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jack
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1. 早起き夜更かし会について

早起き夜更かし会,別名Human Interface Design Laboratory, 別名 Interaction Design Labs, 通称ひで部,とは何か?

Twitterに代表されるソーシャル・メディア,ドーシーはTwitterはソーシャル・メディアではないと言っていたが,に参加した人が定型的にとる行動パターンを観察・記述し,特にユーザー間がコンフリクトを起こすものを解析することで,よりよいSNSのインターフェースデザインを模索する開発者やSNS好きの集まりである.

主な活動の場は,Discord上に設置された対話用サーバーである.そこには,複数の開発室,企画室,ラーニングコモンズ,研究個室が設置されている.参加者は研究個室をそれぞれ与えられ,アイデアだしや弱音はき,突発的に始まる雑談を楽しむことができる.

現在のメンバーは,12人でBluesky Socialで稼働する各種Bot,カスタムフィードの設計と開発,クライアントの開発,投稿のキュレーションツールの開発,AT Protocol開発の進捗把握,サードパーティー製ツールの把握と動作確認などを行っている.

最近のブームは,ルービックキューブである.

早起き夜更かし会はNighthavenがBluesky Social上に開設していたCommons アカウントとして出発し,ゆるやかなメンバーの入れ替えを経て現在に至っている.また,四谷ラボをリスペクトフィーチャーして,相互交流している.

Hayaoki Yofukashi Kai

2. 解題 あのレビュー

Review by Bisskey (= Bsky + Misskey)

こちら自然状態:Yo. みんなブルスコしてるかい? おいらは,紫の大型鳥類がいる村の皆の助けもあって,“青い空”に飛び立つことが出来た. ここから見える“風景”はまるで原始のtwitterだ.広告も運営によるタイムラインの意図的なコントロールもない. ベースにあるATプロトコルの可能性は未知数で不透明だ.でも,オレには見えるんだインターネットの宇宙に分散する友人たちが,共通の言語《プロトコル》で語り合っている未来が. “空”で待ってるぜ.コードが届いたらあんたも飛んでみてくれ.

(Appstore Bluesky公式クライアント レビュー)

このレビューはWhyしゃべりを具現化するために,パスティーシュ(文体模倣)の技法が用いられている.使用したのは,DJ風のスピーチスタイルと,石田衣良の『池袋ウェストゲートパーク』の主人公マコトの,ちょっとぶっきらぼうだけれど,頼りになり,自分の信念をもった語り口である.

“こちら自然状態”というタイトルは,ブルスコの当初の風景を表現すると共に,今村夏子の小説『こちらあみ子』とホッブズの社会契約説がインスパイアフュージョンされている.

ブルースカイ人(ブルルン)

3. 個とネットワークとコモンズ・アカウント

ふね【船】 に=刻(こく)して[=刻(きざ)みて]剣(つるぎ)を求(もと)む

(舟から川の中に剣を落とした者が、舟の流れ動くことを考えず、舟ばたに落ちた位置の印をつけて剣を捜そうとしたという「呂氏春秋−察今」の故事による) 時勢の移ることを知らず、いたずらに古いしきたりを守ることのたとえ。船端に刻を付けて刀を尋ねる。剣を落として船を刻む。刻舟こくしゅう。〔文明本節用集(室町中)〕

*翁問答(1650)下

「これは舟フネに刻キザミて剣ケンをもとむるの愚痴にあらずば、烏を鷺と云まどはす佞人なるべし」

(日本国語大辞典第2版 精選版)

ネットワークが遠心方向に拡大したがるのに対して,それを構成する人々は求心方向にまとまりたがる傾向があるように思う.この帳尻をあわせるためなのか,ネットワークはやがてリボン型のスケール・フリーネットワークを構成し,複数のハブユーザーに大多数のユーザーがぶら下がるかたちになる.

この構造はソーシャル・メディアにもあてはまり,結果として情報の伝達は上意下達の非対称的なものとなり,双方向の雑談が発生しにくくなる.

Bluesky開始初期に,日本のBluskyクラスタ(現ブルスコ)発生をみこして,Nighthavenは個とマスの間を媒介するようなオープンな中間領域づくりが定着することをもくろみ,これをコミュニティ・アカウント(現コモンズ・アカウント)と命名し,ブルスコ写真部やブルスコ植物園,ブルースカイ・ブック・コモンズなどの運用を開始した.このとりくみはFeedが実装されたいまも(当時,このとりくみを提案したときに運営から“Feed”じゃだめなんですか? と言われた.そのときはまだカスタムフィードは実装されていなかった)“〜部”というかたちで広がっている.また,このとりくみは後にサービスに実装されたカスタムフィードと機能の競合が懸念されたが,両者は互いを補完するかたちで利用されるようになった.

一方で,これらのとりくみから見えてくることは,素朴に時系列で投稿がながれる文字どおりの“タイムライン”をもつBluesky Socialでは一定期間コミュニティに滞留させたい情報も時間の経過と共に流れていってしまい,情報を伝えたい相手に情報が伝わらないことが増えた.

Vapor的に何かが盛り上がり,その日のうちに消えてしまう,それが起きた時にその場にいなければそれを味わえないのは素朴なタイムラインのメリットでもありデメリットでもあろう.

ここに,完全にフィードに依存しないコモンズ・アカウントの存在理由がある.フィード時代になってもコモンズ・アカウントとしてこの取り組みをつづける理由は参加者側が能動的に行った行為に対するフィードバックが儀式めいた充足感を生むからである.たとえば,ブルスコ写真部だと特定のキーワードを含んだ投稿を公式フィードに流すことは簡単なのだが,そして実際そのようにもしているのだが,一方でコモンズ・アカウントにMentionされた投稿を手作業でリポストすることによって,その“行為”《投稿》はコモンズ内のゆるやかな内的時間に刻まれる.サービスの標準的な時間の流れから特定の情報を切り取り,より“遅い”時間の流れに位置づける.身体性や空間性に乏しいソーシャル・メディアにおいて,“時間によって何かを分ける”ことは,それが“舟求剣”であっても価値ある投稿に対する過去参照性を高めることに貢献する.

4. Custom Feed とBlueskyの未来

つねづね物理空間に似た対人関係をSNSでも実現できないかと考えていて,それは明示的なフォロー関係/概念にもとづかなくとも,相手を記憶の中にピン留めし,コミュニケーションのチャンネルが開くような仕組みである.

Blueskyの醍醐味であるカスタム・フィードは“独断的なアルゴリズムからユーザーを解放する”という旗印のもと,内容については外部努力に依存することでクライアントの一要素として実装されたが,実情はSkyfeedを用いた期間限定の検索結果の表示で,ここに正規表現を用いたり,いくつかのパラメータを指定することで独自色がだせるようになっている.ただ,このしくみはプログラミングの知識があればいろいろできる(ほりべあさんいわく,何でもできる)とのことで,Intereaction Design Labsでも,ワザマエ研究員らの指さばきによってゲームブック,迷路,トレンド抽出,非トレンド抽出(u-feed)が実現されつつある(注).

とくにゲームブックや迷路フィードの力点は,ある入力となる投稿に対して異なる投稿を出力として連鎖させられる点で,わたしはこれを“ダイナミックフィードジェネレーション”と呼んでいる.

この方式をもちいた個人的な“夢”がひとつある.それはN-feedと名指されるもので,自分が行った投稿に対して関連ある(ランダムな?)投稿をその後にn個連鎖させる,というものである.

これによって,タイムラインの舟求剣状態に一定の滞留を望めるとともに,自分の投稿を見てもらうために誰かにフォローしてもらうという強迫観念から離れることができるのではないだろうか?

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*注)2023年12月13日に仕様変更があり,従前の仕様でフィードが動かなくなっているとのこと.

5. 作って面白かったFeed

ことしはいろんなフィードを作ったけど,記憶に残っているのはこのフィードだ.

種明かしをすると,このフィードはマッチさせるキーワードに“たかった。”,除外するキーワードに“ずっと|どうしても|ありがたかった|ごはん部”を指定しただけのものなのだけれど,どこか寂寥感のある心残りさを含む投稿が抽出され,フィードに“魂”が宿った事例のように感じられる.

6. ソーシャル・メディアとは何かについて示唆を与えてくれた本

もはや自分の中でソーシャル・メディアは実名で情報収集/交換のために使う枯れたメディアだったのだけれど,Blueskyへの参加をきっかけにしてハンドルネームでぐだぐだと広い意味での雑談をする機会に恵まれた.

その中で気づいたのは,テキスト空間としてのソーシャルメディアにおいては,多かれ少なかれ,投稿群のなかに自分との関連性を見いだし,自分という存在の“価値”を投稿群のなかにいかにして位置づけるかという文脈的な力学が,やはり人をソーシャルメディアに駆り立てる原動力になっていると改めて思ったことで,これは『ソーシャル・メディア・プリズム』(クリスチャン・ベイル[著],松井信彦[訳],みすず書房,2022年)に書かれていたとおりである.

ソーシャルメディア中毒のより根源的な原因は、私たちのあまりにも人間的な営みが、ソーシャルメディアによってはるかに簡単にできるようになったことだ。その営みとは、さまざまなアイデンティティーを試しては他人の反応をうかがい、自己提示を更新して帰属意識を味わうことである(57ページ)

また,『SNSの哲学』(戸谷洋志,創元社,2023年)もTwitterの文脈を前提とはしているものの,“行為としてのSNS”を考えるうえで示唆を与えてくれる本だった.

7. Public Commons for Open Conversationのゆくえ

いまだにどの言語圏でも誤解されているような感覚があるのが,公益会社BlueskyはSNSを運営することを主たる目的にした組織ではないということで,その目標は開かれた会話のための公開された共有地(Public Commons for Open Conversation)をつくることである.これを共有“地”としてしまうと,あたかもそのような場所を提供するようにとられかねないが,これは運営ブログのどこかにも書かれていたようにメールプロトコルのごときソーシャルメディア用途のプロトコルとしてのATプロトコルを普及させることが理念であり目標である.したがって,その上にのっかったBsky Socialはそのひとつの場としての現れにすぎず,2024年初頭(これはBluesky時間なのでこの初頭がいったいいつなのかはわからない)に予定されている“分散”ではこの“網”《Protocol》に接続された島の出現が予測される.だれがこの島を作るのか.

ことしのなかば(うろおぼえ)に発生したNワード事件は,この理念を背景にした技術的な楽観性から発生したコンフリクトだったが,このために歯車がいろいろとゆがんでしまった気がする(私が期待してやまなかったとあるオフィシャルな取り組みもこれで白紙になった)ので,そこからいよいよ流れを当初の方針に引き寄せ直さんとするいきごみを感じる.

ただ,好奇心と教養と文化資本と数十年単位で蓄積されたインターネット知識を備えた限られたユーザーたちが醸成したHavenとしてのブルスコが“今”の状態でありつづけることは段階的に解除されていく気がしている.

So far So good.

@jack
こんにちは.日本のブルースカイ研究家のおじじです. bsky.app/profile/moja.blue