○手紙

自由都市同盟サミットも無事終わり、何もかもが落ち着いた頃、その手紙は届いた。何の便りもなかったので、忙しいんだろうとは思っていたけれど、こうして届くと嬉しくて自然と笑いが込み上げてくる。

はやくこの事を知らせようと、朝のルーティンも忘れて彼らの家へ走った。

「ローガン!アンディ!ハルから手紙が来たよ!」

その手紙には、大学でいろいろ勉強していること、成績がトップになったこと、充実して生活できていると書いてあった。

「あいつも頑張っているんだな」

「そうだね、いつかサンドロックに戻ってきたら、いろんなものを開発してくれるかもしれないね」

「じゃあ、ビルダーと一緒に何か作ったりする?」

アンディが、ソファーに座るローガンの膝の上でそわそわし始めた。彼は、ハルがアタラヘ行く時かなり悲しんでいたから、早く戻ってきて欲しいんだろう。本人はそれを言われるとすごく否定するけれど。

「まだまだ大学で学ぶことがあるから、すぐじゃないけれど・・・アンディがたくさん勉強して、ハルや私の手伝いが出来るくらいに成長すれば帰ってくるんじゃないかな?」

「そうだな、少なくとも宿題をサボってるようじゃ、ハルやビルダーの手伝いどころか・・・」

ローガンに言われて、アンディは慌てて両手で彼の口を塞いだ。

「い、今やるところだから!」

以前なら、宿題なんてと言ってたところだけれど、今からやるって答えるようになったのは、成長だと思うのだ。

「アンディが宿題をやるなら、私は帰るよ。慌てて来たからまだ動かしてない機械もあるし、ハルに返事も書かないといけないし」

「ああ、そうか。気をつけて帰れよ」

「えー、帰っちゃうの?」

寂しそうにするアンディにまたくるよと言って私はローガンの家を出た。

二人とも、ハルに手紙は書いていないのだろうか。邪魔になるって思ってたりするのかもしれない。

ワークショップに戻って、早速手紙を書いていく。

元気そうで安心したこと、サンドロックの近況、ハルにとっての家族であるローガンとアンディのこと、そしてついでに私の事。

ちょっと長くなってしまったけれど、これで完成。封筒が驚くほど分厚くなってしまった。うわあ、我ながら書きすぎたかなと思うけれど、友達に書くんだから変じゃないよね。重くないよね。いや封筒は確実に重いんだけど・・・不安になってきた。どうしよう、これ送って大丈夫か・・・?よし、ローガンに相談だ!

ローガンの家に着いてから、基地に行ってる時間だと思ったけれど、一応ドアをノックしたら返事があった。そのままドアを開けたら、目の前のソファーにローガンが腰掛けていた。

「あ?どうしたビルダー」

「いや、ちょっと聞いて欲しいことがあって」

隣のソファーに座るように指指したので、座らせてもらう。さっきの封筒を見せて、ハルがどう思うだろうか聞いてみた。

「・・・あんたからなら、誰でも嬉しいだろう。たとえ一言でも、分厚くてもな」

「本当!?よし、ハルの友達が言うんだから、大丈夫だね!ありがとう、ローガン!またね!」

「・・・・・・」

ローガンの家を出て、ポストに向かう。切手よし、住所よし、返信先よし、全部オッケー!投函だ!とやってから、いつもは必ず挨拶してくれるローガンの声がしなかったことに気がついた。

「あれ?なにか怒ってたかな・・・?」

原因もわからないな、どうしようかなとポストの前で悩んでいたら、ポンポンと肩を叩かれた。

振り返ると、そこにいたのはアルビオだった。

アルビオは、広場にある雑貨屋バイザステアーズの店主で、家具や食料品、ベビー用品まで取り扱っている。アルビオもセールストークがうまいので、それで売り上げもあるようだ。

「どうしたの?ポストの前でうんうん唸ってるけど、何か懸賞にでも応募したの?」

「いや、ちょっと・・・誰にも言わないって約束してくれる?教えてって言われても教えたら駄目だからね?」

アルビオは話好きで、秘密の話もポロッと誰かに言ってしまう。何度も釘を刺してはいるが、あまり効果もないみたいだ。それでも憎めないのは、この人の良いところなのかもしれない。

「もちろん!それじゃあっちのベンチに座って話してよ!」

彼が指差したのは、私がまだここにきてすぐの頃に設置したベンチだ。年月がたって、新品だったベンチもこの町に馴染んだように見える。

「はあ、ほんとにわかったのかなあ・・・」

ここまで来たら、もう仕方ないか。

ハルから手紙が来たこと、それをローガンとアンディに見せに行ったこと、完成した返事があまりにも多くなってしまったのが不安でローガンに相談しに行ったこと、帰る時に返事がなかったことが気になると、全て・・・あ、全部話しちゃった。全部言ったら町の人に筒抜けになってしまう・・・もういいや、知らない。

「なるほどね」

腕を組んで、うんうんと頷いているアルビオが、なんだか知ったかぶりしているような表情でちょっとイラッとしたので、肘で小突いてやった。

「あいた!なにするんだよ、人が真面目に考えてるのに!」

「それが真面目な人のする表情か!全く・・・」

私が小突いたところをさすりながら、今度こそ真剣な顔をしてアルビオがこちらを見た。

「たぶん、ローガンにはハルから手紙が来てないんだよ!だから、羨ましいんだよ、きっと」

「えーっ!?そんなわけないよ!」

「じゃあ、何が原因だと思うのさ」

珍しくアルビオがムッとした表情になった。

「だって、二人は私より付き合いが長いから近況報告はするだろうし・・・だとしたら、どうしてだろう?」

全くわからない。手紙が来ないから、来た私に怒ってる?だとしたら、手紙を持っていった時に態度がいつもと違うはずだ。帰るときも普通だったし、二度目の時、私が言ったのは・・・

「そこがわかったら、きっと君たちの関係も進むんじゃないかな?」

「え?」

考え事してて聞こえなかった。もう一度言ってくれるかと待っていたけれど、もうなにも言ってくれなかった。

「なんだよ、アルビオのいじわる!」

「まあ、本人に聞いても良いとも思うけどね」

そう言って、アルビオが真正面を指差した。その先には階段の上でこちらを見ているローガンがいた。私と目が合ったら、すっと目線を逸らしてまた戻っていってしまった。

「え、あれっ、なんで」

状況が飲み込めなくてわたわたしていると、アルビオが私の腕に触れてきた。

「慌ててる暇があるなら、追いかけた方が良いんじゃないかな?あの人、キミがポストの前で唸ってるくらいからキミの事見ていたよ?」

「え」

見てたなら、はやく声かけてくれればいいのに、どうしてだろう。

「わ、じゃあ行かなくちゃ、どうしてなにも言ってくれなかったのか聞かないと」

急いで立ち上がって階段の方へ駆けていく。

「あー!ごめん、アルビオ!お礼言い忘れてた!相談に乗ってくれてありがとう!またね!」

階段の途中で思い出して、声かけながら手を振ったら、アルビオも振り返してくれた。

「・・・ビルダーのことは、この町のみんなが大好きなんだよね。僕も好きだけれど、あの人からは奪えそうもないな」

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen