○ぼろぼろの日

なぜか今日は何をやってもうまくいかない。

組み立てマシンを使えば、ちゃんと組み立てたものがガラガラ音を立てて崩れる。炉を使うと、変な形の棒が出来る。更にはリサイクルマシンは素材が詰まって壊れてしまった。

もう今日はダメだ・・・一日お休みしようと広場へ出掛けた。

私は、ハイウィンドから来たビルダーだ。このサンドロックに来て、二年になる。なんだかんだ色々あったけれど、ここからこの町はもっとよくなっていくと思っている。

いろんな事件が終わって、ゴタゴタがなにもない、いい日が続いていたのに、これだもの。

何でやることなすことよくない方に行くんだろう・・・なんて考えて歩いていたら、商業ギルドの植木鉢に足をぶつけた。

「いっ・・・!」

衝撃で頭を動かしたものだから、植わっていたサボテンに頭を突っ込んでしまい、更にとげが頭に刺さった!

「んぎゃっ!」

そして更に。あまりの痛さにのけぞったものだから、尻餅をついてしまった。なんなんだ、このついてなさは!

「ぐうっ」

頭に刺さったトゲを抜く。頭に巻いていたゴーグルの布に刺さったことは不幸中の幸いだった。それでも痛いけれど、ちょっと傷が出来たくらいならまだ何ともない。これ以上の怪我はもっとしているし。

もう、今日は本当におとなしくしていた方がいいな。

町の広場について、この町に来てすぐの頃に作ったベンチに座る。これを作って、町の人に感謝されてとても嬉しかったのを、これに座る度に思い出す。

「はあああ」

そういえば、ここ最近ずっと戦いばかりだった。ゆっくりする暇もないくらい走り回っていたな。身体が休めと言っているのかもしれない。

町も落ち着いて、観光客の人も増えてきた。広場にもちらほら姿が見える。雑貨屋で買い物する人、カメラを持って風景を撮ったりセルフィーしている人・・・いろんな人がいる。みんな楽しそうだ。

「ニャーオ」

声のする方を見たら、バンジョが私に話しかけてきていた。

「どした?」

バンジョはサルベージ会社の人が拾った猫で、牧場の娘であるエルシーが飼っていたものの、ちょっと訳ありで、広場にすんでいる。

声をかけたら、バンジョは私の膝の上に乗ってきた。意外と人懐っこい子である。撫でてあげたら喉をならしてご機嫌なようだ。

「いいこだね」

動物を撫でていると、ささくれた心がほぐれていくような気になる。バンジョの喉の音を聞いていたら、なんだか心地よくて・・・

「はっ!?」

気がついたら寝ていた。どれくらい寝ていたのかとキョロキョロしたら、そんなに経っていない感じだった。

「はあ・・・ん?」

ふと自分の左右を見たら、広場で暮らしている猫のマキアート、民兵団の副官である猫のキャプテンが座っていた。

「あら」

更に私の足元には犬のニモまでいる。バンジョもそのまま私の膝の上で寝ている。

この動物たちは、広場で暮らしている。ああ、キャプテンは違う。キャプテンは確かジャスティスが飼っていると思ったが・・・はて、どうだったか忘れてしまった。

広場で暮らしている子達だけでなく、キャプテンにも好物をあげたりはしていたけれど、ここまでみんなにくっつかれることはなかったな。

もしかして、落ち込んでいるのをわかっているのだろうか。

「うーん、みんないいこだね」

みんなを撫でてあげた。それぞれちゃんと返事して、かわいいな。猫はみんな喉をならしてくれたし、ニモはお尻を振って喜んでいる。んん、かわいい。

にこにこしていたら、シャッター音が聞こえた。そっちをみると、観光客が写真を撮っていた。さっきいた人だ。何を撮ったのかは解らないけれど、ま、気にすることもないだろう。

昨日、あんなについていなかったのが嘘のように組み立てはうまく行き、炉の棒もいつもの形になった。なんだったんだろう。今日もあんな感じだったら、物を作るのをやめようかと思ったくらいだ。

「はあ、よかった・・・」

と安堵したのも束の間。町の坂をこちらへ向かって駆け降りてくる人がいた。

「ビルダー!」

あれ、コンストラクションジャンクション経営者のハイジだ。駆けてくるなんて珍しい。しかも何か紙を持っている・・・なにか事件でもあったのかな?

「どうしたの、ハイジ。そんなに慌てて」

「どうしたもこうしたもないよ、これ見て!」

持ってきた紙を広げて、とある記事を指差した。『自由都市で一番有名なビルダーの素敵な一面!』というタイトルと共に、ベンチに座る私と猫たちと犬の写真が掲載されていた。ああ、昨日のシャッター音はこれだったか・・・

「この写真、他にも何枚かあるらしくてね、この記者の故郷で売られて、かなり儲けてるらしいの」

「へー、いくらするんだろう」

「気にするのそっちじゃないでしょう!」

「いや、注文するときに、サンドロックでしか撮れない私の写真を同封してみようかと思って」

「またすごいことを思い付くわね・・・気にはなるけど」

ハイジは呆れているような顔をしているが、意外と乗り気なのかもしれない。

「とにかく、この写真はあなたに許可を得たものではないのよね?それなら、トルーディから正式に抗議文を出してもらいましょう」

「あー、そこまでしないでいいよ、この人もそんな大事になると思ってないはず。だから、私がちょっと手紙を書くから待っていてくれる?」

「え、そんな」

ハイジを庭に残して、私は家に戻ってその記者へ手紙を書いた。

『こんにちは、私はサンドロックのビルダーです。先日の旅行は楽しかったですか?私の写真、撮ってくれてありがとう。その日は本当についていない一日で気分が沈みがちでしたが、ここに写っている子たちのおかげでリフレッシュできたんです。そんな一瞬が撮れているすてきな写真だったので、故郷の両親と、幼馴染に送りたいのです。もちろん私も家に飾りたいです。サンドロックのみんなにも見てもらいたいので、残りの写真を全て送ってくれませんか?いいですよね?よろしくお願いします』

「よし」

手紙をハイジに渡して、こう付け加えた。

「トルーディには、抗議文は出さずにこの手紙を町の名前で出して欲しいと伝えてくれる?町の名前じゃないと信じないかもしれないから」

「あなたがそういうなら、そうするけれど・・・勝手に写真を使ったことはよくないくらいは言ってもらうわ。アルビオのやらかしの時のアミラの怒り様は見たでしょう?あれくらい怒っていいのよ?」

「アミラの怒りは、どちらかと言えばアルビオのやらかしの方に怒ってたと思うんだなあ」

「まあ、それはそうかもしれないけど・・・」

私の出した答えに納得がいっていないようだけれど、ため息をついてから頷いて、ハイジは町へ戻っていった。

新聞に載っていた私の顔は、落ち込んでいたとは思えないほど穏やかな表情をしていた。

いつだったか、キャプテンとモグラのゲド、ギーグラーのラリー、カラスのXと話していたときがあった。そのときにラリーが「キャプテンはとても思慮深い男だ」と言っていたのをきいたのだ。

昨日、私がベンチに座ったとき、きっとキャプテンは私のことを見ていたのだろう。表に落ち込みを出したつもりはないけれど、あんな早くに広場にいたことはいままで無かったから、何かあったのだろうと考えて、広場にいる子達に頼んだのではないだろうか。

全てが偶然だとしても、別に構わない。私はあの子達によって救われたのだから。

さて、それじゃあ、みんなの好物を作りますかね。

数日後、あの記者から写真とゴルが送られてきた。

まあ、残りの写真を送れと書いたのだから、怒っていないわけではないということは多少伝わっただろうとは思ったが、入ってる額が桁違いだ。そんなに売れたの?写真はかなり多いな。全種類何枚か取って 、あとは燃料にしてしまおう。

「よし、これでいいか」

干した魚と、おもちゃをふたつと、金ぴかの蠍を持って、私は広場へと急いだ。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen