今ほどSNSが盛んでなかった頃はオリコンチャートでヒット曲を確認しつつ、各人が自由気ままに自分のベスト10を作ったりした。音楽が主だが、漫画や映画が取り上げられることもあった(タイトルは小沢健二の「今夜はブギー・バック」から)。
15年ぐらい前だろうか、心のベスト10 第一位の映画はイジー・メンツェル監督の「スイート・スイート・ビレッジ」だった。今は好きな映画が増えすぎて、この作品がダントツ1位か?と問われれば答えに迷う。それでも大好きな映画には変わりない。
チェコの美しい小さな村。社会主義体制下での村人たちの小さな事件が描かれている。車を運転しながら詩を吟じる(そして事故る)医者が好きだったし、ラストシーンのスキップが最高だった。ペーソスとユーモアが緩やかに流れる作風は同じ監督の「英国王給仕人に乾杯!」に通じるかもしれない。
メンツェル監督作品である「厳重に監視された列車」や「英国王給仕人に乾杯!」の原作者、チェコの国民的な作家ボフミル・フラバルも名前は記載されていないが、この作品へインスピレーションを与えたと言われている。
この映画との出会いは、映画館ではなく深夜のTV放送だった。それを録画して繰り返し観ていた記憶がある。
たぶんフジテレビのミッドナイトシアターだったのでは?と思う。今でも深夜枠にこの名前で放送されているが、当時は今とは放送の仕方がまったく違っていて画期的だった。
当時はミニシアター系の映画専門で、途中CM無しのノーカット字幕スーパーで放送していた。この枠で「ミツバツのささやき」や「ノスタルジア」「狼の血族」なども観た記憶がある。
この時期に大量に様々なジャンルの映画や本に触れられたのは財産だと思っているし、そういうものへのアクセスが今よりも気軽に出来た環境があったことも奇跡的だったと思う。例えば、あの時期の渋谷パルコブックセンターの雰囲気、その空間の居心地の良さは異常だった。
話は戻り、「スイート・スイート・ビレッジ」。トラックの運転手パヴェクとその助手オチクをメインに物語は展開される。オチクには知的障害があり、仕事の失敗からパヴェクに愛想を付かされてしまう。この二人の話がメインだが、村人たちの群像劇でもあり、様々な話が展開されていく。
登場人物たちも善人・悪人とハッキリ分かれて描写されているわけではなく、それぞれが生きている日常が普通に描かれている。良いも悪いも清濁併せ吞む、その物語の起伏の具合がとても良いのである。
人生坂ありで、登り続けるのが良いという価値観もあるが、ずーと上り坂だと疲れてしまうし、逃げたくなったら逃げても良い。平坦な道を歩む、そんな成長のない人生だって愛おしい。