ロミオ&ジュリエット 2024

kaisla
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公開:2024/6/3

とてもすごかった。すごい!よかった!感動した!ていうことを言葉にするのはかえって難しい。圧倒された心に支配されて、分析できないのだ。お友達のおかげでロミジュリ以外のWキャストは両方みることができた。みくらべ楽しい。CDでないかな。

全体像

筋立てはロミオとジュリエットだけど、はしょられているエピソードや付け足されている設定もあるし、なにより、シェイクスピアならではのことば遊びや言い回しからは遠くはなれるので、あくまでも『ミュージカルの』ロミオとジュリエットなのだと理解。いわゆるシェイクスピア臭はほぼしない。原作⇒ミュージカルへの翻案⇒歌詞としての日本語訳と、フィルターがたくさんあるので、まあそれはそうなるのかな。先行作品の影響を受けているらしいシーンが結構あるなとも思った。歌はそれぞれのソロも素晴らしいが、デュオ以上の曲がどれも圧巻。人の声のハーモニーっていいわねえ。

うーん?

『近未来』設定:冒頭で爆撃や荒廃した都市のイメージ+死が提示されるので、現在から何らかの転換点を越えた時と場所である、というような意味かとは思うのだけど。そう言ってみている割にはあんまり『近未来』感がないというか、設定が生きていないと思った。上記の『転換点』とモンタギュー・キャピュレット両家のいさかいになんか関連を持たせているのかな?と勘ぐったけど、そのような描写はみつからず。そして、最終的な鍵になるのは神父の調合したハーブ剤であり短剣でありなので、スマホだのAEDだののアイテムはむしろとってつけたような印象をうけてしまう。演劇=ライブであり、今現在の観客によせて、古典を現代的な味付けにすることに文句はないけど、あえて『近未来』と限定しなくてもいいんじゃないかな~。それより『いつかどこか』みたいな普遍性をにおわすほうがしっくりきた気がする。パンフレットの記載からも、ウクライナがどうとか今現実に起きている争いを引き合いに出して連想させているけれど、それらがいとも安易に持ち出されている印象を受ける。演出の意識を疑ってしまう。現実の殺し合いはエンタメのスパイスではないのだから。

衣装:こっちのモヤモヤは上と関連してループする。近未来っていうか、ここでいう近未来は北斗の拳的世紀末のイメージなのかな…?ていう衣装。若者組男性陣は若気の至りなヤンチャ時代のファッションなのだろうか。いやそれにしても!いちおう名家のご子息たちなんだよね…?もうちょっとお洒落さがある衣装がよかったなー。大人組は大人組で昭和のダンスホールみたいな格好だし。世代間の差と対立を表現するにしてもなんかちがう。衣装の世界観がよくわからない。いちゃもんになってきたからそろそろやめよう。

役と演者

ロミオ 原作ロミオには、いやお前さっきまでロザラインのことで身も世もないみたいなこと言ってたじゃん!とツッコミ入れたくなるのだが、本作のロミオにはジュリエットが最初で最後の恋人で、ロミオとジュリエットだけが唯一無二の恋をする。後述するように、パリスも落命するほどにはジュリエットへの執着をみせない。周辺事情を固めておいて、ロミオとジュリエットの『本物さ』をこれでもかこれでもかと知らしめる。しかしそれは悲劇的に断ち切られてしまう。地上の愛ではあり得ないっていう皮肉かも…なーんて。(岡宮 言い寄る女子ズに悪気なく、「やっぱり興味がわかないんだ。ごめん」という意味のことを超真摯なトーンで言ってきたのじゃなかろうかな。と思わせるロミオ。本当に、『遊びで付き合った』ことある!?歌、もともとうまかったけど、もうただうまいだけじゃなくなったねえ。凄味すらある。あと安定感というか安心感。)

ジュリエット 箱入りだからってお人形じゃないのだ。自分の生きる道を切り拓いてゆく勇気と力があったのに!それなのに!男どものやらかしを一身に背負わされ、尻拭いをさせられるように、落とし前をつける役割を任されたかのように死ぬ。そのような人物として、いまは受け止めている。物語や人物の骨格は変わっていないと思うので、シェイクスピアにはフェミニストみたいな視点があったと考えてもいいのだろうか。北村紗衣を読もう。おもえば、ロミオとジュリエットの歌う歌は、恋の歌のはずなのに、死を予感させる詞が散りばめられていてゾクゾクする。(吉柳 うたのおねえさんをイメージする声。ぶれない真っ直ぐな歌唱、素敵です。岡宮との組合わせしか見ていないけれど、甘々の恋人同士じゃなくて魂の双子みたいだった。少年役なんかも似合いそう。ピーター・パンとか。)

死 気づけばそこにいるこの存在がとてもよかった。舞台中央でこれでもかと魅せるシーンはもちろんで、舞台の片隅や主なストーリーが展開している場所から少し離れた位置でひっそりうねうねしているときや、いつのまにかスッと表れ佇んでいるのに想像力を掻き立てられた。「ひっ…いる……」という驚きも。(栗山 実体、意思、意図のありそうな死。ロミオのから生まれでたもの感がつよい。)(キム まず手足の長さに目を奪われる。生命の理の外のもの感がすごい。薄くて軽いのに存在の圧をずっしりかんじる。)

ティボルト この人天秤座ではないかしら。とてもとても生きづらそう。作中の不幸属性をこれでもかとてんこ盛りされてる人。生きてて辛そう。その辛そうさがすばらしい。バカが付くほど真面目なんだね。掟なんて破ることもできるだろうに、そうはしない。これは自分の読解力の問題かとおもうけど……キャピュレット夫人との怪しき関係×ジュリエットの出生の秘密=ジュリエットの実の父はティボルト!?て、二瞬くらい混乱した。さすがにそこまで盛られてないよね。よかった。(太田:他作品でおなじみ、好みの歌い方をする役者である。ギリギリ絞り出されるみたいな高音が、ひりひりぎりぎりしてるティボルトによくはまっていた。傷つきやすさと強くいなければならない葛藤がよく伝わってきた。)(水田 これはまたプライド高そうなティボルトだね。まだ青年になりきれてなく、幼気さゆえに最期に向けて突進していく感じがあった。健やかに育まれていたならばパリスみたいになれたかも、と惜しい。)

ベンヴォーリオ 君、いいやつだな。君だけになってしまった世界でも、君の人生を、挫けずに生きてくれよ。(内海 ロミオの兄的存在。夢想家でペシミストの弟が可愛くて、つい茶化してしまうけど、ほほえみをもって見守っているようなベンヴォーリオ。)(石川 まさしくダチって感じ。大丈夫かな立ち直れるかな。でも、賢く冷静な性質をもっていそうだから、この数日間をひとつずつ噛み砕いて自分の中に収めていけるよね。)

マーキューシオ 破れかぶれにみえる裏になにか隠している。必死に隠そうとしている。世界からの理解されなさ、世界の理解できなさへの苛立ちと寂しさ、だろうか。マーキューシオの死は、それらを隠しきれなくなった故の悲劇であり、故の解放であるようにも見えた。別のロミジュリでは、セクシャルマイノリティの設定を付与された演出もあると聞きかじったが、あーなるほどねえという落としどころだと思う。そういえばマシュー・ボーンのロミジュリ観にいってたよね。事切れるとこもっと時間使って芝居させてあげたい。駆け足でせりふ言わなきゃならない風をどっちのキャストからも感じてしまって、ゆっくりやっていいのに!と。(伊藤 シーンごとの感情の変化の滑らかさとかなんとかそういうのがレベルアップしたらもっとよさそう。醸し出される凄い虚無感がよかった。)(笹森 ぶっ壊れ系。歌じゃないところのお芝居がよい。ちょっとした所作とか表情いろいろ工夫されていてよかったな。)

パリス 彼を傲慢と評するならそれは、彼が他の登場人物とは別の理の中に生きているせいだろう。モンタギュー・キャピュレットの若者とは別の世界で育った人。誰かを憎めと教えられていないし、憎しみ合う人々の姿に触れる機会もなかったんじゃないかな。借金のくだりはおお?となるけど、「金に物を言わせて好き放題してやるぜ」でもなくて、「僕ちゃんシアワセだからそれくらいのお礼はさせてよ(はぁと)」みたいな。自己肯定感が強く揺らがない人って、時と場合によっては疎まれるよね?そんなパリス。このパリスはジュリエットの眠る霊廟に出向かず(お家で泣いてるのかも)、それゆえに落命しないのだけど、ロミオの恋とくらべたときに『本物度』を低くみせるための仕掛けかもしれない。ひとしきり悲しんだあとは案外ケロッと立ち上がり、ひと回り大きな人物になって歩きだすのではないでしょうか。カーテンコールの♪世界の王♪をいい位置から拝見できて本当にラッキーだった。めちゃくちゃたのしそう~!(雷太)

乳母 原作の乳母より上品で教養がある。年の功とお嬢様への愛ゆえに、現実をみてしまったことが裏目にでるかなしさ。歌も楽しいのから切ないのまで幅広くていい役だなあ。

ロレンス神父 詰めが甘いよ!思えば、登場時からフラスコを爆発させたりしているのだった。善良な人だ。

モンタギュー夫妻とキャピュレット夫妻 両家のキャラクター造形の違いはなになのかな~って考えたときに、息子の母親と娘の母親って違うもんな!という持論を思い出した。時代がかわってもそのあたりは変わっていないことの証左かもしれない。キャピュレット家に関しては、家父長制滅びろにも結び付くんだけど。

ヴェローナ大公 敬われている割にいうこと聞いてもらえない領主さま。不憫!領民の血の中に毒がながれてるって言うの相当だよね。朗々と歌うとはこういうことかと思わせる歌声であった。すばらしい。(渡辺)

スウィング・ダンサーのみなさん 目が足りない!個性豊かにいろいろやってて、舞台上の展開が厚い。素敵です。

@kaisla
砂漠の井戸を管理する魔女、になりたい一般人。 かや児とか圓子とかの外部メモリ。