元のつぶやきを否定する意図はないが、こういうつぶやきをした。この場合、判断は人それぞれというのは当然だと思うが、考えてみよう。
たぶん、プログラミングが手段か目的かで考え方は変わるだろうね。僕のこの意見はどちらかというと目的に偏重していると思う。100億円あったら働かなくてもよい。お金のことを気にせずに、好きなことに没頭するという感覚。自分の場合は、プログラミングに関しては勉強するものという概念を持っていないので、こういうことが平気で言えてしまうのだと思われる。
目的か手段か
でも、ここにも書いたように、目的と手段は状況や目的によって異なる関係性を持つ。たとえば、100億円があれば、プログラミングは達成したい多様な目標の中の一つの手段になりうるが、もしプログラミング自体が目的なら、そのお金はプログラミングへのさらなる投資に使われるだろう。また、ビジネスの成功という大目的を達成するためにはウェブシステム構築という大手段が必要であり、そのための小手段としてプログラミングが必要ということはありえる。
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という話で終わると面白くないので、ここからは個人として「好き」や「楽しむ」を目的化することの善し悪しについて、もっと平たくいうと「好き」や「楽しむ」を仕事にすることについて、もう少し考える。
※上記では好きを目的にするとよさそうというようなことを書きましたが、ここからは「好きを仕事にする」は要注意って話を書きます。
孔子やジョブズの言葉は本当か
「好きを仕事に!」というと、孔子の言葉しか出てこない。
これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず。
この文章の意味するところは以下だろう
「知る」より「好き」が優位
「好き」より「楽しむ」が優位
直観として正しいように思えてしまう。
他にも以下がよく知られている。5世紀ごろに孔子が残したとされている。
自分の愛することを仕事にすれば、生涯で1日たりとも働かなくて済む
前段で書いた僕の意見もこれに近い。
つまり古くからある概念だ。今でも「好きなことを仕事にしよう」というアドバイスはよくされる。ジョブズの影響もある。前向きな言葉、ポジティブな言葉として使われることが多い。
好きを仕事にしても幸福度は上がらない
実は「好きを仕事に!」は危うい側面があることがわかっている。
によると、以下のような面白い調査がある。
2015年、ミシガン州立大学が「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」というテーマで大規模な調査を行いました。<中略>
適合派: 「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ。「給料は安くても満足できる仕事をしたい」と答える傾向が強い
成長派: 「仕事は続けるうちに好きなるものだ」と考えるタイプ 。「そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料は欲しい」と答える傾向が強い
<中略>
適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1〜5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは成長派のほうが高かったからです。
意外なことに
多くの職業研究によれば、自分の好きなことを仕事にしようがしまいが最終的な幸福感は変わらないのです。
<中略>
「好きな仕事」を求める気持ちが強いと、そのぶんだけ現実の仕事に対するギャップを感じやすくなり、適合派のなかには「いまの仕事を本当に好きなのだろうか?」といった疑念が生まれます。その結果、最終的な幸福度が下がるわけです。
一方で成長派は、仕事への思い入れがないぶんだけトラブルに強い傾向があります。<以下略>
だそうだ。
好きを仕事にするとスキルも伸びない
さらにオックスフォード大学の研究では、「好きを仕事にした人ほど長続きしない」という結論が出されている。どういうことだろう。
こちらは北米の動物保護施設で働く男女にインタビューを行った調査で、研究チームは被験者の働きぶりをもとに3つのグループに分けました。
好きを仕事に派:「自分はこの仕事が大好きだ!」と感じながら仕事に取り組むタイプ
情熱派:「この仕事で社会に貢献するのだ!」と思いながら仕事に取り組むタイプ
割り切り派:「仕事は仕事」と割り切って日々の業務に取り組むタイプ
その後、全員のスキルと仕事の継続率を確かめたところ、もっとも優秀だったのは「割り切り派」でした。<中略>
すると、好きなことを仕事にしていた人ほど、「本当はこの仕事が好きではないのかもしれない……」や「本当はこの仕事に向いていないのかもしれない……」との疑念にとりつかれ、モチベーションが大きく上下するようになります。結果として、安定したスキルは身につかず、離職率も上がってしまうのです。
想定外の状況によって疑いを持ってしまう、ということらしい…。思い込みが強いとそうなるのかもしれないが仕事は仕事だからねぇ。好きなことばかりじゃないでしょう、と思うのですが…。
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ということで「好きを仕事に!」のは多くの実験で否定されているアドバイスであり結果的に満足度を上げるソリューションにはならない、とのこと(詳しい事は『科学的な適職』を読んでみてください)。好きを仕事にしても良いけど、この言葉に踊らされて幻想を抱いて、期待値をあげすぎんな、現実をみろって話だろう。
逆説的に言えば、「好きなことを仕事にしよう!」という強い影響を与える言葉を否定するには、このような大掛かりな実験データが必要だということだろう。良くも悪くも、人を惹きつけるためにはこの種のポジティブ?なメッセージが効果を発揮してしまうことを念頭におくべき。