お昼時の食堂。
席についたレの前には焼きたてのパンに並んで、こんがり焼き目のついたベーコンや、トマトにブロッコリーと野菜が盛りつけられた皿が置かれている。
「皆さんの好きなだけ炙ったチーズをかけます。いいな、と思ったところで止めてくださいね」
昼食当番の晶とリケが揃って、テーブルについている魔法使いたちの元をまわっている。それぞれが止めるまで、リケの魔法で熱されとろけたチーズを晶がレードルですくってかけていった。
少なめで止める者、具材が隠れてもなお、チーズを要求する者。反応は様々だ。
「おまたせしました」
そして晶とリケがレノックスのもとにやってくる。
「ありがとうございます。俺は少しで構いませんから、ルチやミチに沢山あげてください」
前もって申告するレに晶はにっこりする。
「それじゃいきますね。リケ、お願いします」
「はい、賢者様」
リケが呪文を唱え、チーズの表面が出てきた火の玉に炙られていく。柔らかくなったチーズを、晶は持っていたレードルで削ぎ落とすようにチーズを、レの皿へかけていった。――大量に。
「……? 賢者様?」
驚きに、レノックスは目を丸くした。
そんなレノックスに構わず、晶はチーズはどんどんかけていく。そのうち、盛りつけられていた具が隠れていった。
「あの、賢者様。俺はもう大丈夫ですから」
「俺が大丈夫ではないので」
きっ、と真剣な眼差しを晶はレノックスに向ける。
「いつもレノックスは美味しいものを他の人にあげようとするでしょう。なので、レノックスの大好物の時ぐらいは狙ってやらないと」
「はい。僕もそう思います」
リケが晶に賛同して力強く頷いた。
「美味しい食事やおやつを食べると、おなかも心も暖かくなります。レノックスもそうあるべきだと、僕も賢者様も思っています」
「だが……」
「かけてもらえばいいじゃないか、好きなだけ」
レノックスの真向かいで黙々と食事をしていたファウストがぽつりと言った。
「ファウスト様……」
ファウストからの助太刀を受け、晶とリケが顔を見合わせ、力強く頷きあった。
「じゃあもう少しかけていきますね。リケ、頼みます」
「はい!」
もう一度、リケが呪文を口にして、晶が、チーズをレの皿へ山盛りにしていく。野菜もベーコンも、チーズの布団に覆い被さって見えなくなってしまった。
「ベーコンも、野菜もおかわりありますから!」
「そうです、遠慮は駄目ですよ、レノックス!」
目的を果たした二人は、満足そうにはしゃぎながら次の魔法使いの元へ向かっていく。
「残さず食べないとな」
からかうファウストに「はは」とレノックスは小さく笑った。
「そうですね。今度二人にお礼をしなければ」
「いちいち真面目だな、君は」
「それが俺なので。貴方もよく知っているでしょう」
穏やかに言葉を交わしながら、レノックスはベーコンにチーズをたっぷり絡めて口に入れる。
料理の美味しさと、たくさんの優しさが喉を通り、レノックスの胃と心をあたたかく満たしていった。