ブロンコの助言を元に、ビルダーがヤギの好物を作って指定の場所に置いて、隠れて待っていたら、匂いに誘われて出てきたローガンのヤギ。
「追うぞ!」
ジャスティスの一言で、留めておいた馬に跨がり三人でヤギを追いかけた。
私もジャスティスも猛スピードで馬を走らせているが、ビルダーは・・・と振り返ろうとしたら、すぐ隣でこちらを見て笑っていた。
「心配してるの、アンスール。ちゃんとついていけるよ」
「そうでしたね、あなたはすごい人でした」
ハイウィンドから来たこのビルダーは、サンドロックに来てすぐにリフトを作り、ギーグラーに壊された橋を直し、更には給水塔まで直してしまった。それを見てすごいと思って、そのどうにもならない気持ちのまま、手紙を書いてビルダーの家のポストにいれてしまった。
差出人の名前を書くのを忘れたにも関わらず、怪しまず返事をくれたビルダーは、やはりすごい人だと思った。
何度かのやり取りの後、手紙を入れているところを見られ、見事に私が手紙の主と突き止められた。その前にジャスティスに相談したら、『あー、お前さんはビルダーに、いや、うん、いいんじゃないか、まずは相棒とか』と言われていたから、そのつもりで話していたら、ビルダーは
「いいよ、恋人。あなたとなら楽しそうだから」
あっさりとそう言った。やはり、あなたはすごい人だ。
ヤギを追って、崖に追い詰めたと思った矢先、その鞍から小型爆弾が落ちた。避ける間もなく爆発、私とジャスティスは馬から落ちてしまった。
「アンスール!ジャスティス!」
止まろうとするビルダーに、ジャスティスが先に行けと指示していた。それに頷いて駆け抜けて行くビルダー。やはりあなたはすごい人だ。体勢を立て直し、馬の無事を確認したのと同時だった。
「うわああああ!」
「「ビルダー!?」」
ローガンのヤギが崖際で突然止まり、ビルダーの乗る馬に威嚇したようだった。それに驚いた馬が拒止して、ビルダーの身体が宙に浮いていた。
すぐに身体は動いた。それでも間に合わない。ビルダーの姿が崖の下に吸い込まれて行った。
「・・・・・・この高さじゃ・・・」
ジャスティスの絶望的な声も、耳を通りすぎるだけ。身体がいうことを聞かない。
「アンスール、おい、しっかりしてくれ!」
返事をしようにもなにもかんがえられない。
「クソッ!アンスール!お前さんには辛いだろうが、ここで落ち込んでてもビルダーは帰ってこない!町まで戻るぞ!戻れば解決策もあるかもしれないだろ!」
・・・・・・
「ああー!ダメか!仕方ない、ボルダー!お前のご主人を運ぶから手伝ってくれ!」
いつのまにかサンドロックに戻っていた。正確に言うなら、サンドロックにあるドクターファンの診療所のベッドの上に横になっている。
「きがついた!きがついた!」
ベッドのフレームに、ドクターファンの飼っているカラスのXがとまっていて、私が目覚めたとしゃべった。
「・・・・・・ん」
「?」
ドクターファンが私に手紙を渡してきた。開いてみたらジャスティスの字だった。
『後の事はやっておく、しばらく休め』
ジャスティスがそういうなら、休んだ方がいいのだろう。ドクターファンにゴルを渡してから診療所を後にした。
外に出たら、行くときと同じようにいい天気だった。町も天気も変わらないのに、ビルダーだけがいない。ビルダーが作った博物館とゲームセンターの看板もそのままで、光を受けてきらきら輝いている。
サンドロックのもう一人のビルダーが慌てて家を出るのが見えた。ジャスティスから聞いたのかもしれない。彼女はビルダーと仲が良かったから、あんな反応になるんだろう。そのままマートル広場の方へ走っていった。
ふと気になって、ビルダーのワークショップへ言ってみることにした。ワンダリングY牧場の前を通って行くと、サンドロック駅の向こうにワークショップの看板が見えた。勝手に入るのは悪いと思いながらも、私の足は止まらなかった。
何に使うのかわからないマシンが大きな音を立てて動いている。きっと出掛ける前に稼働させて行ったのだろうな。主が戻らないのに、機械は動く。何て滑稽なのだろうか。
ビルダーの家の壁に目をやると、ストーンペイントがかかっていた。
「アンスールって、石がすきだよね。もしかしてこれも好きだったりする?」
ああ、そうだ。以前ビルダーとベンチに座って話をしていた時、見せてくれたのを思い出した。そのときに私は・・・
素敵だけど飾るところがないから、あなたの家に飾ってくれたら毎日見に行きますと答えたのだった。飾るなら家の中だろうと勝手に思っていたから、飾っているとは思っていなかったし、ビルダーも飾ったとは言わなかった。
「ビルダー・・・」
もう、ビルダーはいない。この町には、あなたが終わらせた仕事がたくさん有りすぎる。
私の部屋には、乾くのを見た壁と、私のために作ってくれた石の棚。家の前にはとてもすごい仕事の給水塔。家からはとてもすごい仕事の橋が見える。どこに行っても、あなたとの思い出がある。お互いに仕事があるからと、いつもオアシスで話すのがあなたとのデートだった。それでも私は楽しいと感じていたし、あなたもいつも笑っていた。時間になって、別れる時にはハグをして仕事に戻っていくのが約束だった。その約束も、もう出来ないなんて。
宛もなく歩き回っていたら、ブルームーンの野外ステージが騒がしくなっていた。どうでもいいかと通り過ぎようとしたら、そこにいたジャスティスに引き留められた。
ステージに司祭が立って演説していた。何を話しているか理解したくないが、ステージに集まったみんながビルダーの死を悲しんでいるのだろう。 諦めなければいけないのかと思った瞬間
「生きてるよー」
聞き覚えのある声がした。
「ご心配をお掛けしましたー」
暢気に手を振るビルダーが、ステージに現れた。生きていたのかと、ありとあらゆる住民にもみくちゃにされて、ジャスティスにはあの崖を落ちて助かったなんてと言われていた。
「アンスール」
ふいに呼ばれて、声の方を見ると、ビルダーがいつもと違う顔をしていた。私の名前を呼んだと同時に、周りにいた住民がビルダーにあいさつをして去っていった。
「アンスール」
名前を呼ばれただけなのに、そちらへ行く気になってしまうのは、なぜだろう。腕を広げたくなってしまうのはなぜだろう。
「・・・・・・会いたかった」
「心配かけて、ごめんね」
「あなたが崖から落ちたとき、私の大部分も失ったんです・・・」
「うん、私は戻ったよ、もう大丈夫だよ」
「・・・・・・死んだと思っていました。この町にはあなたとの思い出が多すぎて、何処かに行ってしまおうと・・・でも、あなたは帰ってきた、本当によかった」
私に抱きついたままのビルダーが腕の力を強めた。私の腕の辺りが濡れている感覚がある。もしかして、泣いているのだろうか。
「・・・アンスール、今まで以上にこれから忙しくなると思うんだ。だけど、約束は絶対に守るからね」
「一日一度のハグですか?」
「うん。忙しくても、あなたを探して飛び付くから、ちゃんと受け止めてね」
「・・・先に声はかけてくれますか?」
そう言ったら、ビルダーが抱きついてから初めて顔をあげた。
「ふふふ、もちろんだよ、約束ね」
また一つ、ビルダーとの約束がふえた。あなたとの約束は、いくつあってもいいものだと思う。
おわり