とある境界線の向こう ツアー客はぞろぞろと、土産物屋へ連れ込まれる 『屋』といったって、洒落た装飾も異国情緒もありはしない 薄暗く寒い、広いだけの箱の中 長椅子みたいな木製の台が、何本も何列も整然と、床を埋め尽くして並ぶ 【陳列】された雑多なもの もの もの 台と台の間は極めて狭い 人一人、横向きになってやっとこさっとこ進む 隣の列の品物をみたくて台をくぐる 這いつくばって 立ち上がりかけた背中を引っ掛けて 台が倒れて品物が散らばる
どこに控えていたのか あっというまに土産物屋の職員が集まってくる 通路の狭さをものともしない俊敏な移動 なにかコツがあるのかなあと放心して感心する 表情のない職員が、なにか五つ買えばゆるしてやる、という
それじゃあ、とのろのろ立ち上がり、手近なものを一つとりあげてみる ほしくない 少し先の籠のなかを覗いてみる 職員が二歩後ろをついてくる 適当になんでも五つ決めてしまえばいいのに、そうはしない 品物の質はどれもよくない 縁のかけた茶碗 揃っていない揃の食器 バネのいかれた髪留め 苦心惨憺してなにかぼんやりした五つを選んだ
さてようやっと支払いだと財布をひらけば、全職員分のチップを貰うのが決まりだと 顔をあげると カウンターの後ろ、壁際、通路 右手、左手、前方、背後 全ての視線がわたしの手許に注がれて
ああ もう帰れないのだなと悟った