ビルダーと兵士
サンドロックが、デュボスに乗っ取られた。考えてもいなかった人の裏切りで。
町の誰もが考えていなかった、だけどよくよく考えたらそれもそうか、と今では思う。
民兵団の二人と、なぜかクーパーおじさん、向こうの仲間だった筈のミゲルさん、そして私が、今までペンとヤンが入っていた牢屋に入れられてしまった。
司令官の命令で、私はビルダーとして彼らの役にたたなければならなくなったけれど、どうにかしてみんなを助けてやるんだ・・・と誓ったはいいけれど。
「スティーブ、お前がビルダーの助けになるんだ」
「了解しました!」
見張りはつきますよね、そりゃあね。でも、自由になったのだから、多少は・・・なんて思ってた時期もありました。
スティーブって人、本当にずっとくっついてくる!
炉の調子を見るために近付いたら、真後ろでじっと見てくるし、リサイクラーに入れるくずを収納箱から取ろうとすれば、すぐに出入口方面へ動く。
うろちょろしてくるから、ちょっと、いやかなり邪魔だ。
「あの、スティーブさん」
「ん?」
「私を見張らなくてはいけないのはわかりますけど、こう近くをうろうろされると・・・」
「いや・・・すまない」
これが仕事だから仕方ないのだろうけど。あ、そうだ。
「柵が低いから、見張ってないと飛んで逃げると思えますよね。サンドウォール上げますよ。これで飛んで逃げることはできないですからね」
ハイジが作ってくれたサンドウォールは、いまの柵よりもかなり高さがある。その為、ジャンプして越えられなくなる。
「そしたら、ここの出口しか行くところはないですから、スティーブさんにこの椅子に座ってもらって・・・」
庭に置いていたラタンのテーブルと椅子を出口近くに置いて、スティーブさんを引っ張ってきて座らせた。
「いや、ビルダー、私は」
「頼むからここに座っててください、本当に。かなり危険なものもあるんです。ぶつかってしまったらあなたが怪我をするかもしれないんです」
あ。兵士にそんなこと言ってよかったかな、逆らったらまずいよね?
「・・・・・・」
素直に座っていてくれるらしい。よかった。
確か、初めて自己紹介した時に『だれも傷付けるつもりはない』と言っていたっけ。でも、それに私や民兵団の人たちみたいに、逆らう人も含まれて・・・いるわけないか。とりあえずは、従順になっておこう。
せっかくテーブルも出したし、座って待ってるだけじゃよくないなと、作ってあった料理を置いてまた仕事に戻ることにした。
「ビルダー」
「ん?」
「私は許可なくこちらのものを食べることは出来ない、しまってくれて構わない」
兵士って規律がいっぱいあるんだなあ。オアシスを汚していた兵士たちも、レフ司令官に怒られていたっけ。兵士というか、デュボス自体がそんな感じなのかもしれない。
「許可って司令官の?」
「・・・」
「まあ、そのままそこに置いておいて。後で私が食べるよ」
町中にいた兵士たちの話を聞く限りでは、デュボスの人たちは食糧難に陥っているように感じた。いくら地位が高くても、スティーブさんの階級ではそこまで満足に食べられているとは思えない。
まあ、いまはそこまで考えてもどうにかなるわけじゃないから、仕事をしなければ・・・
「あれ」
収納箱のどこを探しても石灰岩が見当たらない。作れと命令された罪深いジャグジーに使うのに。この前の依頼で使いきってしまったのだろうか。
取りに行かないと、ジャグジーは作れないんだけど、どうしよう?
「なにかあったのか?」
スティーブさんが椅子から立ち上がってこちらへ向かってくる。
「あのー、石灰岩のストックが無くなってしまって、これだとジャグジーが作れないんだ」
「それはどこに?」
ヤクメルバスに乗って、バッドランズへ来た。
もちろん、スティーブさんも一緒に。こんな僻地まで一緒に来ないといけないとは・・・本当に大変だ。
「お、道端にめのう発見」
ついでだから、あちこちの宝石と硫黄も拾っていくことにしよう。使わない訳じゃないからね。
「ビルダーはこんなところにまで来て石拾いを?」
「うん、使うものはなるべく自分で取りたいからね。レフ司令官が言ってたけど、デュボスではビルダーは自分で遺跡ダイブしないんだね」
「・・・汚れ仕事は、主人公になれない者達の仕事さ」
それも自己紹介した時に言っていた。それを聞いて、無性に胸が苦しくなったのを覚えている。
私もスティーブさんも、自分の人生の主人公なのに、何故そう思うのだろうと。
「・・・・・私は、スティーブさんの人生、興味あるけどな」
「聞いても面白くないよ」
「面白いか面白くないかは私が決めることだよ、でも、話したくないなら無理強いはしない。鉱石はもう少し先なんだ、行こう」
石灰岩の鉱石がある場所は、デザートホッパーの巣の近くだったことを忘れていた。ツルハシで掘っていたら、巣を刺激してしまったらしく、かなりの数がこちらへ襲ってきてしまった!
「っ!」
寸での所でデザートホッパーの尻尾攻撃を避けた。確かそのまま毒性のある粘液を飛ばす筈だ!
「スティーブさん!」
声をかけたら、飛ばしてきた粘液をさっと避けて、持っていたサーベルでデザートホッパーを一刀両断した。あ、強いんだな・・・
「ビルダー!」
「ん?」
スティーブさんが私の後ろをサーベルで指差したと同時に、こちらへ走り出した。え、切られるのか?と思った瞬間、腕を引っ張られて砂へダイブしてしまった。見えないけれど、これはデザートヴァイパーが毒を飛ばす前に出す音だ。まずい、デザートヴァイパーはホッパーより毒性が高い!
「うっ・・・」
スティーブさんの呻き声が聞こえたが、倒れること無くヴァイパーを切り伏せた。
「スティーブさん」
「大丈夫だ、問題はない」
明らかに毒の粘液がかかっている。それなのに問題無いとはどういうことだろうか。
「規律だかなんだか知らないですけどね、私は町の人も認めるサンドロッカーで、お節介焼きになっちゃったから、勝手に手当てしますね、お節介だから気にしないでいいし報告もしなくていいから」
一息で言って、強制的に手当てした。初めは抵抗していたけれど、やはり辛かったのだろう。粘液がかかったところへランエキスを塗ると、顔が痛みに歪んでいた。
「よし、これでいいでしょう」
最後に持っていた強い薬を飲んでもらった。ドクターにレシピを教わって、私が作ったものだけど、自分にはよく効いている・・・と思う。
「最後の最後でこんなになっちゃってごめん、スティーブさん」
「私は私の仕事をしているだけだ。ビルダー、君が気に病むことではない」
「・・・あーあ、あなたがデュボスの兵士じゃなかったら、友達になれたかもしれないな。いや、デュボスの兵士だったとしても、こんな風に出会わなければ、きっと友達になっていただろうな」
「・・・」
なにも答えなかったけれど、スティーブさんは少し笑ったように見えた。
石灰岩を手に入れて、やっと悪魔の代物、ジャグジーが完成した。これを設置してしまったら、オアシスの水はどうなってしまうのだろうか。デュボスの思惑通りに、サンドロックを、見限ることになるのだろうか。
「ジャグジーが出来たんだな」
「うん」
「じゃあ設置しに・・・」
庭の出口へ向かったら、そこに居たのは・・・
「なんだ、お前は・・・あっ、待て!ビルダー、そこで待っていろ!」
あれは、ゲドだったような・・・スティーブさんが追いかけて行く方を見ていたら、私の目の前に人影が見えた。
「ビルダー、大丈夫か?」
「・・・・・・大丈夫に見えるの?」
スティーブさんは、そのまま戻ってこないで欲しい。これから起きることを、何処か遠くで見ていて欲しい。でもきっと、あなたは戻るんだろうね。デュボスとの戦争が終わったら、いつかまた、友達になれるだろうか。
おわり