を見た。家の前の舗装道を、小さな、まるまると太って見える鳥がつんつんと跳ねている。内側の羽根が紅色である気もするが、遠くて、小さくて目の焦点が合わない。ぱっと飛び立つ、やはり残像が赤い。目で追いかけた先に別の二回りほど大きな鳥が、こちらは色も覚えていないが何らかあざやかに羽根をはばたかせ、薄青い冬の空を横切っていく。双眼鏡を持ってきていないことをわたしは悔しく感じていた。
現実は逆だ。わたしの通勤鞄には常に双眼鏡が入っている。鳥を見つけたらすぐに取り出せるように。しかし鳥の方を見つけられない。視野に入っていないというのが正しいのだろうか。ずっと鞄に入れっぱなしの双眼鏡は、いつしかそこにあることさえ意識されなくなり、黒いケースが鞄の底に影のように貼り付いているのを、ついさっき、見つけた。出勤する電車の中で。だから今こうして日記を書いている。書いた。満足してこれから出社する。鳥はきっと見つけられない。