役目を終えた縁を看取る

維枦八(いろはち)
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公開:2026/1/8

 大切にしていた縁が切れるとき、心の深いところが冷える。怒りでもなく、激しい悲しみでもなく、ただ、心の温度が下がるような感覚。

 頭では分かっている。

 人はそれぞれ違う人生を歩み、「今」を中心に世界を組み立てて生きている。過去の出来事や人間関係が、現在の生活の中で占める比重が変わるのは自然なことだ。

 それでも、相手にとって自分との思い出が「今の生活より小さなものになった」と感じたとき、僕はひとり取り残されたような気がした。

 自分の価値が下がったわけでも、思い出が否定されたわけでもない。かつて同じ時間を生きていたという事実が、過去へ送られただけのこと。わかっている。

 年に一度であるが、何年も続いていた二言三言のやり取り。細く長い糸だった。

 その糸が相手の言葉によって切られたとき、自分で選んだ別れではないからこそ、心はうまく受け止めることができなかった。

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 縁が切れることと、思い出を捨てることは、同じではない。

 相手が「今」を選んだからといって、こちらまで「あの時間」を手放す必要はない。

 でも今は、思い出そのものまでが冷えてしまったように感じている。触れるとひんやりして、温もりを思い出せない。

 この冷たさは、今の自分が何かを失った証拠であると同時に、あの時間を大切に生きていたという確かな証でもある。

 だから、急いで意味を与えなくていい。前向きな言葉で包み直さなくていい。「縁があればまた出会う」という言葉を慰めにしなくてもいい。

 心の奥が冷たい、という事実をそのまま見つめる。

 いつか、あの時の思い出が、再び温度をもつ日が来ればいいと思う。