性被害の話があります。
道を踏み外せばすごい勢いで炎上する昨今と違って昔はいろいろ緩かったなと思う。自分が初めて同人誌を買った頃は奥付けに作者の住所本名が載っているのが当然だった。そして倫理観から外れた行いも開けっぴろげに描かれることが今より多くて、フリートークで電車の駅の施設で無断で充電行為を行ったりなどの漫画も読んだりした記憶がある。この行為はもちろん盗電であり犯罪だ。漫画内で「駅の電気を盗んでいる」というセリフがあり、良くない行為だという自覚はあれども軽い気持ちなのが感じられた。昔よりモラルの低い行為を安易に発表してしまうのは、ごく一部の人しか見ない紙の本ではわざわざ咎める人が少なかったからではないかと思う。
当時、とあるジャンルに今で言う沼に落ちた状態だった自分は、一人の作家の本を熱心に買っていた。ジャンルは二次創作で少年漫画の男同士のカップリングだった。その作家は人気があってインテではいつも壁にいたと記憶している。その作家の本の一つに「過去に痴漢にあったことがある。小指で自分に触れてくる男性がいて、何が楽しいのかわからなかった。しかし自分も気持ちがわかるときがきた。電車で座席に座る小学生の男の子が好みだったので隣に座って小指で膝裏を撫でてしまった」といった内容のエッセイ漫画が掲載されていたことがあった。自分がその漫画を読んだとき、どういった感情だったかははっきり覚えていない。そのあたりからこの作家の本を買うのはやめてしまった。作家はその後、プロの漫画家になった。何年経ってもその痴漢告白漫画のことは頭の中に残っており、作者のコミックスや掲載誌を見ると、あれを描いてた人だなあと思った。
それから何年も経った後のこと。上記のジャンルとは全く関係のない、とあるカップリングのアンソロが作成されるという情報をTwitterで見かけた。最近遊んだゲームのキャラクターたちのアンソロだ。この二人は私も好きだし気になるな…そんな気持ちで参加者の名前を順番に見ていると、件の作家の名前があった。ブワッと変な汗が出た。当然痴漢告白漫画のことを思い出したからだ。あの漫画を初めて読んだときより強い嫌悪感があった。理由はおそらく、今の自分に被害者の少年と同じ年頃の息子がいるからだ。当事者意識があの頃よりできているのだろう。他の参加者はこのことを知っているのだろうか?過去のこととはいえ、自分だったら同じ本に載るのは抵抗があるな…と思い、思ってからこの記憶は本当に正しいのだろうかとも思った。なんせxx年前の記憶だ。本の現物はもうないし自分自身で確かめることはできない。ただ大手サークルの作家だったので、私の記憶が間違っていないのならば、このことを覚えていて言及している人がそれなりにいるのでは?そう思って検索してみた。そして一件だけ、Twitterでこのことに触れているアカウントがあった。たった一件しかなかったのは意外だけど、自分意外でもこのことを覚えている人はいたのだ。
アンソロの購入は見送った。執筆陣の中には支部でフォローしている漫画描きさんがいて読みたい気持ちはあったが、件の作家の作品を目にしたくなかったからだ。別に作家を糾弾したいとかそういう気持ちはない。法的にも時効だ。ただこのモヤモヤをどこかに書きたかった。被害者の男の子(もうとっくに成人しているでしょうけど)は心の傷を負っていないといいな。