自作キーボード配列「KER」を得るに至るまでの話。
前回のOTM配列からまだそう経ってもいないが、使っていくうちに不満が出てきたのと、自分の癖をだんだん理解できてきたので、改めて作り直した。まだ完璧とは言えず暫定ではあるものの、一応実用段階に入ったので、どういう試行錯誤があったのかを記録しておく。
OTMの反省点
最高の配列だなんだと抜かしておきながら、実際に使ってみると様々な問題があり、習得しつつある段階で手をほんのちょっと痛めた。いやQWERTYよりは断然マシで、単に慣れていなかったのもあるけど。
実際に何が足りていなかったかと言えば、わたし自身の手の癖と、運指への考慮である。OTMは頭には配慮していたので覚えやすかったけど、覚えやすいだけだ。あのQWERTYすら覚えれば見ずに打てるようになるのだから、長期的に考えれば覚えやすさはそんなに重要ではない。
OTMは一応、日本語における各ローマ字の出現率などをある程度は考慮した配列なので、指への負荷もちゃんと分散しているわけだけど、それだけでは足りなかった。指を動かす順序、脳から指先への神経伝達速度の違い、左右の手の筋肉のバランス……考えるべきことは山ほどあった。
そんなわけで、改良ではなくイチから作り直す必要ありと判断した。そして作り直した。これをOTMの正当進化として、KER(けーいーあーる/かえる)配列と名付けた。
手の癖を知り、アルペジオを知る
まずはメモ帳などを開き、ハッカーの真似のつもりで何も考えずにカタカタと打ち込んでみる。そうして打ち込んだ文字列から統計をとったりすれば、自分の手はどのキーが打ちやすいのかが浮かび上がってくる。まあわたしは面倒だったのでしなかったけど。もうだいたいわかっていたので。
手の大きさや指の長さには個人差があるはずだ。とりあえずわたしは人差し指より薬指が長いので、人差し指トップ行の位置(QWERTYでいうRとU)よりも薬指トップ行(QWERTYでいうWとO)の方が確実に押下できる。自分専用の配列づくりで主要なキーの配置を定めるためには、こんな風に優先順位をつけていくとよいとされる。
そうこう考えているうちに、実は小指って使わないほうがいいのではという結論に至った。QWERTYでもA薬指派の人がいる、つまりそういうことである(わたしは小指でとってたけど)。小指を浮かせてホームポジションをとると、重心が人差し指と中指のあたりにきて姿勢が安定する。そのうえ短い人差し指の可動域を広げられるので、無理なく触れるキーが増やせるというわけだ。欠点を補う方向性ということになる。
キーを置く場所が決まったところで。次にやったのは、隣接する2本の指で「タタッ」「タタッ」とリズムよく叩いてみる実験。どの組み合わせ、どの順序が心地良く素早く正確に打てるかを調べていく。
たいていの人は人差し指から中指、薬指、小指……と外側に向かっていくと綺麗に打てるだろう。小指と薬指が逆転する人もいるかも。しかしわたしの場合は、左手は内から外へと順に流れるが、右手に限っては何度試しても薬指と中指が逆転する。人→薬→中→小という奇妙な流れだ。あるいは小指始動が最も打ちやすいまであり、謎が深まる。
こういった「ロールオーバー打法」、もっとカッコよく言うならば「アルペジオ打鍵」に、今回は着目している。この実験はそのための事前調査である。日をあけたり場所を変えたりして何回もやった。右手がこんなめちゃくちゃとか思わんやん……。
アルペジオ打鍵とは、押したキーから指を離す前に隣接する列にある次のキーを押すという、高速な打法のこと。実質1打で2~3打できるようなもの。とてもお得だし、なにしろ覚えやすい。QWERTYでの「さ」「こ」「じ」辺りの、打つときの思考がゼロで済むあの感じ。自然な打鍵が可能なため、指への負担も減らせるかもしれない。適切に並べていけば、「ない」とか「そう」みたいな頻出語も気持ち良くアルペジオできるようになる。
先の調査結果をもとに、ローマ字入力において頻出の語たちを、なるべく手の内側から外側に向かって入力できるよう、優先順位をつけつつ配置していく。これはかのDvorakに始まる理論配列タイピング界隈のスタンダードである「左右交互打鍵」とは、実質的に正反対の手法となる。左右交互を高く評価するKeyboard Layout Analyzerのスコアを著しく下げてくるが、気にしてはいけない。KLAはそもそも古いということだし、実際にアルペジオが打ちやすく速いのは身にしみてわかっている。
こうしてできあがったのが、こちらの配列。

色付き箇所がホームポジション。小指は浮かせているのでホームなし。基本的には人差し指で子音を打ち、中薬で母音を打つ。同指の連続稼動をなるべく避けた配置にした。
あい、えい、おうといった頻出の母音連続を軸に、繋げやすい子音を同手へ配置。本当はDはAやEがある側が望ましいとか、RはUと繋げたいとかいろいろあるものの、ただでさえ働き者な人差し指の負荷分散のためにこうなった。
というのも、Nが曲者なのである。Nは子音でありながら、「ん」のときには母音に代わって打ち終わりとなる。そのため同指に他の子音があると、「ほんとう」や「こんど」など、同指連続稼動が多発する。ただでさえ常にNNと連打しがちなのに、これはよくない。なのでなるべく「ん」から連続しない子音を隣接させた。RとMあたりが鉄板のお隣さん。
まあ、アルペジオに特化しすぎると、それはそれで単語単位で打ったときに強烈なジャンプを含む悪運指が出てきてしまう場合があるので、このくらいがよい塩梅ではないかと思う。ケロッケロッと左右で鳴く2匹のカエルのような、そんな配列。
無拡張ローマ字左右非分離型配列、といったところのKER配列。自分用に最適化しているため、UとOの並びなど人によっては受けつけない部分もありそう。というか今も絶賛改良中なので、自分でも「なんだこれ……」となることが多々ある。方向性は決まったかな、というくらいの段階。
現状で少しだけ感じている利点といえば、「母子左右分離配列よりQWERTYとの両立がしやすいかもしれない」ということ。QWERTYもKERも非分離配列なので、感覚的に近いものがある。頭の同じところを使っているというか……ともかく、OTM配列を使っていたときはQWERTYキーボードがまるで受け付けられなくなったのに対し、KERを使っている今はそうでもない、というのは事実っぽい。あくまでも自分の感覚だけど。
そういうわけで、KERはなかなかいい配列だと思う。語りたいこだわりがまだあるので、もうちょっとだけ語っていく。
目指す境地は「無駄のない無拡張」
そもそも「拡張」とはなんぞやという話。正式名称かはわからないが、ひとまずわたしはそう呼んでいる。主にQやCなど、日本語ローマ字入力においてはおおよそ使われないキーを、「ん」や「あい」「おう」などの入力に置き換えること。打鍵数を根本的に減らせるため、おいしいことこの上ない。
だけどわたしの配列は現状、無拡張であることにこだわっている。日本語の文中でアルファベットを打つことも多いし、SKK使いなので安易に潰したくないというのが主な理由である。というかSKKとレイヤーで拡張してるからいらないというか。
ともかく、本来あるキーだけで勝負したい。わたしの頭はすでにローマ字入力+SKK+レイヤーによる拡張で完結しているので、これ以上覚えることを増やしたくない。なのでこのKER配列は無拡張だけど、環境でいえば拡張もしているといった状況にある。
では、KER配列単体でみたときの「ローマ字入力に不要なキー」、特に小指ホーム位置に陣取るCやLは、完全な無駄でありダミー的存在なのかといえば、違う。Lは小書きに使うので元々無駄ではないけども。
ここに彼らを置いたのにはちゃんとした理由がある。CとLは日本語ローマ字入力ではほぼ出番がない……しかし、英単語の中では結構出てくる方だ。つまりKER配列は、小指を浮かせれば日本語に、小指を置けば英語にも対応できる、二面性をもったバイリンガル配列なのである。
……いやちょっと盛ったな。主要キーを僻地には追いやっていないというだけで、実際英語のタイピングにバリバリ強いといえるほどではないと思われる。ただOTMよりはいくらか意識しているよ、という話。
ちなみに小書きにXではなくLを使っているのは先述の通りだけど、CのほうはSKKでカナ変換キーとして設定している。なので日本語打ってても普通に出番はあったりする。Vも記号の類を出すために拡張している(v.で…など)ので、日本語における小指列は小間使い的な立ち位置といえる。縁の下の力持ち。
清濁の並びも比較的美しく、だいぶ無駄のない配列になっていると思う。実際にタイピングしていると、思った以上に人差し指が忙しかったりはするのだけど。あとやっぱりアルペジオが気持ちいいね。「はいれつ」なんて実質3打鍵で打てるようなもの。「れいとう」とか実質2打鍵。これは慣れたら爆速になる予感がする。
手の負担に関してはまだなんとも言えないけど、正直左右母子分離型と比べてしまったら、より疲れる部類にはなるのかも。負荷がどうしても偏ってしまうのは事実なので。そこはアルペジオの快適性と、人差し指のポテンシャルに賭けたいかな。
ふと思ったのだけど。指の疲れの原因は、スイッチがリニアからタクタイルに変わったのもあるかもしれない。Deep Sea Isletを買うべきか……キーキャップもほしいな。ロープロファイルは選択肢がなさすぎてしんどい。
キーボード、沼が深すぎる。理論配列は正解が存在しないし、スイッチもキャップも気分やコンディションで変えたい。理想を求めすぎてはキリがない。お金も時間もすっ飛んでいってしまう。
ということで、今はこのくらいにしといてやろうという気持ち。KER配列は統計もある程度とった上で作ったし、OTMより完成度は高くなっている。着実に進歩していると思う。
かな配列とか行段系とかもいずれ試したいところだけど、極めだしたらほんと終わりがないな。どうしよう。ぼちぼちやります。