ORSCとアジャイル

jhonny_camel
·

はじめに

こんにちは、アジャイルコーチ/システムコーチのJhonnyです。これは "システムコーチング Advent Calendar 2023" の20日目の記事です。といいつつ本日は12/25だったりします。遅れてしまったけど何はともあれということで。

さて、この記事では「ORSCとアジャイル」について書いてみます。対象読者としてはORSCとアジャイルについての基礎知識がある方を前提としていますので予めご了承ください。

アジャイルへの変革でよくある落とし穴

私はアジャイルコーチとしてチームや組織といったシステムに関わりアジャイルへの変革を支援しています。その中で成功も失敗もあるわけですが、ふりかえってみると失敗したケースで大抵当てはまる共通項があることに気づきました。

「内面」の軽視・欠如

アメリカの現代思想家ケン・ウィルバーが提唱した、人・組織・社会・世界の全体像を統合し、より総合的な視点から理解するためのフレームワーク「インテグラル理論」はご存知でしょうか。ここでは、この理論の中の四象限モデルを用いて説明します。以下に四象限モデルを簡単な図で示します。

横軸の「内面」と「外面」についてですが、前者は思いや感情、願いなど目に見えづらく認知しづらいものであり変化は比較的遅行性なものを意味します。一方後者は目に見えやすく、計測・観測、認知しやすいものであり変化は比較的即効性のものを意味します。

特に組織においてはこの「外面」が着目、優先されやすく「内面」は後回し、更にはおろそかになりがちです。これは組織の活動において合理性や効率性が重視されることが多く、それゆえ定量的に捉えやすく理解しやすい、評価しやすい方に偏ってしまうからだと考えられます。ORSCの用語で表現すると「合意的現実レベル(CR)ばかりが扱われてしまう」状態です。

間違えたアプローチではより困難になるだけ

上述の「外面」ばかり扱われて活動していると何が起こるのか。課題の性質を取り違えたアプローチをしてしまうことでより困難な状況が生まれることでしょう。このことはハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツ教授の著書「最難関のリーダーシップ」にて、組織の問題を「技術的問題」と「適応課題」の2つに分けることができ、これを混同せずに区別して扱う必要性があると説かれています。これは主語をリーダーシップに限らず組織やチームに代えても同様です。

そして「適応課題を技術的問題のように扱ってしまうこと」を四象限モデルに当てはめるとまさに「内面」を「外面」として捉えて扱ってしまうことだと言えます。

時には技術的問題として扱った結果、即効性が活き変革が起き始めることはあるかもしれません。ただそれを継続するには本来の複雑な真因を紐解き解決していかなければなりません。さもなければもろい地盤のシステムが崩壊の憂き目に遭う可能性を下げることはいつになってもできません。つまり適応課題をきちんと適応課題として扱い、四象限のバランスをとる統合的なアプローチが必須なのです。ORSCの用語で表現するならば、「3つの現実レベルを自在に行き来して関わる」といったところですね。

Do Agile / Be Agile 目指すのはどちら?

以上から、「外面」ばかりに捉われてアジャイルへの変革を目指すのと「内面」もきちんと目を向けるのとではどのような違いになるかをまとめてみます。

そもそも"Agile"という英単語は形容詞であり状態を表すものです。つまり「やるもの」ではなく「なるもの」ということです。このことからも両面である必要性は明らかです。...では適応課題、つまり「内面」を扱っていくのが難しいという現実にどう立ち向かえばよいのでしょうか。

ORSCが示すアジャイルとの親和性

アジャイルにはスクラムを代表とするフレームワークがいくつかありますし、それに関連して様々なプラクティスやアクティビティがあります。これらはどれもチームや組織をアジャイルな状態へ行動変容を促すためのものツールです。その意味では「外面」だけでなく「内面」も扱おうとしているはずと言えます。ただ、あくまで私個人の所感ですが、どうしても「内面」へのアプローチが弱い印象があります。(ツール自体ではなくそれを用いる側の問題に過ぎないかもしれませんが)

そこでORSCにスポットライトが当たります。ORSCは「内面」にフォーカスし扱います。つまりORSCの智慧をアジャイルに重ねることで四象限のバランスが整うわけです。私は、これにより変革を促す力はより強くなれると信じORSCを学び始めました。そして実践するにつれ確信を増しています。

流れは既にある

海外に目を向けると既に数年前からこの流れは起きています。ORSCを提供しているCRR Globalのサイトでは「ORSC and Agile」と特集されています。また、アジャイルコーチでもありシステムコーチでもあるZuzana Šochová(Zuzi)が自身のブログにORSCとアジャイルについてを書いてます。さらにコミュニティや有志によるPodcastのいくつかでもORSCとアジャイルの関係について語られています(例1例2

余談(という宣伝)

Zuziはアジャイルに関して「The Great ScrumMaster」「The Agile Leader」と2冊の著書があります。いずれの書籍もアジャイル及びその代表的なフレームワークであるスクラムに関しての内容ですが、いたるところにORSCのエッセンスがふんだんに込められています。2冊とも日本語に訳され、「SCRUMMASTER THE BOOK」「アジャイルリーダーシップ」として出版されてます。ちなみに前者については共訳メンバーのひとりとして私も関わっており、更にこの本は自分がORSCを知るきっかけになった重要な本ですので、ご興味あったら手に取っていただけると嬉しいです。

さいごに

私はもはやORSCとアジャイルの親和性と相乗効果は疑う余地がないものと確信しています。World Workとしてこの両者の智慧をふんだんに用いてよりよいシステム、ひいてはよりよい世界への支援をし続けて行きます。さあ、世界を喰らいましょう。