誘導員の赤鬼さん

inuinui
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年末年始、久しぶりに実家に帰った。年末こそ友人と会ってお酒を飲んだりしたものの、本当の年末年始…12月の31日だとか、1月1日だとかは特にやることがない。本当は年の瀬にやることなんていくらでもあるんだと思うけど、やる気が起きないのも含めて……やることがなかった。

テレビの前のソファに陣取って、バラエティ番組の再放送(年末に、その年の年始のバラエティ番組の再放送をするのはなんでなんだ?)とピクミン4を行ったり来たりするだけの僕を見かねてか、両親が買い物に誘ってくれる。ちょっとそこらのスーパーに行くだけだけど、家を出るだけでさっぱりした気持ちになれる。

スーパーの駐車場に入るとき、誘導員のおじさんを見て両親が「今日は赤鬼さんやねえ」と話している。おっ、ラッキー、くらいの乾いたテンションの上がり方だ。なんでも、いつの年かの節分のとき、その誘導員のおじさんが赤鬼のお面を頭の後ろにつけたまま誘導していたのが印象的で、ふたりの間でそう呼ぶようになったんだそう。寒さに晒されてか、ピシッと引き締まった表情をしている赤鬼さんからお茶目さは感じなかったけれど、「赤鬼さんは判断も的確やから」「下手な誘導のひともいるけど、赤鬼さんはテキパキしてる」と、両親からの信頼は厚いらしい。

日常にいる他人に愛称をつけて褒める、という行動をしている両親を見て、少しホッとした。「私らは人が苦手やけど、あんたは不思議なくらい人好きに育ったね」とよく言われるけれど、両親だって、世界にあるものや近くにいる人の愛で方を、当たり前のように知っている。なんだ、楽しく暮らせそうな人たちじゃないか、良かったなあと思う。世の中が暗く辛くなっても、こういうふうに身に染みた「愛で方」は、滅多に失われるもんじゃないから。