私がサンドロックに来たのは、夏の一日目だった。砂漠の中のオアシスにある町で、夏の厳しさに何度も挫けそうになった。給水タンクに水が無くなり、バージェスが管理するウォーターワールドに何度もお世話になった。住民に露を集めるコツを教わったり、露を集める装置をチーホン局長に設計してもらったりして、なんとか夏を乗り切った。
その後は、いくら暑いといっても、やはり季節はちゃんとあるようで、水の消費にかなり差が出たとおもう。
夏の大変さと秋冬の大変さが全く違った。水の残りをチェックする癖がついたから、夏に引っ越してきてむしろ良かったと思う。
今は、春だ。春といえば、ハイヌーンアリーナで行われるハイヌーン決戦だ。
町のみんなはスパーリングを好む人が多く、この行事はその成果を二人一組で見せ合う訓練みたいなものだ。
その話をきいた時には、やってみたいとは思ったけれど、今はちょっと遠慮しようかと考えている。
この半年、見た目は変わらないものの、実戦経験を積む機会ばかりで、スパーリングというか、モンスターをやっつける方が性に合っているというかなんというか・・・要するに敵を倒す為の戦い方しか身に付いていないのだ。
スパーリングを住民とする機会もほぼ無かった。ビルダーとしても、民兵団としても忙しかったから。
そんな『相手を殺す為』の戦いで、ハイヌーン決戦など出来たものじゃない。それなのに、住民たちは私の参加を楽しみにしているのか、一緒に出ないかと誘ってくれる。実力の差が出過ぎるのではないかと誘われても断っていたのだが・・・
「なんで?出たらいいじゃん!戦いで経験積むなんてなかなか無いんだからさ、それもまたアンタのすごいところだよ!」
エルシーは、出ないのか聞きに来てくれたから、理由を説明して断ったけれど、そう言ってくれるものだから、嬉しくなった。
「あーあ、これでローガンがいたらもっと楽しかっただろうな!アイツはすごかったんだ!ハウレットと組んで出たら誰も敵わなくてさ、次の試合から一緒に出たらダメってルールになったんだ!」
またローガンの話かあ。私はサンドロックに来ただけの人だから、私が来る前に居なくなった人の話になっても寂しさを感じるだけ。ましてや、エルシーの口からその名前は聞きたくない。
「へー、そうなんだ」
「そうなんだよ!だからね、ローガンとアンタがあそこで戦ったらすごい盛り上がっただろうなって!」
「・・・・・・ローガン、戻ってきたらハイヌーン決戦に出るかね?」
「出ないって言っても、アタシが絶対に出してやる!それでアンタと一騎討ちするんだ!」
「そっか・・・」
ああ、こんなことで気が付きたくなかったな。エルシーのその想い、本人も気が付いていないその気持ち。私も想いを持っていると気が付いたら、見えた想い。
言ったらきっと否定するだろうけれど、君は初めから言っていた。誰も信じない中でも、その人は無実だと。それはきっと、盲信的な恋。パッと現れた私に、入り込む余地などないせかい。
「で、アンタは今回出ないの?」
「あー、うん。もうすぐヤモリ駅の近くに植えた木も育ちきるみたいだし、様子見に行かないといけないし。それに、さっきも言ったけど・・・怪我させたら怖いし遠慮しておくよ」
「そっか、残念。じゃ、仕事頑張んなよ!」
手を振って、牧場に駆けていく彼女を見送って、出るのはため息。立っていられなくなって、その場でしゃがむ。
あーあ、このままローガンってやつに、ジャスティスの鉄槌が決まるとか、アンスールの剣の必殺技が決まるとか、なんならペンのスペースパンチでも叩き込んでとっとと捕まってくれないものかと願ってしまう。私は関わりたくない!絶対に!絶対に嫌だからね!
終わ