日々、僕は駅に通い続けた。
ノートに文字を書けば書くほど、彼女の姿はぼんやりと浮かび、消え、また現れる。
言葉にならない思いも、悲しみも、少しずつページの中に吸い込まれていった。
ある朝、駅のベンチに座ると、いつもの冷たい風に混じって、ほのかに甘い匂いがした。
振り向くと、彼女がそこにいた。
昨日までの影とは違い、笑顔がはっきり見える。
「来てくれたんだね」
僕は何も言えず、ただ手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、彼女は淡く光に溶けるように消えた。
でも、暖かさが手のひらに残った。
ベンチの上には、最後のページに小さな文字が残っていた。
「ありがとう」
僕はノートを胸に抱え、駅を後にする。
世界は昨日と同じようにざわめいているけれど、もう孤独じゃない気がした。
ノートの白紙は、これからも僕と一緒に歩くためのページになった。
遠くで電車の発車ベルが鳴る。
僕は少しだけ微笑んで、歩き出した。
風が髪を撫で、温かい光が駅を包む。
それは、彼女が残してくれた、ささやかな奇跡の証だった。