父の尊敬するところの一つ。とうもろこしをとても綺麗に食べるところ。
一粒一粒綺麗に食べ、皮を一切残さず食べきる。
対して僕は、食べ終わるといつもハリネズミみたいにボサボサの状態。
いいなぁ僕もそれくらい綺麗に食べたいなぁ。
小学生くらいからずっと憧れていた。
そして今日、実家から持ってきていて冷凍していたとうもろこしをどうしても食べたくなり、おやつに食べ始めた。
下の前歯で一列ずつクイってやって、粒を外していく。
お、今日はなんかスタートから調子がいいぞ?
いつもだったら何粒か上手く外れずに潰してしまい、皮が残ってしまうところだが、今日はいい感じだ。
もしかしたら遂に一粒も潰さずに食べられるかもしれない?
半分食べきった。あまりにも綺麗だ。ミスしないうちに写真でも撮っておきたいくらいだ。
食べ進める。あともう少し。とうもろこしを食べて初めて緊張してきた。
。。。
僕は中学を卒業して家を出た。進学先の学校で寮生活を送るためだ。
実家の畑では毎年夏にとうもろこしを育て、食べ頃になると収穫して持ち帰り、ふかしてもらってはよく家族みんなで食べていた。
相変わらず食べるのが下手な僕の横で、父は毎回本当に綺麗に食べきる。
「そんな食べ方じゃもったいないよ」とか言いながら。
寮生活を始めてからは実家に帰るのも年に数回。学年が上がるともっと帰る機会が減っていった。
実家の畑でとうもろこしを収穫するのも、ぜんぜんやらなくなっちゃったな。
ふかしたてのいい香りが台所から漂ってくるのが好きだったな。
年末に実家に帰ったけど、なんかまた帰りたくなってきたな。
。。。
___最後の1列。これが難しい。次の列の粒を使ってテコの原理的なことができない。
でも今日ならいける。絶対に食べきる。
そして遂に。
僕は今日、間違いなく人生で一番綺麗に、一粒も潰さずにとうもろこしを食べきった。
すごい。あまりにも綺麗だ。普通ならすぐに捨ててしまう芯も、もったいなくて捨てられない。
一切の皮のついていない綺麗な芯を、僕はくるくると回しながら何分も眺めていた。
僕はあの頃の父のようになれたのだ。お父さん、僕、大人になったよ。
あまりにも感動したので、昔からとうもろこしを綺麗に食べる父に憧れていたこと、そして今日僕も遂に綺麗に食べきったことを父に報告した。
季節外れだけど、なんだかエモーショナルなおやつの時間なのでした。
父から返信。
「乾燥してとっとけば〜?」