実写『カラオケ行こ!』所感(※ネタバレ含む)

狗也
·

本当は普段使っているSNSでちょろっと感想を言うに留めたかったのだが、鑑賞後、改めて原作漫画を読み返し、ほんの少しだけ思うところがあったので備忘録的に所感を書き留めておく。

予め言っておくと、私は和山やま先生の熱狂的なファンでもなく、続編の『ファミレス行こ!』は未読だ。また『カラオケ行こ!』にBLを求めている訳でもない。悩める中学生・聡実くんと、距離感がバグっているヤクザ・狂児の遣り取りや二人の関係性の付かず離れず感が好ましく、また漫画の淡々としつつもメリハリのあるテンポを面白く感じている。ファンの間では一時、作者自身がBLを前提にして書いたとの噂が流れたようだが、真偽は不明である。私もその話は旧Twitterで見かけたに過ぎない。

私はBLも嗜むタイプのオタクではあるが、『カラオケ行こ!』に関しては作品紹介にもあるように“奇妙な友情”の顛末を面白く感じている為、聡実くんにも狂児にも、そういった視点を向けてはいない。個人の所感と価値観なので本当に許されたい。前提はこの辺りにしておこう。

どうして映画を観に行ったかというと、脚本が野木亜紀子(『アンナチュラル』や『MIU404』等を手がけた脚本家)だったからだ。前述したドラマが大好きだったし、綾野剛が狂児役は些か不安もあったが、距離感のバグり方と言動はしっくり来るだろうな、という期待も大きかった。聡実くん役はオーディションで選出された子だと聞いてもいたし、歌唱力を前提とするなら妥当だなとも感じた。俳優さんに関する先入観が無いのは、いっそ期待すら持てる。

実写映画化が報じられた当時、旧Twitterで私が確認出来る、一部のファンからは嘆きの声が多かったように思う。まあでも漫画作品の実写化は大抵最初そんな感じだ。期待値が極端に低い。2.5次元の舞台やミュージカルとは違う反応だとも感じる。私だってジョジョ4部とBLEACHが実写映画化した時はめちゃくちゃ頭を抱えた。こわくてまだ観られていない。実写化で拍手喝采したのはるろ剣と、NHKドラマの岸辺露伴、NETFLIXで配信してるONEPIECEくらい。いやごめん、あと映画刀剣乱舞-継承-も足してください。まだあるかな、いやでも拍手喝采はこれくらいだと思うな。うん。

ある程度実写化に慣れてくると、原作の起承転結やキャラクターのビジュアルなんかが“原作通りじゃない”ことにも慣れてくる。ドラマや映画は漫画と同じように進行出来ない。だからコマとコマを繋ぐシーンも追加されたり別の場景になったりするし、自然な流れになるよう台詞を足したり削ったりなんかが出てくる。もうこれは仕方ないと言うか、表現媒体が違うのだからそうなるものだと頭の片隅に置いておいた方がいい。ただ、そういった加味された部分が、原作のシナリオや雰囲気、キャラクター性を損なわず、寧ろ魅力や解釈を深めてくれるなら万々歳で、しくじった場合は非常に苦々しい思いをする。

今回の『カラオケ行こ!』は、そういった実写化における前提を踏まえた上で言うなら、全く原作通りではない。

シナリオは勿論のこと、狂児を始めとしたキャラクタービジュアル(特に祭林組側)は俳優のビジュアルを活かす方にシフトしているが、違和感はさほど無い。組長はもう少し壮年の男性俳優なのかなと思っていたら北村一輝で、愛人のカツ子も北村一輝ぐらいの年齢になっていた。でも違和感が無いんだよな。ボイトレに通っていた狂児のアニキ・小林は橋本じゅんで、漫画通りのビジュアルなら組長と小林は逆なんじゃないか?とも感じるけど、ももクロ歌ってる橋本じゅんが見られるのはこれだけだろうな……とキャスティング等の疑問はさくっと消えた。橋本じゅんが好きなので。綾野剛だってそうだ、外見は狂児じゃないけど言動も表情も『成田狂児』なんだから、もう何も言うまい。綾野剛があんなにたくさん歌って絶叫してるところ見たことないよ。楽しくなっちまったよ。

聡実くんの周囲、合唱部の面々や家族に関しても原作とは異なっている点が多い。一番真っ先に「あれ?」って感じるのは後輩の和田かな。いや顧問の木村先生かも。木村先生はそもそも出て来ない、確か産休だとかで代打の森本先生と松原先生になってる。でもとにかく先生が違うし、和田くんはもう少し、中学二年生ぽい男の子になってた。原作読み直したらだいぶ大人しくて、あ~この違いは気になるかもしんないな、とも感じる。ただ、物語の進行や聡実くんの歌に対する姿勢や考え方の変遷を思うと、和田くんがより年下ぽく、中学生らしく描かれているのは良い変化だと思うんだよね。あと、聡実くんのお兄ちゃんは出て来ない。まあこの辺りは分かる。登場人物の取捨選択はあるからね。

シナリオに関して言えば、ありがとう野木亜紀子、がまず口から出る。先述したが、物語の進行は原作通りじゃない。不自然さを無くす為に丁寧な描かれ方もするし、逆にばっさり無くなった場面もある。いちご狩りの下りとか。聡実くんが狂児から「来たらアカン」と言われていたヤクザのシマ(実写ではミナミ銀座という繁華街になってる)を訪れた理由も、実写化で追加された聡実くんの要素、“映画部の幽霊部員”としてのシーンから足を運ぶようになっている。この辺気になる人も居れば、気にならない人も居るんじゃなかろうか。

個人的には、『悩める中学三年生・岡聡実』の性格や人間関係を漫画よりも仔細に、より深く知られたような気分になったので嬉しかった。合唱からの逃避先で思春期らしい悩みや疑問を同級生と淡々と交わすシーン、年頃の男の子だなあと感じたし、そういう中学生らしい場面は狂児らヤクザの面々と接していると出て来ない。日常と非日常での応対や言動の差異が分かりやすい。古いビデオデッキで往年の洋画を観てる場面、何かのオマージュなのかな、とも今更ながらに感じる。

あと何かあるかな。ああそうだ、私はキャスティングをほとんど知らずに観に行ったから、狂児の母親と祖父がヒコロヒーと加藤雅也なの、めちゃくちゃびっくりしたんだ。でもすごくしっくり来た。こんなところかな。いやごめん、あともう一つだけ。ヤクザ達のカラオケ曲が結構2019~2020年辺りのヒットナンバーを含んでたのも面白かった。まさか米津玄師の「Lemon」入ってると思わないじゃん。

ここまで来て、結局何が言いたいんだ?と首を捻っているが、実写『カラオケ行こ!』はより人間性を重視して丁寧に描かれた、楽しい映画だったよ、と書き残しておきたかった。齋藤聡実くんの『紅』を是非聴きに行ってほしい。そこに至るまでの、漫画とは異なるけれど中学三年生の男の子が過ごした葛藤と諦観の日々や、狂児との付かず離れずの様々な遣り取りが、全部歌声に詰まってる。あの場面、めちゃくちゃペンラ振りたかった。

うん。思ったこと、感じたことは全部書いたかな。あんまり普段映画の感想を纏めたりしないので、感想文としてはごちゃごちゃしてるだろうけども。ほんの少しのつもりが随分長くなってしまった。また映画観に行こう。それで、ちょっと勇気出して観てなかった実写化を観よう。やっぱり観ないと分からないからね。

@inuya
絵と文をたまに書く段ボール。