「机の傷?」
「はい。俺があの教室で最後に使ってた机、誰かがカッターか何かで傷つけたみたいで机に稲妻のマークみたいな傷がついてたんですよね」
4月、新学期が始まった夜。
センパイは帰宅したボクに会うと、まるで自分のことかのように進級したクラスを尋ねてきた。
不満なそぶりを見せつつもB組だったことを伝えると「そうでしたか」とニヤニヤしていたのでムカついて軽く脇腹をつねってやった。
夕飯を済ませ共有スペースでついていたテレビをぼんやり見ていると、隣に座っていたセンパイが思い出すように教室の話を始めた。
そして話は冒頭に戻る。
「デ、ボクはそれを確認すればいいノ?」
「いえ、そういうわけではないんです。そんなこともあったな〜って感じです。本当に稲妻のような形をしていたので、もし夏目くんが使ってたらちょっと運命感じちゃうなと思って」
「幸いにモ、今日ボクが座った席の机にはそんな傷なかったヨ」
「新学期ですし教室の清掃や備品の整理とかで傷物として回収されちゃってるかもしれないですね。ただの思い出話なんで忘れちゃってください」
そう言ってセンパイも付いている番組に視線を映していた。時間帯的に明日の天気予報が流れていた。
そんな他愛のない話をして数日。
クラスの一大イベントとも言えるのか、席替えの日がやってきた。
中には後ろの席になりたいと願う生徒もいたけれど、自分的にはどこでもよかった。
新学期だからこうして席替えにも参加しているだけで、今後も例年通りあまり出席することもないだろうと思ったからだ。
席替えの方法は至って簡単で、箱の中から番号が伏せられた紙切れを引き、黒板に書いてある数字と同じ席に移動するだけだ。
続々とクラスメイトが引いていき、ついに番がきた。
とくに希望もなく無心で箱の中から一枚紙を引いた。
机の中に物は入れていなかったのでカバンと指定された数字の紙切れを持って該当の席に向かう。
「お、ナッちんじゃん。よろしくね〜」
「あら、後ろは夏目ちゃんなの?」
先に着席していた二人に声をかけられた。
隣の席は弟さん、前の席はカミナリさんだった。
「Knightsの二人と席が近いなんテ、恐れ多いネ」
「そんなこと言って、せっかくなんだから仲良くしましょうよ」
ご機嫌な二人はニコニコと笑っている。
適当に相槌を打ちながらようやく席に付いた。
机のフックに鞄をかけようとすると目の端に机の傷が写った。
"稲妻のマーク"だ。
それは確かにセンパイが言っていた通り、刃物で傷つけられたものだった。
鞄をかけようとする中途半端な動作のままフリーズしてしまったので不審に声をかけられる。
「ナッちんどうしたの?」
「…えっ、いや別ニ、なんでもないヨ」
あっそ〜と興味も持たず机に突っ伏して寝る体制に入った弟さん。カミナリさんはすでに他のクラスメイトとの会話を弾ませていた。
今はその対処が正解かもしれない。
あんな適当なセンパイの言霊がこんなところで発揮されるなんて。
センパイにこの偶然を伝えることより、次の席替えの時までセンパイが使っていた机で過ごすことになった重大性を考えながら稲妻の傷を眺めていた。
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去年思いつくべきだった