ペンにハートの結び目を渡したとき、彼は、肩を並べて戦うことが愛の証明だと言って、パラダイスロストへと私を連れていった。
中に入って、あちこちにいるロボットを倒して、彼がだんだん興奮していくのは隣に立っていて解った。その時に覚えた少しの違和感を、いま思えば信じれば良かったのかもしれない。
パラダイスロストの奥地には、かなり大きなロボットが待ち構えていた。それを私と倒したペンは、戦闘狂と言わざるを得ないほどに興奮状態だった。
そのまま、その大きなロボットと、今まで倒してきたロボットを使って、二人で腰掛けられるソファを作ったのだ。ビルダーの私からすれば、ずいぶんと作り慣れているように思ったけれど、人から何かを作ってもらうことはほぼ無かったから、素直に嬉しかったのを覚えている。
あのソファは、パラダイスロストに置いてきた。作り方を教えてもらっていたから作ることは出来たけれど、ペンが名付けた本当の『愛とソファーとロボット』は、あの場所にあるんだ。
パラダイスロストに向かうと、道中もロボットがあちこちにいる。今の自分からすれば、そこまでの相手ではないが・・・今までの疲労が自分でも解るほどに出てきている。ここの道は細くて狭いから、敵を避けて進むのは容易ではない。仕方ない、戦いながら進むか。
「遠距離攻撃は地味に痛いんだよなあ」
トロッターと不機嫌な秘書という、元は受け付けをしていたロボットだったらしいが、今は侵入者を丁重に追い返す害悪なロボットと化している。こっちに近づかず、腕から弱めのビームを放って攻撃してくるのだ。体も小さいから、気が付かずに見過ごして連続でビームを撃たれてしまった。幸い、止血剤は持っているから事なきを得ているが、ちょっとこれ以上は戦えない・・・パラダイスロストの入り口はすぐそこなのに、スイーパーという元は掃除ロボットが行き先を塞いでいる・・・避けるには体が大きいし足場も狭いから無理だろう。使い慣れた短剣をしまって、アサルトライフルを構える。発射してこちらに気が付いたスイーパーが、こちらの発砲にも怯まず向かってくる。まずい、構えを解くのに手間取った!
「ぐっ!」
スイーパーの右手に付いているスイーパーで殴られ、足場を踏み外してしまった。辛くも足場の縁に掴まれたから落ちてはいないが、持っていたライフルは落としてしまった。パラダイスロストの底に落ちていくライフルを見ながら、自分も落ちても良いかもしれないと思った。
依頼をこなし、遺跡に潜る生活を続けている途中で、一縷の望みを賭けて民兵団の詰め所に行ったことがある。入ってすぐに、ペンと一緒にいたレフの、腕相撲を楽しむ声が聞こえてきた。牢屋に入れられているのに、暢気なものだと呆れたが、彼が元気なのは良く解ってホッとしたのだった。机に座って、書類を書いていたアンスールがこちらに気が付いて「ビルダー」と呼んだ瞬間に、牢屋の声がピタッと止まった。
その瞬間、私のやることは決まった。アンスールに挨拶をして、モンスター討伐の依頼を見ることだった。張り出されている依頼を全て受けるとアンスールに告げて出ようとしたら、普段あまり感情が動かない彼に「くれぐれも気を付けてください、今のあなたでは荷が勝ちすぎます」と言われてしまった。彼にとって、それは最大級の心配で、でも止めないのはアンスールらしいなと苦笑しながら彼にじゃあねと声をかけて民兵団を後にした。そのじゃあねは、アンスールに言ったのか、ペンに言ったのか、今ではもう解らない。
命の危険が迫る中で、そんなことを思い出したことで、死はすぐそこだろう。だって、体力が足りなくて、一人では這い上がれない。体力が尽きるのも時間の問題だな。
私を狙っていたスイーパーは、私が見えなくなったことによって、ターゲットを解除していた。ペンがローガンを追い詰めたように手を踏まれることはないだろう。ああ、こんな時のために、ローガンにヤクボーイのロープの使い方を教わっておけば良かったか。いや、死が迫る中にそんな生にしがみつこうとしているのも変な話だ。
唐突にスイーパーが攻撃音を出した。こちらに気が付かれたかと構えたが、どうやら違う。破壊された音が聞こえて、足音がする。
「おい、ビルダー」
「あ?」
頭上から声がして、壊れたスイーパーが喋ったのかと顔を上げた。
「ローガン?なんで」
「助けて良いか?」
生殺与奪の権を握られている・・・しかしローガンはそう聞きながら、すでに私の手を取って引き上げている。すいぶんと簡単に引き上げられてキョトンとしてしまった。
「・・・・・・死にたかったか?」
「それも考えたけど・・・もし死んだらさ、会えるかもしれない機会を逃す方が嫌だなって」
さっきふと思ったのだ。町長が勲章を持ってきた後に手紙が送られてきて、ペンは連行された後に刑務所に入って、そこでずっと刑期を過ごすのだという。もしかしたら『勲章を持つもの』として面会ができるかもしれない。彼を更正させるためになると押し切ってもいい。立場は利用できるならいくらでも使ってやる。
そんな、叶わないかもしれないけれど、信じたい夢を持ってしまったから。私は生きることを決めた。
「へえ、それならいい。しかし・・・なんでこんなところに来たんだ?」
特に怒りもしないローガンに拍子抜けしたが、ここに来た理由を簡単に話した。私の話すことに何の意見もせず、頷きながら聞いてくれた。
「なるほどな。それじゃあ、オレは何も言えないな」
「止めないの?」
「どうせそう言ったところで行くんだろ?言うだけ無駄さ」
そう言って、ローガンは腰につけているバッグからなにかを取り出し、私に差し出した。それは見たことの無い丸薬だった。
「お前さんがブルームーンを出た後に、ドクターが訪ねてきてな。きっと無理するだろうから、これを渡してほしいと頼んできたんだ」
見た感じは、ファンスペシャルのようだけれど、嗅いだことの無い香りがしている。ファンスペシャルのレシピは知っている。だから、たぶんこれはドクターのオリジナルだろう。
「無理するってバレてたか」
「あまり話さないが、あのドクターは住民のことをよく見ているぜ。それを飲んだら滋養強壮になるとか言ってたが、その後必ず休めとも言っていた。休まないと今度こそ入院する羽目になるとな」
「あー、元気の前借りって事かな。確かに今回はちょっと危なかったし、行ってきたら休むようにするよ」
「ちょっと?」
「ははは」
さすがにその発言にはローガンも顔を歪めたから、とりあえず笑っておいた。水も持ってきてくれたので、それをもらって薬を飲んだ。ドクターの作る薬は、即効性なものが多くて助かる。すぐに身体がぽかぽかして、痛かった所が楽になっていく。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ」
入り口で振り返ったら、ローガンは同じ場所で立っていたので、彼に手を振ったら、振り返してくれた。
続く