「白紙の駅」(完結)

jasper
·
公開:2025/8/15

日々、僕は駅に通い続けた。

ノートに文字を書けば書くほど、彼女の姿はぼんやりと浮かび、消え、また現れる。

言葉にならない思いも、悲しみも、少しずつページの中に吸い込まれていった。

ある朝、駅のベンチに座ると、いつもの冷たい風に混じって、ほのかに甘い匂いがした。

振り向くと、彼女がそこにいた。

昨日までの影とは違い、笑顔がはっきり見える。

「来てくれたんだね」

僕は何も言えず、ただ手を伸ばした。

指先が触れた瞬間、彼女は淡く光に溶けるように消えた。

でも、暖かさが手のひらに残った。

ベンチの上には、最後のページに小さな文字が残っていた。

「ありがとう」

僕はノートを胸に抱え、駅を後にする。

世界は昨日と同じようにざわめいているけれど、もう孤独じゃない気がした。

ノートの白紙は、これからも僕と一緒に歩くためのページになった。

遠くで電車の発車ベルが鳴る。

僕は少しだけ微笑んで、歩き出した。

風が髪を撫で、温かい光が駅を包む。

それは、彼女が残してくれた、ささやかな奇跡の証だった。