『シンドラーのリスト』

is_hoku
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ものすごい映画を観た.

ナチス党員でありながら,1200 人のユダヤ人を救ったオスカー・シンドラー.ユダヤ人がゲットーに収容され始めた時期に,快楽主義者で交渉が得意なシンドラーはユダヤ人を現地ポーランド人よりも安い労働力として雇い,工場を運営することで金儲けをしようと考える.この初期のシンドラーは優秀なユダヤ人とは対等の立場で会話をしているが,世間のユダヤ人に対する差別的な扱いに疑問を持つことはない.人件費が安いから働かせているし,熟練工を失いたくないから銃殺もしないというだけなので,端から見ると善人には思えない.しかし,日に日に過酷な状況に追いやられるユダヤ人達の目には,理不尽に殺されないというだけで,工場は天国に,シンドラーは善人に映る.ゲットーが解体され,彼等が強制収容所に移されると,シンドラーは所長であり気分でユダヤ人を射殺する残忍なアーモン・ゲートに賄賂を渡してユダヤ人を自分の工場で働かせるように依頼する.そこでは有能な人物を強制収容所から引き抜いて労働者を増やし,莫大な利益を生み出したが,最終的にはシンドラーの工場の労働者も絶滅収容所へ移されてしまうことになる.この時もシンドラーは交渉と賄賂で人々を工場に留まらせるように仕向けるが,以前とは違って利益のためではなく,命を救うための行動だった.そこでシンドラーが引き抜くユダヤ人の名前を連ねたものが,シンドラーのリストである.それからは,強制労働の体でユダヤ人を匿い続けるが,ついに工場は破産してしまう.そしてドイツは敗戦し,シンドラーとユダヤ人の立場は逆転する.逃亡するシンドラーとの最後の夜に,ユダヤ人達はその場にいる全員で,シンドラーを助けてほしいという旨の署名をし,シンドラーに手渡す.そして,あのラスト.最後のあの映像とメッセージで涙が止まらなくなった.

物語の序盤と終盤での鮮やかで美しい大逆転.金のためにユダヤ人を雇っていたシンドラーは命のために金を払うようになり,シンドラーが救うために書いたユダヤ人達の名前は,敗戦後にはシンドラーを救う署名となる.しかし,その過程は確かに血塗られたものであったし,これはシンドラーが善に目覚める話でも,悪の集団の中で唯一正義を貫いた英雄の話でもなく,暴力性と善性の両面を持つ人間の物語なのだと思う.シンドラーが,平時ならゲートも普通の人だろうと言っていたのが印象的だった.

残虐に人を殺すことができるのが人間であれば,自分の財産と身を賭してでも他人を救おうとするのもまた人間である.善人として生まれてくる人間はいなければ,悪人として生まれてくる人間もいない.全ての人はゲートにもシンドラーにもなれる性質を孕んだ状態で生きている.