最近の謎のマイブームとして、登記所備付地図データを眺めるというものがある。土地の境界が分かる図面のデータだ。MAPPLE法務局地図ビューアなどで誰でも簡単に見ることができる。地図を眺めていると、古い道の筆(土地は1筆2筆と数える)が残っていたり、以前建っていた建物の筆がそのまま取り残されていたり、分譲しようとしたものの結局されずに放置された筆があったりと、大変趣深い。

謎の四角い土地
いつものようにMAPPLE法務局地図ビューアを何となく眺めていると、謎の土地をみつけた。



なぜか公立はこだて未来大学の土地(116-2)の中に、謎の四角い土地(124-2・125-2)があった。完全に未来大の土地の中であるのに、ここだけ別の筆になっている。気になって現地もみてみたが、何か目立った構造物があるわけでもないのでよくわからない。これが何なのか気になって仕方なくなり、朝も起きれなくなってしまった。

土地の履歴書
謎の土地は何なのかについての調査を始めたいが、手がかりがない。まずは原点に立ち返ってみる。MAPPLE法務局地図で見られる "登記所備付地図データ" というのは、いわゆる公図(より正確には、14条地図および地図に準ずる図面)というものをもとにした図だ。これは、登記された土地の面積や形状を特定するための図面で、不動産登記簿に紐づけられて利用されている。不動産登記簿には、その土地の過去の記録が保存されていて、いわば土地の履歴書とも呼べるものだ。この土地の成り立ちを調べるには、この不動産登記簿を取得すれば、何か手がかりがつかめるかもしれない。不動産登記簿には以下のような情報が過去のものも含めて追記される形で掲載されている。
表題部
所在
地番
地目(土地の使われ方)
地積(土地の面積)
権利部(甲区)
所有者
いつ取得したか
どんな原因(売買・相続など)で取得したか
権利部(乙区)
抵当権などの、所有権以外の権利についての事項
ひとまず件の、124-2と125-2という土地の不動産登記簿を取得してみることにした。書きづらいので124-2を甲土地、125-2を乙土地と呼ぶことにしよう。なんだか裁判とか契約書とかみたいでいいですね。
甲土地(124-2)
まずは手始めに甲土地の登記簿を取得する。登記簿の情報は、手数料を払えばだれでも請求できる。今回は、インターネット上から登記情報を請求できる、登記情報提供サービスを利用する。証明用途には使えないが、情報だけを得たい場合には最適だ。
さて取得してみたが、登記簿を見るといくつか興味深いことがわかった。
124-2は、わざわざあとから分筆して作られた土地である
平成12年(2000年)に所有権が函館圏公立大学広域連合(公立大学法人化前の未来大の設置者)から函館市に移転している

函館市への所有権移転がキーになりそうだ。原因が、 "都市計画法第40条第2項による帰属" となっている。該当する条文はこれだ。
(公共施設の用に供する土地の帰属)
第四十条
(略)
2 開発許可を受けた開発行為又は開発行為に関する工事により設置された公共施設の用に供する土地は、前項に規定するもの及び開発許可を受けた者が自ら管理するものを除き、第三十六条第三項の公告の日の翌日において、前条の規定により当該公共施設を管理すべき者(その者が地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務(以下単に「第一号法定受託事務」という。)として当該公共施設を管理する地方公共団体であるときは、国)に帰属するものとする。
(略)
まとめると、開発行為を行った際に作られた公共施設のための土地は、工事が終われば、その施設を管理することになる市町村などに譲渡されるということだ。どうやらここは、"公共施設の用に供する土地"らしい。現地を見てもなにかあるようには見えないが......
さらに調査を進めてみる。函館市の「都市計画法による開発許可等の手引き」を見ると、開発許可における公共施設には例として以下のようなものがあるらしい。
道路(市道)
公園
水道・下水道
河川
消防水利
道路・河川は明らかに違いそうだ。甲土地は大学敷地内の遊歩道上にある。公園の筋も、大学前庭の大部分がそうなっていないことを思うと考えづらい。ありえそうなのは消防水利か水道・下水道くらいである。そう思いながら甲土地近くを歩いていたら看板を見つけた。

防火水槽!!!!!
消防水利であった。ここには防火水槽が埋まっていたのだ。ということで、甲土地の結論はこうだ。
都市計画法上の開発行為として未来大が建設された際に、公共施設として設置された防火水槽の土地が、都市計画法第40条第2項の規定により、当該公共施設を管理すべき者(函館市内の消防を所管する函館市)に所有権が移ったもの
乙土地(125-2)
甲土地の謎が判明したので、話が早い。乙土地に関してもすぐに登記簿を取得した。そうしたら、原因が "都市計画法第40条第2項による帰属" となっていた。甲土地と同じだ。現地に赴き、 "公共施設" らしきものがないか探ってみる。

やはり出てきた防火水槽!!!!!
ということで、乙土地に関しても甲土地と同様に、以下のような結論となった。
都市計画法上の開発行為として未来大が建設された際に、公共施設として設置された防火水槽の土地が、都市計画法第40条第2項の規定により、当該公共施設を管理すべき者(函館市内の消防を所管する函館市)に所有権が移ったもの
おわりに
結論としては、防火水槽であった。興味の赴くままに調査をしてみたら、登記簿を取得するところまできてしまった。登記簿を読み解くと、未来大が作られていく過程が垣間見えて、なんだかタイムマシンに乗っているような気分になって、面白かった。
ということで以上、未来大内にある謎に分筆された土地に関する調査でした。皆さんの身の回りの謎の土地もこうやって調べてみてください。この異常遊戯を全国で流行らせたい......(何のために?)