○指輪3

今日は式の日!気分晴れやか!さあ行こう!

なんて気分じゃなかった。目が、目蓋が重い!昨日の号泣が原因なのは明らかだ。さてどうしようかと考えつつベッドから降りて暢気に伸びをしたら、家のドアが開いた。

「ビルダー、おはようございます。冷たいタオルを少し当ててから温かいタオルを目に当てると腫れが引くとパブロが教えてくれました」

なんだって、パブロ?あの噂好きの?美容に関してはあの人だけど、噂に関してもあの人なんだよなあ。ああ、目が腫れるほど泣いたと町中に知られてしまったな。アンスールの事だから、真面目に全部話しただろうし、はっはっは。

「そっかあ、ありがとう・・・」

うん、彼は私のこの状態をみて動いてくれたんだから、噂くらいなんてことないね・・・。はあ。

起き上がったベッドにまた腰かけて、冷たいタオルを当てた。うーん、とてもよく冷えていて、どこで冷やしたのかと思うほどだった。そして温かいタオルは熱すぎずぬるくもないちょうど良い温度で、ちょっと荒んでいた気分もどこかへいったきがした。

「はあ、気持ち良かった、ありがとう」

「いえ、お礼を言われる程の事では」

そう言って私の持っているタオルを回収してドアへ向かっていく。そっけないなと以前なら思っていたけれど、意外と照れているみたいだと気がついたのは最近の事だ。

「あ。そうだ」

「ん?どうしました、ビルダー」

思い付いたことがあった。

会場となる聖堂に行くと、外に簡易的なテントがふたつ作られて、それぞれの控え室が作られていた。あ、このテント、お化け探しゲームで使ってるやつかな?

「ビルダー、あなたはこっちよ」

トルーディ町長が手を振って私を呼んでいる。

「本当にこれでいいの?」

テントに入る前に、再度私に確認してくる町長に、私は力強く頷いた。

「私も彼も、これがいいと思ったので。だって、お互いこれが一番似合うから」

「うふふ、確かにそうね。じゃあ、着替えて準備が出来たら二人で入ってきてね。待ってるわ」

「はい」

そう、二人で決めたのだ。私たちが一緒に民兵団としてあちこちへ行くときに着ている、民兵団の制服こそ、結婚式に相応しい衣装なのではないかと。みんなの前で愛を誓う時、白く輝く婚礼衣装より、砂や塵に塗れたこの制服が、民兵団としてここまでやってきたアンスールと私が、ずっとここにいると誓うための『意志』になると。

制服に着替えてテントの外へ出ると、既にアンスールは扉の前にたっていた。新品の制服がとても似合っている・・・って今までと同じデザインだけど。しかし・・・ジャスティスは何故アンスールの制服の新品を用意していたのかな?こうなると予想していた誰かがいたかな。

「ああ、似合ってますね」

「アンスールもね」

「私はいつもと同じですよ」

「いつもそう思ってるよ、いつも素敵だと思ってるし、かっこいいと思ってる」

「・・・・・・私も、あなたの事を素敵だと思っています」

褒めあって、二人で笑いあって、手を繋いで、一緒に聖堂の扉を開けた。

一斉に拍手の雨が降り注ぐ。私たちの格好に、声をあげる人、素敵という人、反応が色々聞こえるけれど、そんなのどうでもよかった。

聖堂の一番奥まで歩いていって、みんなの前で、愛を誓う。そして・・・アンスールと誓いのキスをした。

ハグはたくさんしたけれど、キスは初めてだったなとこんなときに考えていて、我ながらあきれた。たぶんこれもある種の逃避・・・

唇が離れたと同時に、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

「皆さんには申し訳ないですね」

アンスールが私にだけ聞こえる小さい声で囁いた。

「こちらは本当の愛の喜びを味わっているのに、あの人たちは座って見ているだけ」

「ふふ、確かにそうだね、私たちの愛をお裾分けする?」

「そうですね、お裾分けできるほど余りますか?」

「貴方に渡す分しかないから、無理!」

アンスールの手を取って、聖堂の花が飾られた道を駆けていく。私たちの新しい人生は始まったばかりだ。まだ事件は起きるだろうけれど、私たちならきっと大丈夫。たぶんね。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen