目の前に置かれた丼を前に、晶は「わあっ」と歓声をあげながら、目をきらきら輝かせる。
分厚い叉焼に、コーンにメンマ。
半分に切られた味玉は、黄身が半熟でとろりとしている。
こってりした味噌のスープに、茹でたての麺が浸かっていた。
「すっごくおいしそうですよ、ネロ。並んで待った甲斐がありましたね」
「あ〜……そうだな」
うきうき声を弾ませる晶とは対照的に、ネロの反応はほんの少し冷めていた。
晶に誘われてやってきたのは、最近のお気に入りであるラーメン屋。
「麺にスープがよく絡まってクセになる美味しさなんですよ」
「………………ふぅん」
(……ラーメンなら、俺だって作れるんだけど)
晶のお腹を満たすのは、自分の料理であってほしい。
しかし、食べるものにまで口出しちゃうとか、流石に心狭すぎないか。
いやでも、好きな子を独占したくなっちゃうのは、割と他でもあり得るだろ。
つまらない嫉妬がネロの心をちくちくと刺激する。はあ、と小さなため息が、丼から立ちのぼる湯気を僅かにかき消した。
「では……いただきまーす」
物憂げなネロには気づかないまま、晶は両手を合わせてから、早速食べ始めた。
ひょいひょいと叉焼や味玉を丼の恥に寄せてから、箸を使い、麺にスープをよく絡ませる。
「……ん」
一口分の麺を箸でつかみ、口元に寄せる。唇にくっつくかくっつかないかの微妙な位置でふうふうと息を吹きかけ、口の中が火傷しない熱さまで冷ました。
「あ……っん」
麺がゆっくりすすられていく。尖った唇の形は、キスをねだる時のそれに似ていた。レンゲですくったスープを飲む時もまた。ああ、キスしてえ。
麺とスープを堪能した後で、具材にも箸が伸びる。
分厚く大きな叉焼は、晶では一口で食べきれられない。それでも目一杯大きく口を開けてかぶりつく。俺の咥える時もそんな顔するんだろな。
晶はどんどん食べるのに夢中になっていく。そのせいか、味玉を食べる際には、半熟の黄身がほんのり口の端っこについてしまっていた。
「あっつい……」
熱いものを食べていくうちに、体温も上がっていったのだろう。晶のこめかみのあたりから頬へ、つうっと流れる汗を上着の袖で拭う。
「……んぅっ、んっ、んっ……」
晶はグラスを手にして、一気にそこへ入っていた水を飲んだ。水を嚥下するたびに、反った喉が動いている。俺が出したの飲む時も、そんな風に動いてるのかな。
「……」
ラーメンにひと口も手をつけず、ずっと横で晶が食べている様を眺めていたネロは思った。――ラーメンを食べている晶がこんなにエロいなんて。新発見をしてしまった。
「はあ、美味しい! ネロはどうですか?」
「……」
「えっ、なんで俺のところに叉焼置くんです?」
「いや……見物料?」
「見物……? 何の……って、あっ、味玉まで! ネロの分がなくなっちゃいますよ!」
「まあまあまあまあ」
曖昧に笑って誤魔化しながら、ネロはひょいひょいと具を晶の丼へ移していく。替え玉も注文しようかな。その分エロい晶が見れるし。
そう欲望のままネロは追加注文し、まだひと口も食べてないにも関わらず追加注文するネロの姿に、晶は困惑の色を隠しきれないでいた。