W21 2024.5.20 - 5.26 『ミッシング』『関心領域』

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梅雨入り少し前のこの時期は夕焼けが綺麗で、陽が落ちる時間帯に走るのが気持ちがよかった。今週は6回走って32kmだった。体調を崩したりして落ち気味だった運動強度も少しずつ上げられてきている。

水曜日には応援するチームのホームゲームがあり、結果は残念だったのだけれど今時期の夜のスタジアムも気持ちがよかった。

先週観た『ありふれた教室』の脚本はハーマン・メルヴィルの短編小説『バートルビー』に強く影響を受けているというのを見て読んだのだが、なるほどこれも社会状況によって生まれでたどうしようもない状況であり、語り手はどうすれば良かったのかが全く分からない話だ。そしてもう一度読み返したくなる魅力のある話だった。こういった古典にちゃんと触れて来なかったので、この先もっと触れていこうと思う。

金曜日は久しぶりに落語を聴きにいってきた。その前に観た映画があまりにも重たく喰らってしまうものだったので、スケジューリング間違ったなとは思ったが、落語を聴いた後に友人たちと一緒にわいわいと話しながら食べる時間はやはり楽しかった。

『ミッシング』

吉田恵輔監督作品。最近だと『空白』『神は見返りを求めない』は劇場で観ている。『空白』はかなり好きな作品だ。

主演は石原さとみ。吉田恵輔作品に石原さとみはかなり違和感があるのだけれど、石原さとみ側からの要望で実現したそうだ。石原さとみはドラマ『アンナチュラル』はかなり好きな作品だが、ポップでキラキラとした俳優という印象で、こういった作品への出演を望んでいたというのは意外だった。言い方は悪いけれど、TVCMやNHKのバラエティー番組と商業映画で満たされていそうなイメージを持っていた。この作品では6歳の娘が行方不明になり、取り乱し、時には半狂乱となるような役柄なのだが、これまでのイメージをぶち壊す圧巻の演技だった。

吉田恵輔監督の作品は露悪的とも見られる激しさや醜さがきつくはあるのだけれど、それに対比して際立つ隣人の優しさや差し込む光の美しさに、折り合いをつけられない状況でも何か救いがあるよというメッセージを感じられる。

『関心領域』

ジョナサン・グレイザー監督。ユダヤ人大量虐殺が行われているアウシュビッツの隣で暮らす、その施設責任者の家族の暮らしぶりを映す作品。音響が特徴的で、真っ暗な中で不安を掻き立てられる音楽のみの導入から冒頭のシーンに切り替わると、幸せに暮らすドイツ人一家の生活が映し出される。裕福で贅沢な暮らしをする家族なのだが、環境音には常に悲鳴や銃声が混ざっており、そこが異常な生活空間であることを意識させられる。暮らしの様子は常に引きの絵で撮られており(後から知ったが監視カメラのような形で家中にカメラを配置しその中で演技が行われていたらしい)、その様子を観察しているような気持ちにさせられる。血のついたブーツを洗うシーン、ユダヤ人から奪った装飾品を身につけ、それをどのように入手したかを当たり前のことのように話すシーン、やたらと服と身体をよく洗い手入れをしているシーン、自宅で行われている関係者との打ち合わせで虐殺の効率を上げる設備導入について話し合っているシーン、子供が明らかに環境による影響を受けている様子などから異常さが浮き上がっているのだが、その暮らしはあたかも普通であるようなそぶりを見せ続ける。夫の転属が決定したことを告げられると夫人がそこでの暮らしに執着し怒りの感情を露わにするところで決定的に"関心"の対象が自らの暮らしであることを示す。

当時行われていたことを覗き見るような気持ちで向き合うと、特大のブーメランを喰らってしまう作品だった。ここで映し出されている、自らの暮らしにばかりに目を向け、壁の向こうに関心を示さず、ひどい現実を素通りしてしまっているというのは今現在もあることで、自分もそのうちの一人ではないのかということを考えさせらる。

ユダヤ系のイギリス人であるジョナサン・グレイザーがこの作品を持って示したのは、関心の領域外に置かれ酷い仕打ちを受けたユダヤ人たちのことだけではなく、今現在の世界の状況に対する世界の関心についてのことなのだろう。その事が突き刺さる作品だった。

アカデミー賞でのスピーチでも以下のように述べている。

私たちの選択はすべて、現在の私たちを映し出し、私たちと向き合うためのものだった。昔の人たちが当時何をしたか見てくれというのではなく、今の自分たちが今何をするか、見るよう求めるものだ

私たちの映画は、人間性の喪失が最悪の場合にどんな事態を招くかを示している。それは私たちの過去と現在のすべてを形作っている

私たちは今、あまりに多くの罪なき人を巻き込む紛争に至った占領によって、ユダヤ人としての自分の存在とホロコーストが乗っ取られてしまった、そのことに異議を唱える者として、ここに立っている

次週以降

配偶者は会社勤めをしていて自分は自宅で作業をしているから平日の夕食はほとんど自分が作るのだけれど献立が固定されてしまっているので、週に一つは何か作ったことのない料理にチャレンジしたい。包丁の切れが悪くなってきたので、料理のモチベーションを高める意味も込めて包丁研ぎをやってもらいにいく。

しばらく重たい映画を続けて観たのでゆるいものを観たいなと思ってしまうのだけれど、これも"関心領域"かと考えてしまう。でも『不死身ラヴァーズ』は観ておかないと。

テンションが落ち気味の個人開発モチベーションも上げていかないと。