幾度も欲と温もりを重ねたが、肌に痕を残したことはなかった。抱いておいて何を言ってるつもりかと、俺たちの関係を知る人たちは呆れるだろうが、つけたくないと思ってしまうのだ。汚してしまう罪悪感にかられてしまいそうで。
だけど、とある朝に目が覚めて飛び込んできた情景に、それまでの自制が吹き飛んでしまった。カーテンの隙間から差しこむ朝日が、彼の肌の白さを目立たせた。無防備にこちらに向けた背中。首から肩、二の腕から肘、そして腰から臀部の輪郭を視線でなぞる。
我慢していた分、余計に美味しそうに見えてしまった。腹を空かせていた獣が、喉を鳴らして起きあがる。
両手を伸ばして、彼の肩を掴んだ。こちらへ引きよせながら、口を大きく開ける。
振り向いた彼の目が、大きく見開かれた。肩を甘噛みし、吸いつけば、情事の余韻を引きずった甘い声が、喉を震わせ唇からこぼれ落ちる。
「――」
待ち侘びたように、彼がこちらの名前を呼び、首に腕を回した。
「優しくしないでください……。貴方になら、俺は、めちゃくちゃにされたい」
そこまで言われて、すごすごと引き下がれるほど腑抜けではない。
向こうから引き寄せられる力に逆らわず、俺は重力が切れた星みたいに、彼の元へとおちていく。
そして溺れるように愛しいひとを貪り、肌へたくさんの痕をつけていった。すっかり外が明るくなってからも、ずっと。