「オズのパンケーキは甘さ控えめなんです。その分、生クリームや蜂蜜をたっぷりかける楽しみがあるんです」
「わかります! ネロのパンケーキはふんわりしてて甘いですよね。だからバターだけでもちょうどいい美味しさだったりするんですよね」
「わかります。……なんだか話していたら、パンケーキが食べたくなってきました」
「わかりますわかります。俺もなんだかパンケーキのおなかになってきた気がします」
「パンケーキのおなかとは?」
「パンケーキが食べたくて食べたくてたまらない気持ちって意味ですね」
「……ああ、わかります。僕もまさしくパンケーキのおなかになってきました。あの、賢者様」
「?」
「オズの作るパンケーキと、ネロの作るパンケーキを、両方食べたいと思う気持ちはわがままでしょうか……?」
「リケ……実は俺も同じ気持ちなんです」
「本当ですか?」
「リケに嘘はつきませんよ。これから、一緒にお願いしに行きましょうか。二人の作るパンケーキが食べたいって」
「……はい!」
――なんて、会話をたまたま聴いてしまった。ネロは頭を抱えてしゃがみこむ。
自らの願いをなかなか口にしない二人だ。パンケーキを作ってほしいと言われたら、一枚でも二枚でも、百枚でも焼いてあげたくなる。
(だけど、あの流れだとオズと一緒に作ることにならね?)
ネロは冷や汗をかく。キッチンでオズと肩を並べてパンケーキを作る自分の図が上手く思い浮かばない。使い慣れたフライパンでも、焦がしてしまいそうだ。
(逃げるか? いやでも、賢者さんやリケのあの楽しそうな顔を見ろ。あれを落ち込ませたくはねえし……でもなあ……)
悶々と呻きながら、ネロは考える。
考えすぎて気づかなかった。
「……何をしている」
晶とリケに両手を引かれてやってきた魔王様の気配に。
「賢者とリケが私とお前にパンケーキを作って欲しいと。……行くぞ」
「ういっす」
逃げ道を断たれ、ネロはキッチンに向かう三人の後ろをのろのろとついていく。緊張できりきりと痛みだす胃をさすりながら。