平凡。特徴がない。周りに埋もれてしまいそうなぐらいに地味――だなんて言われても、実はそんなにダメージはない。だって、賢者の魔法使いたちの相貌は美しく整っていて、彼らを見た人たちの足を止めてしまう。見つめてしまう。息を止めてしまいそうになるぐらい。
西は賑やかで艶やかに。東は慎ましくも凛としていて。南は広い大地のようにおおらかで優しげな。北は獰猛さを孕んだ色気を滲ませ。そして中央は威厳と誇りを背負い立つ。
国ごとに纏う雰囲気の違いもまた、注目を集める要素のひとつだろう。
俺としても、自分より賢者の魔法使いたちに注目してもらいたい。彼らは世界のため、〈大いなる厄災〉に立ち向かう。
そんな彼らの素晴らしさを知ってもらいたい。俺は表舞台に立つ彼らを補佐するため、舞台裏を駆けまわるほうが似合っている。
だから、地味で平凡で特徴がないぐらいで丁度いい――
「……よくありません」
お茶を楽しみながら、西の祝祭を行うまでの一悶着を振り返っていると、ヒースクリフが、形の良い眉を顰めた。
「え?」
「俺は……賢者様こそ綺麗で、素敵な人だと思っています」
「ええ!?」
晶は驚いてすっとんきょうな声をあげてしまった。
ヒースが、怒っている。普段は困ったり悩んだりすることはあれど、目に見えて怒っている姿は珍しい。
「俺が美しいなんて……ヒースは大袈裟すぎですよ」
晶の中では、美しいのはヒースクリフだと思っているし、頭の中に浮かんだシノも『そうだろう』と腕組みをして深く頷いている。
だが、傷つくのも傷つけるのも苦手なヒースクリフが、嘘をつくようには思えない。
「でも、ありがとうございます。ヒースに褒められると嬉しいですね」
「……本当のことですから」
晶がにっこり微笑むと、ヒースクリフは照れくさそうに頬をほのかに赤らめ、ゆっくり首を振る。ささやかな動作も絵になって、晶はほう、と息をついた。
(やっぱり綺麗だなヒースは……)
(やっぱりまだわかってないな、賢者様……)
ヒースクリフは苦々しく思う。嘘だとは思われていないだろうが、本気だとも思われていない。
(俺は、本当に貴方を綺麗だと、美しいと思っているんです、賢者様)
いきなり異世界に連れてこられてもなお、こちらの手を取り、尊敬している師を助けてくれた優しさ。距離を測りながら、魔法使いに――俺にも寄り添ってくれた。
そして何より、俺が作ったおじやを食べた貴方が見せたあの笑顔が忘れられない。
今までの誰よりも柔らかで優しく、美しい表情に、心を射止められてしまった。
だから、平凡だと晶が揶揄されていると、とても腹が立つし、彼の素晴らしさを説きたくなる。
しかし、肝心の晶が納得している。自分は地味で平凡だと。
(どれだけ言えば、賢者様に伝わるんだろう)
のんびりお茶を楽しむ姿を見ながら、ヒースクリフは苦悩する。
(貴方以上に綺麗で素敵な方を知らないと、どれだけ言葉を尽くせばいいんだろう……)
まるでとても複雑な図面を見ているような気持ちになった。
その図面が解明される時はまだ遠い。