就活

萩原糸保
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絶対落ちた、やらかした、なんで、どうして、なんでなんでなんでなんで。

テレビ通話が終了したことを告げる画面の前。数分前には、行きたい会社と繋がっていたはずなのに今はこんなにも遠い。

8割落ちると思っていた書類審査を通過し、オンラインにて行われた一次面接は想定していた質問は一つも聞かれなかった。緊張で言葉は詰まり、面接終了と共に切られた画面の前で「終わった…」と項垂れることしかできない。

確実に終わった。残念ながらこういう予感は当たるのだ。

入社したいという気持ちをどうしてうまく言えなかったんだろう。御社の理念と私の考えが一致していると、どうして伝えられなかったのだろう。

「最悪」

その一言に尽きる。

この会社に骨を埋めると思うくらい入りたかった。社長のインタビュー記事を読み漁り、調べれるだけ調べ、ノートにまとめ、準備はしっかりとしたつもりだった。今はもうゴミと化してしまったが。

終わったことを考えても仕方がないのに、ああすればよかった、こう言うべきだったとぐるぐる回る。こんなにも辛くなるのなら、そもそも応募しなければよかったんじゃないか。好きな人に告白して関係性が変わるのであれば、片想いのままでよかったんじゃないか。就活はまるで恋愛みたいだ、なんてポエムを脳内で作り出す。

「もうこれは寝るしかない」

ふて寝だ。現実逃避だ。面接のためにがっつり決めたメイクを落とす気力はなく、そのまま眠りについた。

面接結果は約1週間以内に来るらしい。

御祈りメールなんてみたくない。ずっとおめでとうメールだけ見ていたい。

お祈りされる理由は私の失態が原因であり、悲しいとか辛いとかと一緒に怒りが湧いてきた。怒りは防衛反応ときくし、怒ることによって悲しみを回避しようとしているんだなと冷静に分析する。怒りながらも冷静な部分は生きているのだ。

「お前が悪いんだろう」と私が私を責める。それに対して「面接対策レポートみたいなの一つも役に立たなかったんだが?私だけが悪いんじゃなくない!?」と返してくる。自分の中で喧嘩しないでほしい。

自分を責め上げても仕方がない。結果は何も変わらず無駄なだけだ。

「いやわかってんだけどさ。わかってるけど!」

辛いものは辛い。携帯を取り出し、トーク画面一番上。相手の事情なんてすっ飛ばして通話ボタンを押した。1.2.3...5...コール回数を重ねても出ない相手に諦める私ではない。今が夜中だとか知らねえ出ろおきてる時間帯だろ!相手の方が諦めたのか、「はい」と返答が返ってくる。

「就活落ちた!慰めろ!」

「え?ガンダムSEEDの話がしたい?いいよ、映画見たよな?」

「何一つあってねぇよ!あと映画は見たから話そう」

「いや〜だって就活落ちたとか言われても…多分その会社にあんたと同じ名前の人が9人くらいいたのよ。流石に2桁同じ名前はきついじゃん?仕方がない、それよりSEEDの話した方が建設的だって」

「10も9もあんま変わんないでしょ…せめて3くらいで止めとけよ」

「映画さぁ、アスランの性格がこんなんだったの!?てなかったけどそれはそれとして終始かっこよかったよね〜。シンも子犬みたいになって可愛さMAXだったよ。まぁ一番はキラ・ヤマトなんだけど」

「あ、もう慰めのターン終わった?」

「MSの腕はキラが一番!わかる、、でもエアリアルと戦ってほしい気持ちもあるんだよね。」

「完全に終わったな。水星の魔女もぶっ込んできたし」

「そういうわけで、大丈夫だよ。SEEDは面白いし、考察しまくれるし、どうせあんたのことだから落ちただけで「死ぬしかない」とか考えてたんでしょ?キラ・ヤマト死んでないし、エラン・ケレス4号も概念として生きてるし、お前も生きろ。じゃあな」

話したいことだけ話して切り上げた友人に、さすが友人だな…という気持ちにしかならない。まぁでもさっきまでの怒りや悲しみの感情は薄れ、まぁ次頑張るかなという気持ちになってきた。

ところで、実はまだ結果来てないんだけど奇跡的に通ってたりしないかなー!!