」
このドラマは序盤に登場するこのセリフが全てだと思う。
ドラマなのだから、多少なりとも登場人物のいずれかは変わっていく。そうでなければ何も進展せず、面白くならない。しかしこのドラマは、登場人物みんながひたむきに変わっていこうとする姿を映していて、とても美しかった。
このセリフは作中2回出てくる。時系列的に最も最初に口にした鉄平が、物語のキーパーソン(あえて主人公とは言うまい)。ここからたくさんの人の人生が変わっていく。鉄平が中心となり、変えていく。
現代で玲央に対してこのセリフを贈ったいづみさんも、受け取った玲央も、それに巻き込まれた者たちまでもが変わっていく。
変わらなかったのは唯一、最初に言葉にした鉄平だけだ。鉄平のキャラクター性は不変の象徴だと思う。取り巻く環境が変わり、過酷な人生に苛まれても、どれほどの時間が経っても鉄平という人間は変わらなかった。そのコントラストが際立っている。キャラ作りが秀逸。
過去と現代のシーンを行き来しながら、ある夜に突然消えてしまった鉄平という人間の行方を追いかけていくストーリーラインは、最初のうちは少し不安に感じていた。面白くなるのかなこれ、みたいな気持ち。
ドラマが始まってすぐに過去へ視点が移り、そこでは鉄平が主人公のように振る舞う。このまま過去の時間が進んでいけば、視聴者は真実に到達するのを待つだけになってしまう。
しかしいづみさんの正体が判明したあたりから、画面を隔てた一視聴者であるはずのわたしは、2018年の玲央たちと共に鉄平の歩んだ道を追いかける一人となっていたと思う。
脚本がうまいうますぎる。最終話での描写から、過去の鉄平を映したシーンはいずれも、いづみさんの古い記憶と玲央が日記を読んで描いた空想でつくられていた、つまり視聴者が観ていたのも「過去をそのまま映したシーンではない」とわかる。このうまさには思わず叫んだ。
鉄平は海に眠るダイヤモンドにおける、過去編パートの主人公ではない。過去でも現代でも、物語を動かすキーパーソンだ。変わらない愛を持ち続ける彼は、姿形に至っては画面にほんの一瞬しか映らず、現代に残された想いはあまりにもささやかで。辿り着いたいづみさんと玲央、そして視聴者の胸を打つ。
にくい男だよ鉄平。鉄平はずっと、自分の人生を変えたいと願っていたはずだ。己を追い詰める者に対して「死ねばいいのに」と悪いことも口にしていた。幸せを逃しクソッタレになってしまった自分の人生に、唾を吐いていたはずだ。
でも鉄平は変わっていない、と思った。過去を切り取った空想シーンの中に描かれた、いづみさんの記憶の中にあるまま、日記から読み取れる真っ直ぐな姿のまま。
あの一面のコスモスと、遠く海に浮かぶ端島のシルエットを見れば、そう思うしかない。彼は変わらなかったのだとしか考えられない。変わることなく端島を愛し、朝子を愛していた。
鉄平は変わらない人間であり、たくさんの人の人生を変えた。そこには視聴者も含まれるのかもしれない。少なくともわたしは、変わってみたいと思った。
ただのドラマなのに。それだけ鉄平というキャラクターが、力強く描かれていたということなのかな。脚本や監督もさることながら、二役演じ切った神木隆之介さんもやっぱすげえと思う。
端島という名の場所
「軍艦島」という通称のほうが今となっては知れ渡っている。正直わたしはあまり、いや全く興味がなかった。
作中冒頭でその姿を見た玲央は「廃墟じゃん」と軽く言う。並々ならぬ思いがあるいづみさんは、その姿を見ることができずに、震えながら「廃墟なんかじゃない」と言う。
このシーンだけでも自分の認識の甘さに胸が痛くなった。50年前まで人が住んでいた場所だ。日本の発展を支えた地だ。誰かの思い出のふるさとだ。
今や世界文化遺産。観光地となり、風化しつつあるコンクリートの島。歴史的価値が認められている傍ら、保全対策は大きな課題となっている。島ごと崩れるかもしれないと危惧されている。
自分ひとりが何かできるとは思わない。端島に限らず、今まだ生きている誰かの故郷が消えてしまったり、過去の遺産として遠い存在になってしまったりするのが、ただただ悲しかった。仕方がないことだけども。せめてそこに誰かの人生があったことを忘れずにいたい。
このドラマは、かつてそこにあった人々の人生を鮮やかに描いている。現在の端島の姿がCGによって再現された過去の端島に切り替わっていくとき、みるみる色付いていくのが素晴らしい描写だと思う。
物語の主題は「ラブ」だけど、それだけじゃない。ひとの生き様をしっかりと描いているから、フィクションなのに薄っぺらさがどこにもない。すごいな。こんな厚みのある物語、書いてみたい。
話が逸れた。ともかくこのドラマ、人間を中心としつつも端島のこともきちんと描いていてドキュメンタリーのような部分もあり、めっちゃすごかったってこと。勉強になりました。
決して円満な終わりではない
それもまたこの作品の語るべき魅力だと信じてやまない。
海に眠るダイヤモンドのエンディングは、端島に生きたみんなが幸せになれるハッピーエンドではない。未来視点にある前提からしてハッピーにはなり得ない。
メインキャラクター達だけでも、引き裂かれた鉄平と朝子はもちろん、賢将と百合子は墓までもっていかねばならないことをそれぞれに背負っていたし、進平は不幸な事故で死んでしまうし、リナは罪悪感を抱え続けていた。虎次郎さんも、こんな形で朝子と結ばれたいと願ったことはないはずだ。
鉄平と朝子だけにクローズアップすると、せめて再会できていれば、せめてわだかまりがもっと早くに解けていたら、せめて、せめてあのギヤマンが、朝子の手に渡っていたら……と、願っても叶わなかった幸運が山ほどある。
最終話でわたしは、まず遣る瀬無さに涙した。過ぎた時間はどうにもならない。人は未来でも過去でもなく、今このときしか生きられない。鉄平は生きている間に、たくさん願いはしただろうが、見合うだけの救いはなかった。望まなかったとも言うだろう。
叶ったのは朝子の都合のいい夢の中でだけ。でもその夢をみたという事実が、あの日の朝子の想いだけは救われたということの証左になっている。
あの、存在しなかった告白のシーンがあったから、わたしは最後に「良かった」と思うことができた。時を経て確かに、ささやかな花はその価値を知る人のもとに届いた。
どの事実を切り取ってもハッピーエンドには見えないのに、最後はあまりにも明るく希望に満ちている。King Gnuによる主題歌の「ねっこ」が、その希望を届けてくれる。「ねっこ」はこのドラマに欠かせない存在だった。もうひとりの主役というべきか。
序盤は一見して本編との関連が見えない、ただ泣かせにかかる曲と思わせて、最終話まで引っ張って引っ張ってしっかり「誰の曲か」をわからせてくる。泣いた。今も泣いてる。
こんな奇跡みたいな救いがあるのは、やはりドラマだからだなあと思う。無常な現実を描いている中に見える一筋の光。躊躇ういづみさんを引っ張ってそこへ導いていく玲央は、やはりヒーローの枠なのだ。かっこいいぞ玲央。最後は本当にもう、かっこいいところしかなかった。
鉄平……玲央……いづみさん……朝子……とぐるぐるしながら永遠に泣けてしまうのだけど、結局のところわたしが一番好きなキャラクターは虎次郎さんである。みんな好きなんだけども。
自分の愛した人が未来で救われることを、彼なら死後にも祈っていそう。鉄平と朝子の恋物語がハッピーエンドで終われなくても、朝子が気張って生きることができたのは、他でもない虎さんという家族がいたことも大きいと思う。マジでいいひと。
誰かのために心から祈れるような、素敵なキャラクターが多いのもこのドラマの魅力だと思う。タイトルにある「ダイヤモンド」の意味は、石炭のことだったりガラス瓶のことだったりと色々あるが、人々の真っ直ぐな生き様のことも表している。
玲央の「俺もダイヤモンドが欲しい」は名台詞。玲央もやっぱり好きだなあ。「あの夜の朝子さんを迎えに行こう」なんて言葉選びは玲央だからこそ輝くというか。
いいキャラばかりだった。みんなダイヤモンド。
また今夜も最終回を流し、「ねっこ」を聴いて泣いている。こんなことは初めてでどうしたらいいかわからない。
この作品がもっと評価されてほしい。繰り返し観ても面白いし胸にジンとくる。主軸がブレない、制作スタッフと役者さんの確かな実力につくられた名作だと思う。
特番で一挙放送とかしてほしいな。何度でもドキドキするだろうし、何度でも号泣すると思う。
あー、いいドラマだった。これからもずっといいドラマだな。大好き。