図書館で勉強をした後のその帰り道で、暗い校内を歩いていると、背後にはぼんやりと月が輝いていた。今夜は曇天で星なんか一つも見えない空だけど、月明かりが雲に反射し周囲を妖しく照らしていて、夜空にぽっかりと開いた穴から月が覗いているような光景だった。
夏の夜の静けさに包まれた道を歩いていると、自分が全ての俗世のものから切り離されているような感覚を覚える。自転車で横を通り過ぎていく人すら風景の一つのように思えて、むしろ草木の隙間から聞こえる虫の声の方が感覚器官を刺激した。耳を澄ましてみるとその声にはいくつもの種類があることに気づく。僕はそれらの声の主について何も知識を持ち合わせていなかったのだけど、そのことすらどうでもよく思えた。