ペンが、連行される。もう既に終わった関係だけど、まだ私は好きなまま。
朝早く、牧場の敷地に大きな飛行船が降り立った。私がそこに行った時は、既にペンはエイブリー司令官と兵士たちに囲まれていた。
彼の様子はよく見えないけれど、無表情で微動だにしないのがすこし恐ろしく思えた。抵抗しても無駄なことは明らかだが、ペンの言う「本当の自分」はそれなのだろうか。
私の近くには、町長、その後ろにローガン、ジャスティス、アンスール、グレースがいる。みんな私がペンと付き合っていたのを知っている。
なんというか、早まった行動をしないように見られているような気さえするんだけれど、言い過ぎかな。
「そろそろ出発の時間だ」
エイブリー司令官がペンを飛行船に乗せるよう指示した。
「ペンは、報いをうけるだろう。法律が及ぶ限り、責任を負わせてやる」
そこにいるみんなに、というか、エイブリーは私に向かって言っている気がする。
自由都市に、命を奪う刑はなかったと思う。彼が改心するとは思えないけれど、ペンに言わせると、拷問のような光の説教でも聞いて過ごすんだろうか。
「ん?」
飛行船の階段を登っていくペンの動きが止まった。そして、サンドロックを見回して、最後に、私と目が合った、気がした。
ペンはこちらを振り返ったけれど、何の反応もせず飛行船に乗っていった。
「え」
私の声に、近くにいるみんなの視線がこちらへ向いたのがわかった。みんな何も言わないけれど、心配しているのはわかる。
「では、これで失礼する」
私の動揺を知ってか知らずか、そう言ってエイブリーは飛行船に乗り込んでいった。
飛行船が見えなくなるまで見ていたら、ため息がでた。他の人たちもなぜかずっと一緒にいて・・・いやなぜかも何も、私の為だろうけれど。
「やっと終わりましたね」
意外とすんなりそんな言葉がでた。そう、やっと終わったのだ、私の恋も。
「そうですね、やっとおわりましたね」
アンスール、それはどっちの?本当に君は面白い人だ。
「ははっ、だよね。これで少しは民兵団の仕事も減るよねえ、ジャスティス」
後ろにいるジャスティスを振り返ったら、一瞬目を丸くしたけれど、すぐにもとに戻った。
「これからは、書類の制作だな・・・」
「そうですね、書かないといけないことがたくさんあります」
書類の制作は私の管轄外だ。お助け民兵団だし。聞いた話だと、守らないといけないことがたくさんあるのだとか。手伝ってもいいけど、ルールがわからないから、かえって邪魔になりそうだ。
「じゃあ、私はビルダー業に精を出しますかね。じゃあ、みなさんこの辺で!」
みんなに手を振って、私はワークショップに戻った。
*****
(視点:グレース)
飛行船に乗ったペンが、こちらを振り返るなんて、予想外だった。その瞬間、周りのみんなの視線はビルダーに注がれた。
ローガンの隠れ家でビルダーと会った時も、ペンが給水塔を壊した犯人で、怪しい人物だとこちらが告げたときの表情は、忘れられない。そして、アンチロックを使って町の地下へ潜入し、ばれそうになって隠れたとき、向こうからペンが来たときのビルダーは見ていられないほど動揺していた。
あの後、ちゃんと帰れたかこっそり見に行ったのを思い出す。
ペンが振り返ったとき、私にはビルダーと目があったように思えた。あのペンが、名残惜しいと感じたのだろうか。
確かに、民兵団が持ってきた証拠の中に、ビルダーを仲間に引き込む計画はあった。それは役に立つからであって、愛だの恋だのはそこに無かったように思えたが・・・それだけ、このビルダーは特別なのかもしれない。私もそう思う一人ではある。
「やっと終わりましたね」
飛行船が見えなくなるまでずっと眺めていたビルダーは、あっさりとそう言った。アンスールの言葉にヒヤッとしたけれど、ビルダーは笑いながらこちらを振り返った。ふっ切れたというよりも、ある種の諦めがついたのかも知れない。
「じゃあ、私はビルダー業に精を出しますかね。じゃあ、みなさんこの辺で!」
ビルダー。ここにいるみんなが、あなたの事を心配しているのは忘れないで欲しいと思う。
***
なんだかんだと時は過ぎて、数日の奉仕活動などでローガンとハルは町に戻り、グレースは自分の「考古学」の仕事を片付ける為に戻っていった。
そのすぐ後にハルはアタラにある大学へ留学した。ハルのお別れ会には、実験用のゴーグルをつくって渡した。喜んでくれて私も作った甲斐があったというものだ。
町の人は、私を気にしてかワークショップの前まで来て、私に挨拶してくれる回数が増えた。そんなに心配しなくても・・・と思うのだけど、一度倒れてるもんな、気にするよね。
町の人たちの心配は、間違っていないだろう。夜に寝付けなくて、パラダイスロストの奥地まで行って、ソファーで寝ている事もあるからだ。
それに気が付いたローガンに、あれを持ってきてしまえばと言われたけれど、あれは、あそこにあるから価値があるのだと素直に言ったら、それ以上何も言わなかった。
ただし、ローガンだけに解るように、パラダイスロストに行く時は、仕立て機の近くにある収納箱の上に、キャンバス地を置いていけと言われた。もしそれをしてあって、私がいつも起きている時間に庭にいなければ、呼びに来てくれると言う。ああ、やはりあれはローガンがやってくれたのか。
「・・・・・・どうしてそこまでしてくれるのか、よくわからん」
「あんたにはどれだけ尽くしてもたりないくらいだよ。オレと親父の恩人だからな」
「私はやることをやっただけだよ、望むと望まざるとに関わらずね。少なくとも今は、この町のためにやったことは、人として間違ってなかったとは思ってる」
「・・・そうか」
フッと笑って、ローガンは先日完成した前哨基地へ戻っていった。
前哨基地は、ローガンのお父さんであるハウレットが、モンスターの進行を見張るために使っていたところで、使うものがいなくなってから久しいそこは、ボロボロになっていた。それを私が直したというわけだ。
とはいっても、私は外を直しただけで、内装は無いそう・・・じゃなくて、エルシーとローガンできれいにしたらしい。お邪魔したときはいろんな物が揃っていて、素直に驚いたのだ。
外の見張り台は遠くからも見えるから、迷った旅人の目印にもなるだろう。我ながら良い仕事したなあ。
さて今日も仕事を頑張りますか。
続く