就職活動中に押さえておくべき労働とお金の話

Kaito Sugimoto
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N予備校プログラミングコース Advent Calendar 2023 4日目の記事です。

N予備校でプログラミングを学んでいる方や、N予備校の教材を作っている方の中には、これから就職活動を控えている学生の方も多いかと思います。私も2年前くらいがちょうどその時期でした。

エンジニアとして新卒からバリバリ活躍したい!!という野心を持っている方もいれば、本当は労働とかしたくないけれど何となく営業とか向いてなさそうだしエンジニアにするか〜というノリの方もいるかと思います。

幸か不幸か、日本はデジタルトランスフォーメンションで遅れを取っているので、国全体としてはやることが沢山あるという状況です。また、IT業界以外でもITやらなくちゃだめだよねという意識が(特にコロナ禍以降)根付いてきているので、メーカーや金融、官公庁なども就職先の選択肢として入れやすくなってきています。

少子高齢化でオワコン化しつつある(?)日本を捨てて、初手から外資系企業で新卒として働くというのも魅力的な選択肢です。

どんな選択肢を取るにせよ、新卒就活というのが一番幅広い選択肢を吟味できるフェーズであり、そこで後悔してほしくないというのが1人のOBとしての想いです。

そこでこの記事では、就活に臨むうえで頭に入れておくべき労働とお金にまつわる話を書いてみます。

フレックスタイム制とコアタイムの有無

まず、志望している企業がフレックスタイム制を導入しているかは第一に考慮に入れておくべきでしょう。可能であれば、コアタイム(必ず勤務していなければいけない時間帯)が無い形態の方が良いと思います。

フレックスタイム制は、何も夜型のエンジニアのための制度というだけではありません。

今の時代の日本企業において、社員が育児に安心して取り組める環境を整えることは必須化しています。その中で、急な家庭のトラブルが発生した場合に業務を一時中断し、別の時間帯に再開できるようにすることは、会社としての当然の義務になりつつあります。

強い言い方をすれば、フレックスタイム制を導入していない企業は、社員の長期育成に本気で取り組んでいない企業と考えてもいいかもしれません。

裁量労働制

フレックスタイム制とは別に、裁量労働制という形態もあります。どちらも好きな時間帯に働ける制度のように聞こえますが、賃金の支払われ方に違いがあります。

フレックスタイム制では、標準労働時間 × 勤務日を月の労働時間としてカウントし、それ以上働いた分が残業代として支払われます。一方で、裁量労働制では、あらかじめ払う金額が決まっています。

こう書くと裁量労働制は残業代が出ない悪の制度のように聞こえてしまいますが、労働時間ではなく成果のアウトプットをもとに給与を決めているとも言えます。

事実、外資系企業のエンジニアや大学の研究職のような、成果主義が徹底されている職種においては裁量労働制はむしろ当たり前になっています。それだけしっかり給与が出ていることを前提にしているというわけです。

もし、好きな時間帯に働きたいというだけの理由で裁量労働制を選ぶのであれば、一度立ち止まって、給与水準を確認したり、同じ給与水準のフレックスタイム制の会社がないかを探したりしてもいいかもしれません。

標準労働時間

少し話を戻すと、裁量労働制を除けば、基本的には標準労働時間を超えた分が残業代として支払われるのですが、実は標準労働時間にも違いがあります。私の勤務先は7.5時間/日ですが、7.75時間/日や8時間/日の会社もあります。

月20日勤務日があると計算すると、標準労働時間が7.5時間/日の会社と8時間/日の会社では、月の標準労働時間に10時間の差があることになります。

つまり、7.5時間/日の会社では、8時間/日の会社で20時間/月相当の残業をしたとしても、30時間/月も働いたとみなされるので、ちょっとお得なのです(ただし、法定労働時間は8時間/日なので、7.5時間/日の会社であっても0.5時間/日の分は割増賃金にはならないはずです)。

固定残業手当

特に Web 系の企業においては固定残業手当の制度を導入している会社が多いです。

少し前に、とある Web 系の企業が新卒の基本給を42万円に引き上げたというニュースが話題になりましたが、実際には固定残業手当が80時間/月含まれているそうです。このように、固定残業手当は給与を高く見せかけることに使われるというのが悪い側面です。

反面、固定残業手当が出るとしても、必ずしもその時間分まで働く必要はないため、もし働かなければその分高い給与を貰えるというのが良い側面です。事実、私の知り合いの Web 系の企業に勤めている人は、固定残業手当が30時間/月あるのですが、残業はほぼしていないそうです。

実際のところは、残業をどのくらい許容するかは、①企業風土、②就職した後の配属先の環境、③個人のスタンス、によってまちまちであり、統一的な見解を出すのが難しいです。

私の場合だと、勤務先に固定残業手当が導入されておらず、月に30時間程度(前述した標準労働時間のトリックから実は20時間なのですが...)は残業していますが、特にそんなに負担感は感じておらず楽しく働けています。むしろ、大学院時代に研究に費やしていた時間の方が多かった気がします。

なので、固定残業手当が30時間/月ある(就職先候補の一つだった)Web 系企業よりも結果的に多く賃金を貰っており、振り返ると固定残業手当はあまり意味がなかったなという印象です。

ただ、これは私のポジショントークです。実際は就職後の配属先で、ある程度残業してもいいなと思えるレベルのモチベーションの上がる仕事をやれるようにすることが一番大事です。モチベーションが上がらなければ、残業うんぬん以前に1日8時間働くことも大変ですから。

なお、フレックスタイム制を導入しているのであれば、働きたくない日は勤務時間を大幅に抑えた上で勤務日扱いにもできるため、モチベーションコントロールの観点から大変有利です。

基本給からは見えないお金:賞与(ボーナス)、家賃補助、退職金

労働を始めると、基本給とは別に様々な形でお金を貰えるチャンスがあります。代表的なものとして賞与(ボーナス)家賃補助退職金を挙げます。

賞与が何ヶ月分貰えるかは、募集要項に明示的に書いていない企業も多いです。そのため、可能であれば企業の口コミサイトやOBを通じて情報収集すると良いでしょう。1年目の夏に賞与が発生しない企業もあります。

また、企業の財務状況が著しく悪化した場合、賞与がカットされることもあるため、あまり当てにしすぎない方がいいでしょう。

次に、家賃補助ですが、企業によっては無視できないレベルの金額を払ってくれることもあります。これも情報収集が必須です。ただし繰り返しになりますが、このような福利厚生系の手当は(賞与よりもさらに)コストカットの対象になりやすいので、当てにしすぎてはいけません。

最後に、特に日本の伝統的な企業においてはこれまで終身雇用が前提となっていたため、長く勤務を続けていた社員に報いるという意味で退職金を用意しているケースがあります。会社によっては、退職金さえあれば老後の備えは他に不要なレベルの金額を払ってくれる場合もあります。

ただ、今後の日本の状況を考えると、退職金だけで老後を乗り切ろうという考え方はいささか危険です。退職金の課税額が今後どんどん増加し、実際に貰える手取りの額が目減りしていく可能性が大いに考えられるからです。また、退職金は毎年の給与をベースに積み立てられるため、その会社での昇給が見込めない場合、インフレで実質的に貰える金額はどんどん減っていくことになります。

個人によって考え方は異なるとはいえ、今の時代は貯金をNISAやiDeCo経由でインデックス型の投資信託に突っ込み、日本のインフレ率よりも高い率でお金を増やしておく方が安全とは言えるのではないでしょうか。少なくとも私はこのような考え方を持っているため、退職金という制度は非常に時代錯誤のように感じてしまいます。

とはいえ、同じ給与水準の会社であれば、退職金がない企業よりも退職金がある企業の方が優れているのは事実です。例えば、30代ごろに転職を行なった場合でも、退職金制度があれば、それなりの額の退職金を(老後の資産としてではなく)一時金として直接受け取ることができるため、転職活動を行う際にも安心感があります。

なお、企業によっては確定拠出年金の掛金を会社が負担してくれる場合もありますが、これは退職金として一般的に貰える額よりも通常かなり少額なので、この会社掛金だけで老後を乗り切るのは不可能です。自分でマッチング拠出するか、NISAやiDeCoを別に使うか、あるいは現金で貯めておくか、色々選択肢はありますが、何らかの手段も併用して将来に備えましょう。

その他、企業によっては財形貯蓄という制度も用意されていますが、これは実態としてはマイルドな投資信託という感じです。よほど自分でNISAやiDeCoの手続きをするのが面倒な人以外は、使うメリットは特にありません。

また、持株会制度が導入されている企業も多くあります。多くの場合奨励金が用意されているため、お金を追加でもらった状態で投資できるのがメリットです。もちろん、一つの会社の株を買うことになるので、投資信託に比べれば暴落した場合のリスクコントロールが難しくなります。

私の勤務先はいわゆるディフェンシブ銘柄なので、安心して持株会に突っ込んでいる同期も多数いますが、私自身は懐疑的なので持株会を使おうと思ったことは一度もありません。

健康保険の自己負担限度額制度

最後に健康保険の話をしてこの記事を締めます。

皆さんは就職活動中に健康保険について考えたことはあるでしょうか?私はありませんでした。しかし、今考えると実は結構大きなポイントです。

例えば、IT系の企業だと、関東ITソフトウェア健康保険組合という健保に入っていることが多いのですが、この健保があれば、どんなに高額な治療をしたとしても1ヶ月の医療費の自己負担限度額がなんと20,000円に抑えられるのです(参照: https://www.its-kenpo.or.jp/hoken/situation/case_07/kougaku/index.html)。

私の勤務先の健保では残念ながら自己負担限度額が25,000円なのですが、それでも、本当は80,000円程度かかるはずだった親知らずの全身麻酔抜歯が25,000円で済んだのは大きかったです。

社会人をやっていく上では、体調にガタが来てしまう時期も今後必ず来るはずです。就職先選びでは、ぜひ、健康保険の自己負担限度額制度もチェックしておくといいのではないかと思います。