Heartbreak High S2感想

sky
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大好きなオーストラリアの学園ドラマ、Heartbreak HighのS2、1回目(S1は10回ぐらい見た)を完走したので感想を書く。

S1の細かい伏線が回収されてて感激。大笑いした。これに関しては後半で。

変わるもの、変わらないもの、変えられないもの

S2の大きなテーマは「変化」だったと思う。

ローワンという転校生の登場から、マラカイのセクシュアリティの気づき、カムロードが主張する「男が虐げられている」社会まで、いろいろな規模感の変化がさまざまな形で描かれている。その中でも変わるものと変わらないもの、変えられないものが万華鏡のように現れる素晴らしい群像劇だった。

"I wanna be better"

大きな主題の中で特に印象的に様々な登場人物の口から繰り返されてきたのは "I wanna be better"という言葉だと思う。Heartbreak Highの好きなところは登場人物が全員徹底的に救いようのないほどめちゃくちゃな人間であるということ。Fワードの登場回数も異常だし(これに関してはオーストラリアだからかもしれない)、互いにとてもクリエイティブな表現で悪意のあるあだ名をつけて罵り合うし、全員いろんな方向に盛大にしくじる。にしても毎回なんでどいつもこいつも一体どうして行動の帰着を想像せずに友達の元恋人とセックスしてしまうんだ

それでも、エメリーは良い人間になりたい、償いたい、という動機から生徒会長に立候補する。元カレのマラカイの元カレであるローワンとくっつくというマジで何をしているんだ??というやらかしをしつつも、エメリーは変わるための努力を惜しまない。

今回、その「変わりたい」という願望を抱くキャラクターとして、スパイダーが登場する。スパイダーがこのストーリーの中で大きな役割を持つことになるとは正直想像していなかったから新鮮だった。

S1からなるべく関わりたくない典型的なインセルシスヘテ白人男、つまりdickheadとして悪名を馳せていたスパイダーは、男が虐げられていると主張するインセル集団のカムロード(=CUMLORD ひどすぎる)のリーダーとして仕立て上げられる。SLTクラスでも問題を起こしまくっていたその振る舞いは、実は男を徹底的に嫌悪する母親によって自分の存在を否定され続け傷ついた心を隠すための隠れ蓑だったという展開。父親が不在の家庭であるということが繰り返し仄めかされていたけど、母親が離婚した夫を憎むあまり自分の息子が夫の影写のように感じられて耐えられない、という背景があるのかもしれないと思った。

スパイダーは最悪だし、許容される振る舞いではないけど、インセル化する男性が女性を憎む背景に、男らしさが即ち悪であるという歪んだ教育によって受けた傷と弱さを隠すために強さを鎧のように纏おうとするから、という解釈はすごく腑に落ちたし、そういう視点で男性のvulnerabilityを描いたのは画期的だと思った。

メタ的な話をすると、役者のクソ野郎演技が素晴らしい。カメラを止めた時に「え、めっちゃクソインセルシスヘテ白人男だったよね今?!めっちゃリアル〜!!最高の演技!!」って盛り上がってる姿を想像して見た。その演技をするためには、クソインセルシスヘテ白人男の有害さを俯瞰して理解する必要があるからだ。こいつマジでやべ〜〜!!と感じるほど、逆にこういう演技ができる白人男性の役者がいるという現実に感激する。虚勢を張ることで隠している傷ついた表情、目の中の戸惑いや迷いがちらりと垣間見える演技も素晴らしかった。個人的にMVPはスパイダー。

役者の名前はBryn Chapman Parishさん。フランスで生活していたことがあるっぽい。だからフランス語話してたんだね。

セクシュアリティの流動性

マラカイはS1の時点でハーパー、ダスティとの3Pを経て男性に対する性的惹かれを経験し混乱している様子(シャワー室で裸のダスティを想像してるシーンとか)が描かれていたけど、そこから特に何もなくS1は終わってしまったから、S2でしっかり回収されて嬉しかった。ローワンとの地下壕パーティーでのシーンでTroye SivanのMy! My! My!が流れてた時点でもう完全に理解しました。Heartbreak Highは演出もいい。にしてもすごい速さで関係が進んでいって即別れてたのはちょっと笑った。

アボリジニであるマラカイがsisと呼んで慕う、サーシャの元カノ、ミッシーがバイであるという設定はS2で初出しだったので、観客としてはびっくりしたけど、そういえばS1の学校占拠シーンで "Sasha broke my heart so bad. But now I'm like, white boys"と嘆いていたから、スパイダーに対する惹かれはそこの伏線回収だったんだと思う。一体どこまで今の時点でお話ができてるんだろうな〜。全部見たいよ〜〜お願いだから打ち切りにならないで〜〜〜〜〜

ミッシーに関しては正確にはセクシュアリティの流動性という描写ではないけど、「同性とセックスしてるからつまりゲイ vice versa」という思い込みを覆すストーリーラインで2024年を感じた。

変えられないもの

セクシュアリティは流動的に変わっていくものでありつつ、同時に変えられないものだ。「ゲイを治す」という表現が馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われる世界になった今でも、アセクシュアルはアロセクシュアルに合わせて恋愛関係を維持するためにセックスをしないといけない、「アセクシュアルを治す」必要があるという考えに、静かに誘導されていく。

S1でセックスをしたいダレンはセックスをしたくないキャッシュに、二人のやり方を探そうと提案する。恋愛関係にある二人はセックスをする、したいはずだ、という思い込みは、セックスをしない、という選択肢と、セックスをしたくない人を不可視化する。ダレンもキャッシュも互いを愛しているのに、互いに自分自身を変えられないことに悩む。キャッシュは自分なりにダレンを喜ばせるやり方を探り、ダレンは性欲を抑える道を探る。S2は結局答えが出ないまま終わってしまうんだけど、答えをくれ!!!!S3!!!!!!!!!!!!と叫びそうになった。

「誰かが我慢すれば一緒にいられる」というやり方だと、基本的に毎回詰むんだよな。

キャッシュがダレンを喜ばせる道を探るにしても、最終的にダレンの欲が出てキャッシュが望まないことをしたいと言い出すだろうし。

ダレンが性欲を抑える、というのも現実的な道じゃない。じゃあ他の誰かとセックスをするということにしても、行く場所が無いダレンを寮に泊めたダスティを問い詰めるキャッシュの姿を見る限り結構厳しそう。

どうなるの?一体どうしたらいいの??アセクシュアルの一生の問い。S3をくれ。お願いします。

でもキャンプの湖のほとりで(全体的にキャンプの件は非衛生的すぎてギャ〜〜と言いながら見ていたが)ダレンが一人で体を触る姿を見て興奮するキャッシュの描写はめっちゃよかった。アセクシュアルがセックス嫌いというわけでもなく、勃起しない(S1参照)というわけでもなく、触れ合いが嫌いというわけでもない、という描写。

ありがたいことだ、長く生きているとアセクシュアルの姿がドラマで見れるんだよ、、、

S2はサブテーマとして「ペニスの挿入だけがセックスではない」というメッセージが強く打ち出されていたと思った。ダレンとキャッシュの間で互いに納得できるラインを探る試みや、勃起不全(これもまさに「男らしくない」と悩むポイントなのだと思う)のスパイダーがミッシーとの関係の中で少しずつ解放される描写も。女性との関係を持つことが多かったミッシーが馬鹿にするなと言いたげにペニスの挿入だけがセックスではない、とスパイダーに伝えるシーンは良い仕掛けになってたと思う。というか、そんなミッシーでさえ、スパイダーが挿入を伴うセックスに応じないことを「本気じゃないのかも」と、家に突撃するレベルで悩んでいたというのもリアルで良かった。頭では違うとわかっていても、学習してきた「こうあるべき」はなかなか手放すことができないんだよね。

autismと変化

エメリーとハーパーが仲直りして、ダレンとキャッシュがくっついたことで友達グループが変化したことに戸惑うクィニー。それだけじゃなく、エメリーが中絶をしたり、ハーパーとダレンとキャッシュがルームシェアを始めるなど、追いかけきれないほど様々な関係性が動いていく。日常生活はautistic peopleにとって街を目隠しをしながら歩いているような状態。そんな中で自分のルーティンを徹底的に守ることは、手すりにつかまるようなイメージ。「コントロールできるもの」を生み出して心の安定を図っている。なので、autisticであるクィニーにとっては大きな変化の連続は大きな負担となっていた。

親友のダレンでさえ「変化は起こるもの、適応しないと」とクィニーの辛さを理解してくれない。それはわかってるけど、難しい。努力しているのに理解してもらえないこと、友達グループの中でもついていけないあのもどかしさが痛いほどわかった。辛いよね…僕自身も大きな変化を控えているautistic personだから、今このタイミングで観れてすごくよかった。

細かい話

  • 部屋が可愛い

    • クィニーの部屋のベッドの配置変わった気がする

    • マラカイの部屋のポスターが変わってた

  • ダスティがダレンの幼馴染だった設定ビビった。

  • S1ではミスジェンダリングの描写がいくつかあったけど、S2ではダレンのpronounsが自然に尊重されていて英語字幕に切り替えて毎回噛み締めた

    • ダスティもちゃんとTheyと呼んでいた

    • キャッシュはチョークに「彼氏」と呼ばれるたびに掴みかかってブチギレてたし。キャッシュ〜〜〜〜〜〜〜

  • サーシャがうざくて可愛すぎる

  • チョークもハートリー出身なんかい。South Sydneyって治安どない?

    • 聖地巡礼したいな〜!!楽しみ

  • みんな基本的にカスなんだけど、ちゃんとするべきところでは一旦いろんなことを置いておいて誰かのために行動できる描写がすごく好き。

    • S1のアボリジニの人に対する警察の暴力のシーンや、S2のクィニーが山で蛇に噛まれたシーンなど。

  • ゲイであることが当たり前すぎてすごい

    • マラカイがローワンと付き合い始めた時もヒュ〜やるじゃん、みたいな感じで、クィアであることに関してイジるノリじゃなくて未来すぎた

    • キャッシュがダレンと人前でも普通にイチャイチャしてて好きすぎる

    • モブキャラも明らかにクィア〜〜〜って感じのファッションの人ばかりで、最高だ

最初頑張ってたけど、後半めちゃくちゃだね。とりあえずHeartbreak Highを見てください。

https://www.netflix.com/browse?jbv=81342553

@jayu
queer non binary alien