「お待たせしました、ネロ」
様々なチョコレートがひしめきあう、バレンタインデーの催事場。
少し居心地悪そうに売り場の隅っこで飾られていたチョコレートを眺めていたネロは、馴染みのある声にほっとして顔を上げた。
袋を持った晶が、満足そうに笑いながらネロの元へやってくる。
「ん。いいもの買えた?」
「はい! ルチルやカインには写真映えしそうなもの。ミスラには大きくて食べ応えのあるもの。ファウストには猫をモチーフにしたもの。あ、二つあるのは俺用ので――」
晶はどんなチョコレートを買ったのか、楽しそうに答えた。
相手の好みを考えて選ぶ生真面目さを、ネロは好ましく思う。
そして同時に心が浮き足立ち、晶の言葉を遮ってしまう。
「あ、あのさ、俺のはどんな……」
「え?」
「いや、なんでもないです」
俺の意気地なし。
そもそも俺のも買ってるって保証はないじゃんか。
尋ねておきながら、答えを聞くのが怖くて、はぐらかしてしまった。
己の心の弱さに、ネロは打ちひしがれる。
「……ネロって可愛いですよね」
肩を落としたネロの顔を、晶は下から覗きこむ。
悪戯っぽく笑いかけられ、ネロは口を尖らせ、そっぽを向いた。
「可愛いって」
「ネロにはこれ」
晶は袋を探って、とあるものをネロに差し出した。
お菓子売り場に置いてある、ありふれたパッケージが、ネロの目を惹いた。
「板チョコじゃん……」
「はい。板チョコに」
「に?」
「あとは牛乳に、生クリームに卵にパンケーキミックス。バニラアイスやバナナ添えても美味しそうですよね。せっかくのバレンタインですし、苺とかも追加で買っちゃいますか?」
「あのさ、晶。それって――」
拗ねていたことも忘れ、ネロは顔を上げて晶を見た。
晶は頬を赤く染め、はにかんだ。
「これからネロのお家に行っていいですか? 貴方には出来立てを食べてもらいたいんです」
「……!」
晶からの思いがけない誘いに、ネロは何度も何度も首を縦に振る。
「やっぱりネロって可愛いですね」
先ほど以上に心が浮き足立ってしまっているネロの様子を、晶は慈しむように見つめていた。