ポルティアとサンドロックを結ぶ道を作る為に、まずはそこへ続く橋の強化をして、更には道中の大きな岩を壊し、やっとトンネルの始点へとたどり着いた。
しかし、そこは固い岩盤が続く場所。始めの一歩は大きな爆弾を使い、その後はショナシュ・ブリッジで使ったガンガム・・・じゃなかった、 モバイルスーツにドリルをつけて、掘削作業を素早く行えるようにしたのだ。そんなモバイルスーツでも、次の段階であるスチールフレームを設置していくようになるにはかなりの時間がかかるということで、それまでは町の依頼などをこなしていくことになった。
たまに、このプロジェクトの責任者のハイジから足りないものを調達して欲しい依頼も入るとの事で、商業ギルドの依頼ボードはよく見ておいてほしいと頼まれた。
依頼もこなし、ハイジの依頼も無事にこなし、特になにもなく静かだな日々を送っていた矢先、ブロンコが町に戻ってきた。
しかも今度は「ローガンの居場所の手がかりを見つけた」というのだ。
「はあ?知らないのか、おまえはクビだよ」
「今度こそ本当かもしれんぞ、ペン」
ブロンコが隠れ家と言っているブルームーンの客室に、ジャスティスとペンと私が集められていた。ペンまで駆り出すとは、そんなに危険なところなのだろうか。
ブロンコ曰く、ローガンのアジトを見つけ出した「モグラ」と待ち合わせしている洞窟に私たちを連れていきたいのだそうだ。モグラとは、諜報員だったり情報提供者という意味だけれど・・・信じて大丈夫なのだろうか?
「モグラだと?それならなぜ早く言わない?すぐに行くぞ」
ジャスティスの提案に、ペンが難色を示した。ブルームーンの限定メニューを食べたいのだそうだ。まあ、おいしいけれど・・・仕方ないのでペンは食べ終わったら駅で待ち合わせすることになった。
駅で待っていたら、牧場の方からジャスミンが声をかけてきた。
「ビルダー、お手紙ですよー。ニアさんから・・・あ、今から民兵団のお仕事?それならポストに届けておきますね」
「ああ、いいよ、もう一人待ってるところだから、もらっておくよ。ありがとう」
ジャスミンから手紙を受け取って、ポーチにしまおうとしたら、ジャスティスがそれを止めた。
「あー、ビルダー。どうせペンは俺たちを待たせていても優雅にメシを食ってるだろうよ。そっちのベンチに座って読めばいい。それに、もう少しすれば、アンスールも合流できるだろうし」
「え、あ、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
駅にあるベンチに腰かけて、ニアからの手紙を開く。
『ビルダーへ
知られちゃった!?ちょっと、その子に病気、移ってないよね!?
書いてないから大丈夫って信じてるけど・・・全くもう。
そういえば、あんたは昔から子供に好かれてたよね。そっちでも好かれるなんて、変わってないんだね。
新聞、見たよ。あんたの両親も心配してたけど(手紙ついてるよね?返事出してるの?)、解決したみたいで何よりだよ。緑色になったあんたを見てみたかったけど(笑)
わたしも忙しくなってきて、返事が書けないかもしれないけど、手紙は書いてよ、これでも心配してるんだからね。じゃ、またね』
あ、そういえばアンディが無事って書いてなかったな・・・。次の返事にはちゃんと書かないといけないな。私の心配より、知られちゃった人の方を聞くって、ニアらしいな。
「ふふ」
「何だ、細腕っ子。手紙を読みながら笑って、そんなに楽しいことが書いてあるのか?」
「わあ!?」
突然すぐ近くでペンの声がして、驚いた私はベンチから転げ落ちてしまった。手紙は落とさず持っていたから拾われることはなかったけど・・・
「んん、差出人は、ニア・・・?」
封筒を落として、ペンに拾われてしまった。
「私の幼馴染だよ、最近、サンドロックが事件続きだから、心配して手紙をくれるんだ。一度来たことあるんだけど、会ったこと・・・無いか。ペンも忙しいもんね」
「ふうん・・・」
封筒を裏表くるくると見た後、興味が無くなったのか封筒を渡してくれた。
それにしても、音もなく近寄ってくるとは・・・手紙に夢中になってたとはいえ、気がつかないものなんだな。手紙を封筒に入れてポーチにしまうと、ちょうどアンスールが昼の見回りを終えてヒューゴの鍛冶屋の方から駅へ走ってきた。
「キャプテンは手が空いたら来ると言ってました」
「揃ったか、じゃあ行くとしようか・・・ブロンコ、案内を頼む」
ジャスティスに言われて、ブロンコが走り出した。荷物置いていけばいいのになと思うけれど、きっと賞金稼ぎに必要な道具が入っているのだろう。そういうことにしておこう。
線路に沿ってバレー・オブ・ウィスパーズの谷底を左手に見ながら、その先はバッドランズと呼ばれる場所だ。壊れた建物の近くに釣り場があったり、珍しい鉱石があったりするが、モンスターが多く、誰も来ないところだというのがよく解る。
ブロンコの案内で着いたのは、廃坑だった。
「ここが待ち合わせ場所なのか?」
「そうだ、入るぞ!」
洞窟に足を踏み入れると、そこにいたのはバレー・オブ・ウィスパーズで出会ったネズミたちだった。戦いを避けようとジャスティスが説得を試みるも、ペンが飛び出してネズミ達を一掃してしまった。ネズミの反応だと、避けようもなかった気もするが。
「ネズミがどうしてここに?」
「モグラが・・・ゲドが危険だ!ほら、この足跡を見ろ!二足歩行が出来るのに、前足を使って走っている!」
ブロンコの指差した足跡は、完全に獣の足跡だ。ペット探偵をして、話せない生き物に聞いても意味がないと理解していると思ったのに、またしてもやらかすのか、この人は。
「はあ!?前足!?まさか本当に「モグラ」なのか?ハッ・・・馬鹿げている・・・こいつを信じて時間を無駄にした・・・ブロンコ、やはりおまえはクビだ、オレは帰る」
私ですら呆れているのに、ローガンを逮捕する気で来たペンはご立腹だ。そりゃそうだ。そのまま洞窟を出ていってしまった。
「あああ、待って・・・クソ!この足跡からすれば、ゲドはかなり危ないはずだ!」
ブロンコが一人で勝手に先へ進んでしまった。
「ビルダー、どうする・・・?」
「放っておくわけにもいかないし、行ってみようか・・・」
ジャスティスとアンスールと共に先へ進むと、どこもここもネズミだらけだ。しかも罠まで仕掛けてある。降りている坂を大岩が転がってきたときは、死ぬかと思った・・・幸い三人で身を隠すところがあって助かったけれど、二度と経験したくない・・・。
だいぶ進んだところで、やっとブロンコと合流できたが、不思議なロボットが檻に入ったモグラを尋問していた。様子をうかがって得た情報は、ルミというネズミの王女を探して、居場所を知っているゲドに命が惜しければ言えと迫っているということだった。
ブロンコは、あのゲドというモグラがローガンの居場所を知っているから助けなければならないと下に降りてしまった。
「勝手にいくんじゃない!」
ジャスティスがそれに続いて下へ降り、アンスールも降りていった。私もそれに続くと、そこにいたのは、動く鏡だった。
悪いロボット・・・?パラダイスロストにいるようなロボットかと思えば、それよりもはるかに知識を持つAIロボットのようだった。
そこに見張りとしていたネズミとこちらを攻撃してきたから、仕方なくこちらも攻撃したものの、最高出力の攻撃を繰り出そうとしたAIはエネルギー切れで停止してしまった。
「助かった・・・のか?」
檻に捕らわれたモグラのゲドを救出し、彼にローガンの居所を聞いたのだが、まずは我々の問題を解決してほしいと頼まれた。ゲド達は、ネズミの王女ルミを匿っており、その義理の母である女王の追跡を今まで退けてきたものの、今回ばかりは追い詰められているという。
その問題を解決したいが為に、嘘をついているのではと疑ったが、ゲドはローガンの外見を正確に答えたので、仕方なく協力することになった。
「結局、ネズミの政治的な問題に巻き込まれるのか・・・」
「仕方ありませんよ、ジャスティス」
エネルギー切れの魔法の鏡を置いて洞窟の先へ進むと、光が差し込む場所に出た。その奥に食料やベッド、ソファーまで置かれている。そのすぐ近くにドレスを見に纏ったネズミが立っていた。
そして、その壁に、ローガンの手配書が無数に張り付けてある・・・しかも小さなハートで手配書を囲っている・・・
「ゲド、ルミ王女は、もしかして・・・」
「ルミ!そこにいるのだろう!」
ゲドが答える前に、どこかで聞いたような声がした。振り返ると、バレー・オブ・ウィスパーズで義理の娘を探していると言っていたあのネズミだった。
彼女は、ポルティアでAIの魔法の鏡を見つけ、鏡にイメージチェンジをずっとしてもらい「この世界で美しい者は誰?」と聞くのが日課だったようで、そのうち外見だけにこだわるようになり、嘘のつけない魔法の鏡が「あなたの義理の娘が一番だ」と答えたら、ルミを亡きものにしようとして今に至るようだ。
私たちが説得しようにも、全く聞く耳を持たない女王は、もうまともではないのだろう。戦う体制に入っている我々を見ているのにも関わらず、手下のネズミに魔法の鏡を運ばせて「一番美しいものは誰か」と聞いている。
パワーストーンを補充された魔法の鏡が再起動して、その場にいる者全てを見渡す。そして、魔法の鏡はこう答えた。
「ソコニ居ル、ビルダーガイチバン美シイ。外見ダケデハ無い。精神的ニモ、トテモ美シイ・・・アナタガ理想ノゴ主人サマ・・・」
それだけ言って、またエネルギー切れを起こしたようだ。動きが停止してしまった。
「ビルダーだと・・・!?貴様・・・私の鏡に何をした!」
「襲ってきたから叩いて動きを止めただけだよ・・・」
「問答無用だ!」
ネズミの女王は私たちに襲いかかってきたものの、途中でキャプテンが到着した。
キャプテンはネズミ捕りの達人と知ってはいたけれど・・・ネズミって、文字通りのネズミだけでなく、この二足歩行のネズミもだったとは。キャプテンの姿を見るなり、手下は逃げ、女王もまた怯えて、ルミ王女を追いかけるなという要求をのんで逃げていった。
「ゲド、ルミ王女はローガンに恋してるんだね」
「・・・・・・」
「問題は解決しただろう、ローガンの居場所を教えてくれ」
「ローガンのヤギは、ルタバガを使ったこの料理に目がない。彼のアジトにいたとき、やっているのを見た」
ゲドはそう言って私に料理のレシピを渡してきた。
「焼きルタバガ・・・?」
「それをバレー・オブ・ウィスパーズの崖に置くんだ。そうすればローガンのヤギがアジトに案内するだろう」
「俺は場所を教えろと・・・!」
「ビルダーさん!助けていただいたのに、こんなものしかお礼できませんが・・・どうか受け取ってください」
内緒の話をしているところに、ルミ王女が私の前にやってきて、今までつけていたブローチをくれた。白い花のかわいいブローチだ。
「ありがとう。あなたが無事でよかったよ。気を付けてね」
「はい、あなたも」
そのまま隠れ家を出ていったルミ王女の姿が見えなくなってから、私は口を開く。
「ゲドは、ルミ王女に悪く思われたくないんだね。直接教えたら、王女に嫌われちゃうかもしれない、それが嫌なんだね」
「・・・・・・すまない」
「人の気持ちを変えることは出来ません。彼女は明らかに貴方ではない人の事を好きなのだから、自分を好きになるということはあり得ないんです。あなたも、自分の事を認めてくれる特別な存在を見つけるべきですよ」
今までほとんど発言しなかったアンスールが、ゲドを真っ直ぐ見つめていった。
「おお、良いこと言うな・・・実に民兵団の副官に相応しい恋愛のアドバイスだ!」
アンスールが誰かに意見するところを見たのは初めてだ。他人に興味なさそうに見える彼も、誰かに恋をしているのだろうか。
「ルタバガはこの洞窟の近くに生えているはずだ。気を付けてな」
ゲドがルミ達の出ていった方へと去っていった。
残された私たちは、エネルギー切れの魔法の鏡を外へ運びだした。
そのままルタバガを探そうかと思ったが、もう夜になっていた。魔法の鏡をみんなで運びながらブロンコと共に町へ戻った。
次の日、私はゲドに教わったバッドランズでルタバガを探していた。昨日一緒に探さなくてよかったと今は思う。ここに来てから、花びらを吐き続けている。ルミ王女の隠れ家でも吐き気はあったものの、花を吐くほどのものではなかった。今は、えずいて咳が出る度に花びらが出ているような状態だ。
認めたく無かったけれど、私は、給水塔の事件の日、現場からヤギに乗って逃げるローガンを見た。ジャスティスの怒鳴り声と、駅に入ってきた列車のブレーキ音、そして、ワークショップの前で棹立ちしたヤギに、振り落とされず難なく乗りこなすローガンと目が合った瞬間、私は、そう、その時にもう、彼に恋していたのだ。
だから、ヤギを誘い出せればローガンに会えるかもしれないと思って、嬉しくて花びらを吐き出している。会ったからといって、この花吐き病が治るわけではないのは解っている。
吐き出された花びらを回収しようにも量が多すぎて拾えない。さらに、この辺りの強い風ですぐに飛んでいってしまうのだ。風向きからすると、町の方には飛んでいっていないから大丈夫だとは思うが・・・もう仕方ないと思うことにしよう。
「よし・・・これで三つ集まった・・・」
さっきから出続ける花びらは、発病して初めて吐いたシランと、薔薇ではないのは解るが、名前のわからない、赤くて先が尖った花びらだ。
何か解らない花を吐くというのも面白いものだけれど、ワークショップまで戻る間は吐いたらまずいので、サンドギアのカバー部分を改造して、掃除機と繋げたものをかぶって帰った。
ワークショップの料理ステーションで焼きルタバガを作っている間、サンドギアに溜まった花びらを燃料として燃やしているときだった。
「うぐ・・・!?」
今までで一番の吐き気が襲い、私は持っていたサンドギアを放り投げ、その場へ崩れ落ちた。何度かのえづきの後に吐き出したのは、大きなひまわりだった。
今までは小さな花が多かったのに、こんな大きな花を吐いたのでは、崩れ落ちもするだろうと納得すると同時に、花の大きさは恋心の大きさではないだろうかとも思う。もう、隠せないところまで来ているのだろう。
大きなため息をついて、ひまわりを燃料入れへ投げ入れる。花のように私のこの気持ちも燃えて無くなってしまえば良いのに。
続く