「コマ割り」は、漫画を構成する要素ではあるが、その中では優先順位が低く「面白ければ気にならない」という人も多いと思う。だが同時に、本質ではないものの、軽視してはならない要素でもある。今回、私が漫画を読んでいて気になる点を列挙していきたい。
①コマの接続詞がない
言語には接続詞がある。「そして」「しかし」等、言葉の節を接続するジョイントだが、この接続詞が無い漫画は多く散見される。アクションの始点と終点だけ描写して動きの過程が省略されていたり、会話や場面が唐突にめまぐるしく変わる場合もある。
A→B→Cという情報の流れがあった場合、その過程を丁寧に描写する必要があるがA→Cだったり、果てはA→Dまで飛んだりする場合もある。作者の中では論理が繋がっていて、間にないシーンも脳内で補完されているのだろうが、読者からすると流れが寸断されていて唐突感を受ける。イメージでいえば音楽のリズムが「ブッ」と途切れる感じである。読者に不要なストレスを与えない為、できるだけ流れは滑らかにすべきである。
②ヨコナガのコマが多い
ヨコナガのコマを均等に3つまたは4つ配置するだけのコマ割りは多い。漫画は上から下に読み進めていくものであり、その力学に則れば自然な流れではあるが、多用すると単調な印象を読者に与えてしまう。「古見さんはコミュ症です」や漫才形式の漫画、エッセイや定点カメラの漫画などの特殊例を除き、コマの力学を使わないのは勿体ない。
③コマ割りが単調
②に繋がる話だが、コマ割りが定型化されていて、リズムが単調という事である。

上の画像の(例1)はリズムも取りやすいし汎用性が非常に高い為、頻繁に使われるコマ割りである。また(例2)に関しても、汎用性が高い。だが汎用性が高いからといって、どの場面に対しても使うべきではないと私は考える。それぞれのシチュエーションに最も適したコマ割りがある筈で、安直にコマを割ってはいけない。
④重要な情報に対してコマが小さい
主人公・悪役の初登場、物語の根幹に関わる重大な設定等は「これは重要な情報ですよ」と読者に明示する為、ある程度大きなコマを使う必要がある。だが重要な情報なのに、小さいコマで流してしまっている漫画は多い。これは持論だが「小ゴマを読み飛ばしても、大ゴマさえ読んでいれば話の概略はわかる」くらいのわかりやすさが漫画には必要だと思っている。
⑤タチキリについての考え方
現代の漫画はタチキリまで描いている漫画が多い。映画的表現が増え、原稿というフレームを限界まで使いたいという人も増えてきた。だが持論だが、全てのコマをタチキリで描いてしまったら全てが平均化され「結局タチキリまで描いてないのと同じでは?」と思う。
これは個人の価値観かもしれないが、私は要所で使った方がタチキリの効果は出ると思っている。なので、タチキリを使うのは「空間を表現したい時」「キャラクターの力が外に解放されている時」等に限っている。
⑥大ゴマの使いどころについて
物語の肝となる箇所では、大ゴマを使うべきだと思う。特にキャラクターが変わる瞬間、ドラマが生まれる瞬間は、大ゴマを使うべきだ。ここで重要なのは、思い切ってコマを大きくする事で、具体的にいうとページの構成比で60%以上である。40%~50%の大きさだとそれほど強い印象を読者に与えられない。また、コマの大きさに緩急がないと、大きなコマが来た時に読者が驚かないので、大ゴマの直前にコマを小さくする等も一つの手ではあると思う。
⑦1ページあたりの情報満足度について
上のような重要な場面に関しては大ゴマを使うべきだが、それ以外のページで考え無しに大ゴマを使うべきではない。

上のコマ割りはどのコマを魅せゴマにしているのか不明瞭かつ、情報満足度が低い為、あまり使用すべきではない。「情報満足度」が低いというのは「1ページ当たりから得られる情報が少ない」という意味だ。薄い情報が連続すると読者に冗長な印象を与えてしまうので、さほど重要な場面でない場合、もう少しコマを細かく割って情報を詰めるべきである。それがテンポ感の向上及びページ数の節約にも繋がる。
⑧変形ゴマについての考え方
現代の漫画は変形ゴマが多い。だが私は「変形ゴマはアクションシーンでもない限り、あまり使うべきではない」という立場である。単純に読みにくくなるし、読者の「今、漫画を読んでいる」というメタ認知が強くなってしまう。ジョジョなどもよく変形ゴマを使ってはいるが、視線誘導やキャラの位置関係を計算し尽くした上での余技としてやっている事であって、本質ではない。そこを履き違えるべきではない。
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前述したように「コマ割り」という要素は料理における盛り付けとかお皿のようなもので、全てが上手くいったからといって、本質的な漫画の面白さが劇的に変化するという訳ではない。
ここまで語った事はあくまで私の意見に過ぎないが、テクニックとして知っておくのも損はないと思う。漫画制作の一助となれば幸いである。