○それを見せればいいのに

それを見せればいいのに

今日の依頼は、ミゲルにライノホーンサボテンを持っていくこと。ビルダーだけど、畑仕事も楽しいし、何より自分が育てた植物で町の人が喜んでくれるのが更に嬉しい。

聖堂は、日曜の礼拝ではヒューゴがオルガンを弾いているから、静かながらも音があるけれど、今は静かで少し怖い。

「こんにちはー」

挨拶するが、誰もいない?

「ああ、ビルダーか」

左の方から低く落ち着いた声が聞こえた。そちらを向くと、ミゲルが机で何かを書いている。そこが仕事場なのだろうか。そういえば、彼が教会の事務的なことをほぼ全てやっていると聞いたような気がする。

「依頼の花を持ってきました」

「ふむ、ありがとう。これは、君が育てた花かな?」

「そうです」

「機械を作るだけでなく、植物も育てる才能があるとは、さすがだな」

「畑仕事も楽しいですからね。あ、一緒に聖堂の回りを美化したのも楽しかったですよ」

私がそういうと、ミゲルが一瞬目を丸くしたと思ったら、

「ははっ、そうか」

いままで見たことの無い表情で笑った。ミゲルのことを厳格で融通の利かない堅物だと思っていた。そうか、彼も人間なんだ。笑うし悲しくなるし怒るよね。

「・・・・・・」

「ん、どうした、ビルダー?」

「あ、いや、なんでもないです」

「その割に顔が赤いが・・・大丈夫か?」

「う、あ、えっと、きょ、今日は暑いからでしょうね、ははは」

うーん、我ながらごまかし方がへたくそなのはよく解っている。ミゲルの戸惑う声が聞こえるけれど、それもまた素敵で困ってしまう。

町のみんなに、その素敵な笑った顔を見せれば、きっと印象は変わるだろうけれど何となく見せてほしくないとも思ってしまった。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen