ずいぶん時間がかかっているけど、大丈夫だろうか。心配になってバックヤードに向かおうとしたら、三人がそれぞれ食事を持ってこちらに近づいてきた。自分達の分を持っているにしては多すぎるような・・・ほどほどにって言ってなかったっけ?
「君があまり食事をしていなさそうだって、ローガンが心配してあれもこれもと言うから、作り過ぎちゃったんだ。食べきれなかったら持ち帰り用にするから心配無用だよ」
私にウインクしながら耳打ちしてくるオーウェンは、やはりモテ男なんだなあ。女性に突然キスされるだけある。
「おいおい、なに耳打ちしてるんだよ・・・」
ローガンが料理を置きながら、オーウェンを私から離した。
「内緒だよ、な、ビルダー?」
「そうですねー、内緒ですねー」
笑いながら、少しは普通になれているかなと自分で安堵する。たぶんこの人たちは私が無理していることを解っている。それでも表立って心配しているのを見せないのは、この人たちなりの優しさなんだろう。いまはそれがありがたい。
みんながテーブルについて、食事をした。やはりオーウェンの作る料理はおいしい。なんというか、身体に染み渡っていくようなおいしさだ。なんだかんだ、ジャスティスもローガンもたくさん食べるのだな。意外と残らなかった。
「はい、ビルダー。これが持ち帰りの分だよ」
「へ?」
食べ終わったと同時に、オーウェンはテイクアウト用の袋をテーブルに置いた。残り物じゃないものを渡されて、変な声が出てしまった。
「残らないだろうなって思ったら案の定だよ、これも二人が払うから、気にせず持っていくといい」
「また仕事するんだろ?ちゃんと食べないと、また診療所に戻してやるからな」
「気を付けていけよ」
三人ともほどよい距離感で接してくれるから、本当に心地よいな。ジャスティスが持ってきた薬と、届ける予定の依頼品を持ってブルームーンを出た。今日は他に二ヵ所ある。そんなに大変じゃないけれど、なにを言われるかなと不安ではあるな。
まずは・・・ってあれ、そういえばキャンバス地どうしたっけ?そもそもあれの依頼人はジャスティスだったはずだ。さすがに依頼品を入れていた箱には入っていなかったから、ワークショップに置きっぱなしだろうな。まあ、後にしようかな。
えーっと、じゃあザッカーのところだな・・・また遠いな。ヤクメルバスに乗っていくか。
ヤクメルバスは便利だ。少し荒っぽいけれど、それもサンドロック名物でもある。
ザッカーのいるモイスチャーファームは、町の中心地からかなり距離があるから駅があるのはありがたい。
金属の扉を開けると、モイスチャーと言うだけあって、湿気がこちらを押そう。砂漠のなかでこの湿気を作り出しているのが、ファームの中心にあるハイドロジェルとコアだ。これがなければ町中の人の野菜を作れなくなってしまう。もちろん、ザッカーの農業の知識も必要だけど。
「ザッカー、依頼の品をもってきたよー!」
意外と広いファームの中では動いている人と行き違いになることもしばしば。何度かやったので、大きな声を出して気がついてもらうことにしている。畑の中にいた時は、作物の影になってファームの二周してやっと見つけたことがある。
「・・・・・・おお、ビルダー。ありがとう、助かった」
「いえいえ、なにかあったらまた依頼してください」
「うむ、気を付けて」
ザッカーはもともとあまり喋らない方だ。でも表情は私を心配するようなものだった。言わないことが私にとってどれだけありがたいか、彼は解っているだろうか。
モイスチャーファームを後にしてまたバスに乗って町へ戻る。
ジャスティスのところに行かなきゃならないけれど、この時間はたしか広場で見回りをしていたよな・・・人も多いから行きたくないな。と言っても、依頼なのだから仕方ない。行こうと覚悟を決めて広場の方へ向かったら、ジャスティスが愛馬に乗ってこっちに向かって来ていた。
「ジャスティス!」
「ん?ああ、さっきぶりだな?」
声をかけたらこっちに気がついてくれた。
「ちょっとそこで待っててほしいんだけど、大丈夫?」
「いいけど、どうかしたか?」
「依頼の品物とろうとしたら倒れちゃったからさ、この箱の中に入ってなかったんだ。戻って取ってくるからさ」
ワークショップを指したら、待っててくれると言うので、お言葉に甘えることにした。
戻ってみると、そのままになっているかと思ったのだが、仕立て機用の収納箱の上にキャンバス地が置かれていた。ローガンがやってくれたのだろうか・・・?まとめて置いてくれたから、飛ばされずにすんだようだ。枚数を数えたら、依頼の数は足りたので、待っているジャスティスに渡すためにそちらへ向かおうと振り返ったら、庭の柵のすぐそこに、愛馬のトゥルースに乗ったジャスティスが待っていた。
「なんだ結局来たのか・・・」
「馬に乗ってる俺が行かないわけにはいかないだろう」
「まあそうですけど。はい、これが依頼のキャンバス地」
「ありがとうな、ビルダー」
ジャスティスはなにも言わず、馬に乗って町の方へと駆けていった。いつも何か一言言っていくのに、なにもないのも変な感じだな。これで依頼は終わってしまったわけだ・・・
じゃあ、遺跡でも行くか・・・でも、時間としては、もう夕方だ。すぐ近くのユフォーラサルベージにある遺跡で、遺物でも探してくるかとそっちへ向かったとき、目に入ってきたのは、パラダイスロストの看板。
なんで忘れていたんだろう。
続く