○自覚

サンドロックにローガンが戻ってきて、なんやかんやあって告白され、付き合ったのが半月ほど前。なんやかんやなのは、思い出したら今でも火が出そうな位恥ずかしいからだ。現に今顔が赤いと思う。

私と付き合ってからも、ローガンは変わらず前哨基地へ。私も今まで通りビルダーの仕事をしている。

ただ少し変わったのは、アンディが学校の休みになると、よくワークショップに来ることだ。彼はもの作りというより、設計図を見たり、機械を見たりすることの方が多いけれど、私によく質問をしてくれる。

彼が私の邪魔をしていないかと、ローガンがデート中に聞いてきた事があったけれど、私は特に困っていないし、ローガンも私のところにアンディがいると解ってるなら、安心して仕事が出来るんじゃないかと答えた。その答えにとても安心したのか、安堵のため息と共にハグをされてしまった。あのときも私の顔は真っ赤だっただろうな。

今日は民兵団の依頼を受けて、モンスターを退治してくるからと朝来ていたアンディに言うと、彼は少ししょんぼりした後に

「いってらっしゃい、気を付けてね」

と言ってくれた。よく考えたら、親代わりのローガンも似たような危険な事をしているんだったなと少し反省した。

「なるべく早く帰るよ、でも、私がいないのに庭に入ったら・・・」

「解ってる、もう二度と入れてくれないんでしょ、そんなの絶対に嫌だから!」

「よし、えらい。じゃ、またあとでね」

アンディに手を振って、私は危険な遺跡に行くことにした。

北の宇宙船跡には、鉱石を掘るための遺跡と、こちらに敵対するロボットがいるエリアにわかれている。今回は敵対するロボットのいるエリアだ。そこで打ち上げロボットを二体倒さなければならない。かなり頑丈で、更に力も強い。

「さて、気を引き締めないとだね」

入り口で装備と薬の・・・あっ。薬がない。ここで薬がなければ、先に進むの無理だ。なんで確認しなかったんだろう。仕方ない、ワークショップに戻ろう・・・

モイスチャーファームのヤクメル駅から、サンドロック駅まで戻って、ワークショップへ。

ブレンダーで薬を作っている間に、ふとアンディを思い出した。言いつけを守って、庭にはいなかったから、ジャスミンのところか、広場にいるだろう。薬の完成まで時間がかかるから、探しに行ってみるか。

ジャスミンのお家にはいなかったので広場へ向かうと、厩舎の近くで犬のニモを撫でているのを見つけた。

「アンディ」

「あれ!?すごい早いけど、もうやっつけたの!?」

「いや、ちょっと忘れ物して取りに来たところで。アンディがなにしてるのか気になったから来てみたんだ」

「なんだ。そうかあ・・・」

あからさまにしゅんとするアンディ。この町に来た頃はここまで感情を表に出してなかった気がする。こんな風に子供らしく振る舞えるようになったのは、とても嬉しい。

「ねえ、ニモってかわいいよね!」

「ん?」

「それにね、すごい賢いんだ。ぼくがおすわりって言ったらちゃんとおすわりするし、ボールを取ってこいって投げるとちゃんと取ってくるんだ!」

ボールは、以前ニモと遊んでいたアンディを見たときにあげたものだ。その時はまだ町にローガンもおらず、町の人とも打ち解けていなかった頃だった。もちろん私とも。

ニモと遊んでいて、しまったという顔をしたアンディに「動物って、かわいいよね」と声をかけた後に、そこら辺に生えている草で作ったのだ。結構使っているようで、見事にぼろぼろだ。ハイジが経営するコンストラクション・ジャンクションで、りっぱなボールが売られているからプレゼントしたら「ビルダーが作ったこれがいい」と言われてしまったが、めちゃくちゃ嬉しかった。

「ぼくね、かわいいし賢いから、引き取りたいんだ!」

「ニモを?」

「うん。だってお家は広いし、誰もいなくても世話はぼくが出来るでしょ?」

「そういえば、エルシーが、町の動物の里親になってあげてって言ってたっけな」

ユフォーラサルベージの従業員が見つけたネコのバンジョが、エルシーの父親が経営する牧場で粗相をして町のネコになったとき、町にいる動物はみんな里親募集中で、仲良くなって引き取りたくなったら、家を用意して連れて帰ればいいと言っていた。

「もっと仲良くなったら引き取れる?」

「後をついてくるようになったら、町の人もいいって言うんじゃないかな?」

「もうビルダーにもアンディにもそれくらい懐いているように見えるが」

「ローガン!」

ヤギのランボに乗ったローガンが基地から戻ってきたようだ。え、もうそんな時間か!

「ビルダー、あんた民兵団の依頼をやるって言ってなかったか?」

「えーっと・・・」

「ビルダーはね、遺跡に行くのに薬を忘れちゃったんだって」

「アンディ!」

「ははは、あんたでもそんなヘマをするんだな」

「うっ・・・」

「アンディ、悪いが先にランボと家に戻っていてくれ。少しビルダーと話がしたい」

「いいよ、狩りをするときは率先して行動しないといけないって、ローガンが教えてくれたからね!頑張ってね!」

アンディをランボへ乗せてやったローガンに内緒話しているつもりなのだろうけれど、丸聞こえだ。いやむしろ私に聞かせたいのだろうか?

「狩り?」

「ビルダー、オアシスのベンチで話さないか?」

アンディの言ったことはよく解らなかったけれど、ローガンも気にしてなさそうだったから、それ以上聞くのはやめた。

ランボを見送って、私たちはオアシスへ向かった。

「アンディは、あの犬を引き取りたいって?」

「そうみたい。この町に来てすぐの頃から、ニモとは遊んでたんだ。知り合いもいないし、寂しかっただろうね」

「・・・・・・」

「あ、ローガンを責めているわけではないからね。あのときはアンディの為を思ってしたことなのは、みんな解ってるよ。でも、アンディみたいに全幅の信頼を置いていた人に置いていかれたら、ああもなるよねとは思ってるよ」

「結局それは責めているのと変わらない気がするが・・・」

サンドロックじゃない町だったら、ギャングの仲間だからと、子供に対しても容赦しなかったかもしれない。更には牢屋に入れられて、ローガンを呼び出す「道具」にされたかもしれない。実際に、ハルを黙らせる道具にした悪党もいたしな。

「結果として、アンディは誰も憎まないで済んだ。アンディはなにをされても、あなたの事が大好きなんだよ。それに、町の人がみんなアンディを受け入れたのは、あなたの事を信じていたからでもあると私は思ってるよ」

ローガンは昔からこの町のヒーローだったのだ。事件への功績があったとしても、昔からの彼の行動が、町のみんなの裁判での減罪という評価として現れたと思う。

「・・・・・・なあ、ビルダー。アンディはオレとあんたを親のように思っているらしい。お互いにそんな年じゃないのは解ってるが・・・あんたがそう思って一緒に手伝ってくれればいいなと・・・」

「ん?ああ、ニモを引き取るなら小屋も作るし、それに・・・」

『庭も片付けておくから、いつでも引き取れるようにしておくよ』と言おうとして気が付いた。

なんで私は私の家にニモを引き取ろうとしているんだ?私はローガンと付き合っているだけ、更にはアンディとは家族ではないのに。私は、ローガンと結婚しているつもりになっていたの?

「どうした、ビルダー。突然止まっ・・・・・・顔真っ赤だぞ、大丈夫か?」

「うぇ!?あ、ああ、大丈夫、だ、うん、大丈夫!ちょ、わあ、ごめん、もう行くね!」

自覚したらもう恥ずかしくて、まともにローガンの顔をみられない。メインストリートの裏道を家に向かって全速力で逃げた。どうしよう、このままだとずっと会えないぞ・・・!

「・・・・・・あの感じだと、もう一押しか・・・?」

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen