○ステージの上のピアノ

昼間から、マイクとピアノがブルームーンの野外ステージに置かれている。

夜にヒューゴさんとクーパーさんがライブをしているらしい。らしいというのは、私は始まる時間には疲れきって寝ているからだ。

一度見てみたいとは思っているけれど、朝から遺跡に入って鉱石を掘っているとスタミナ切れを起こしてしまって、ブルームーンでご飯を食べたら家にもどって寝てしまうのだ。

「・・・・・・」

ピアノの白鍵を押してみる。わ、音が出た・・・電源入れっぱなしなのだろうか。

故郷の学校で、音楽の時間に旧世界の映像を見て、その時にペアを作って練習した曲を思い出した。映像のタイトルは・・・忘れてしまった。でも、その曲のシーンは覚えている。

男性二人が、地面に敷かれたピアノを足で踏んで一緒に演奏していた。足で弾いているからダンスをしているようにも見えた。楽しそうにやっていて、とても好きな映像だった。

でも、ラストは少し悲しかったように思ったな。

えーっと、こうだったかな・・・?指一本でも弾ける右の方を弾いてみる。軽快な曲だけど、一緒に弾いたなと少しだけ幼馴染を思い出す。視界が歪んで、押さえる鍵盤を間違えてしまった。

「あ、間違えた、こうだっけか・・・?」

一度弾き間違えるとどこを弾けばいいのか解らなくなってしまう。あー、もういいかとそこを離れようとしたときだ。

「うまいじゃないか」

「え?」

いつのまにかすぐ近くに鍛冶屋のヒューゴさんが来ていた。あ!ヒューゴさん!?

「あああ勝手に触ってごめんなさい!」

「なんで謝る?俺はうまいと褒めたんだが・・・まあ、いい。指一本でそこまで弾けるんだ、ちょっと付き合ってくれ」

「?」

ヒューゴさんは少し待ってろといって、鍛冶場の後ろの小屋へ入って、すぐもどってきた。椅子をもって。

「お前さんはこっちに座って、さっきの曲を弾いてくれ」

「え、あ、はい」

さっきの曲を弾き始める。するとヒューゴさんがその曲の左手の方を弾き始めた。

「わあ、映像で聞いた曲だ!」

「一人でもいい曲だけどな、二人だともっといいだろう?」

「はい!」

そのままなんとか最後まで弾けた。横で的確に指示してくれるヒューゴさんのお陰だ。

「よくやった、ビルダー。うまかったぞ」

「ありがとうございます、とても楽しかったです!」

「今日、夜にクーパーとここでライブするから、もしよかったら寄ってくれ。もちろん、見る見ないを選ぶのはお前さんだけどな。じゃ、がんばれよ」

「はい、ありがとうございます」

立ってお礼を言ったら、それ以上は何も言わず、持ってきた椅子を回収して行ってしまった。そういえば、ヒューゴさんの作業場からステージは丸見えだったんだ。大きな音で、ピアノの音も聞こえないかと思ったけど甘かったか。あ、泣いてたのも見られてたかもしれないと、小屋から出てきたヒューゴさんを見たら、何の反応もせず、また鍛冶仕事に精を出していた。

口には出さないけれど、優しい人なんだな。いい思い出になった。

終わり

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きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen