On Nostr

jack
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[アドベントカレンダー12/13]

きっかけ

ことしの2月にDamusという新しいSNSが始まったというニュースをどこかのブログ記事で知ってさっそくインストールしたところ,DamusはNostrというSNSに参加するためのクライアントであることをあとから知った.このあたりの手探りな感じはおもしろく,その時は本当にDamusというSNSが始まったと信じていたわけである.けれど,周囲の投稿を眺めているうちに,どうやらNostrというプロトコルのひとつの姿としての“Nostr”と呼ぶべきSNSがあるらしいということが理解できたわけである.

得体の知れなさ

Nostrには得体の知れなさがある.原作者が何者かがわからない.気づいたころには多くの開発者がコミュニティを形成している.グローバルな規模の大きなイベントが開催される.

SNSなのだけれどユーザー間で対話が発生せず,淡々と自己完結的な投稿が並ぶのも不思議だが,これはアーキテクチャとしてのNostrがもつ特性なのか,利用者の性格によるものなのか判断がつかない.

魅力

比較対象となるX(旧Twitter)が制度的にもアーキテクチャとしても中央集権的であるのに対し,Nostrは制度的に責任の所在が不透明でそれをリレーによるアーキテクチャが担保している.このアナーキーな感じが開発者にとって魅力なのか,仕組みが素朴なのか,このプロトコルを用いたサードパーティー製のさまざまな様態(クライアント,オセロや掲示板のような変形的サービス,まとめツール,チャットルーム,Instagram的サービス,検索サービス,etc.)が生み出された.

クライアント

一方で,クライアントに決定版と呼ぶべきものがないのではないか.また,UIの品質や操作感の一貫性についてWebクライアントとスマホ向けクライアントで差があるように思われる.個人的に好きなWebクライアントはirisだったのだが,何度かのアップデートを経てよくわからないポップなデザインに変わってしまった.シンプル&クリーン&カワイイなデザインをもつクライアントとしてはnostterが現時点で完成度が高い.

コンテンツジャンルの拡張予測

Nostrを新興SNSとみなしたときに,初期状態から安定状態に移行するなかで,ユーザー数の増加と共に扱われる内容も拡張し変容していくと考えていた.その方向性はSTEM>LIFE>CULTUREである.つまり,初期段階では開発者がメインユーザーとなるだろうから技術的な話題がタイムラインの中心をしめる.その後,利用者の実生活に関わる話題が増えていき,やがて多様な領域に属するユーザーの増加に合わせてこれら以外の人文系や芸術系についての文化的な話題や政治経済にかんする話題が展開されるのではないかと予測していたが,スケールが足りないのか,スケールしてもアーキテクチャの特性上小さくまとまらざるを得ないのか,話題はSTEMやLIFEにとどまっている気がする.

文化

既存のSNSと比較したときに見られるNostrに特徴的な文化はZap経済圏の模索であろう.微々たるものではあるものの,実際の貨幣価値をもつトークンをLikeの代わりにやりとりできることは,ソーシャルメディアに投稿される情報に別の評価軸を与えることを可能にした.したがって,AppleによるDamusのZap機能つぶしはこれに冷や水をかぶせるかたちとなった.

未来

今後Nostrにアドバンテージがあるとすれば,どこかで何かがあってもリレーがひとつでも生き残っていればネットワークが維持できるところにあるのだろう.これは理想的なインターネット性を体現していて,単一障害点が生じにくい設計思想である.フィード読み込みの表現がもう少しスマートになり,クライアントのUIデザインが何らかの形で標準化されれば,Nostrはウェブ上で竹林のごとく貪欲に勢力を拡大しうる仕組みだと思う.

@jack
こんにちは.日本のブルースカイ研究家のおじじです. bsky.app/profile/moja.blue