○強敵

砂嵐の日に、強いモンスターが出ると教えてくれたのは、サンドロックの守り手であるペンだった。

初めての砂嵐の日に、サンドハットを渡して、そのまま強敵と戦って来ると言うので、そのままついていったら、いつも以上に大きなヤクメルが暴れていた。

そんなでっかいヤクメルをあっさりと倒してしまって、戦利品を私にくれた。さすがサンドロックの守り手だけあると思ったのだ。

初めは戦闘のひよっこだったけれど、民兵団に入った今では、あんな大きなヤクメルにも勝てるだろうと、砂嵐の日に飛び出したものの、ヤクメルではない敵に観光客が襲われている・・・!

あれは、砂漠の奥にいる飛び込みドリじゃないか!なんでこんな町の近くに!?

逃げ惑う観光客に、背中に背負っているジェットパックで突っ込んでくる!

「うわああああ」

「だめだ!こっちへ!」

ワークショップの近くにある岩影に観光客を呼び寄せた。岩影から顔を出してモンスターを見てみると、私たちを探しているようだった。このまま放っておいたら、町に被害が出かねない。

「怪我はない?」

「ありがとう、大丈夫だ・・・サンドロックの駅を遠くから見てみたくて、こっちに来たら・・・あっちの崖の方から飛んできたんだ・・・」

観光客が指差している方は、サンドフィッシュの釣り場の方だ。普段はあの辺りに飛び込みドリはいない。砂嵐に紛れてやってきたのだろうか。

「よく聞いて。私が先に出て、あいつを引き付けるから、あなたは町に戻って民兵団に報告して。民兵団の詰め所がわからなかったら、すぐそこの月の看板が見える?あそこに行って事情を説明すればいいから。いい、わかった?」

「ああ、わかった・・・でも、あんたは大丈夫なのか・・・」

「これでも民兵団の一員だから。この町にいる人を守るのが仕事だよ。私がここから出て、モンスターが私に攻撃し始めたら町に戻るんだ、いいね?」

観光客は頷いたのと同時に、私は岩影を飛び出した。

ドでかい咆哮をあげ、飛び込みドリが背中のジェットパックをチャージし始めた。そのタイミングを見計らって、モンスターの向きを岩の方からサンドフィッシュの釣り場方向へと向き直させる。そして、そのまま私へ突っ込んでくる!回避行動を取った目の端に、町へ向かう観光客が見えた。これでいくらでも暴れられる。

「さて、私とカンフーダンスといこうか?」

短剣を構え、またジェットパックをチャージする飛び込みドリの懐へローリングで突っ込み、短剣の連続攻撃を何発も食らわせる。固いガードも手数で崩せるが、一撃の重さが他の武器とは段違いに弱い。崩したガードもすぐに元に戻ってしまい、大きな嘴の攻撃を食らうところだった。

飛び込みドリは、こちらが近づけば嘴攻撃を、遠ざかって銃などで攻撃しようものなら、翼を羽ばたかせて風を起こし砂を巻き上げ、目眩ましをした後に、自らの羽根を飛ばして攻撃してくるのだ。羽根は驚くほど鋭く、皮膚へ簡単に突き刺さる。

「くそ・・・」

羽根が何枚か刺さったな・・・痛みは集中を奪う。しかしそんなことも言ってられない。隙を見て何度も攻撃をしていくが、ダウンするほどのダメージが入らない。ユフォーラ砂漠にいた個体はこれくらいで倒せていたように思ったが、やはり砂嵐で生き抜いている個体だからタフということか・・・?

今度はジェットパックをチャージして、空高く飛び上がった。そのまま私に突っ込んでくるつもりだろう。その隙にポーチの中の止血剤を視認できる限りだが、刺さったところへ素早く塗布する。砂嵐でうまく視認することは出来ないが、飛び込みドリは大きい。いくらか影も見えている。持っていた投てき爆弾を着地点にいくつか仕掛けておく。投げた衝撃で爆発するものだから、そこに突っ込んでくればかなりダメージは与えられるだろう。たた、問題は気づかれないように私がその場にギリギリまで留まらなければならないということだ。

「飛び込みドリとのチキンレースだな・・・」

攻撃方法を変えたということは、向こうもかなり消費してはいるのだろう。上空にジェットパックで飛び上がってこちらへ突進して失敗すれば、私へ攻撃のチャンスを与えるだけなのだから。

ジェット音がだんだん近づいてくる・・・まだだ、まだ動くな・・・

「グェェェェ!」

飛び込みドリがこちらを捉えて、鳴いた。今だ!

ダッシュしてそこを離れるが、突っ込んでくる方が速かった。すぐそばで爆発して私は吹っ飛ばされてしまった。しかし、倒れるわけにはいかない。飛び込みドリが倒れたのか否か確認しなければ。

「グ・・・・・・ェ・・・」

飛び込みドリが力無く鳴いて、その場に倒れた。なんとか倒したようだ。

「よし・・・終わった・・・」

「「ビルダー!」」

この声は、ジャスティスとアンスールだな。観光客が呼んでくれたのだろう。

二人が私に近寄ってきたのと同時に、気が抜けてきた。爆風のダメージもさることながら、意外に羽根の怪我も箇所が多かったらしくてあちこち痛い。気を張っていて、痛みに気が付かなかった。

「ああ、よかった。あの人は無事なんだね。飛び込みドリは倒したよ、こいつの後始末は二人に頼んでもいい・・・かな」

しゃべりながら意識が遠のいていくのが自分でも解った。二人に迷惑かけてしまうなと考えるくらい余裕があるなら、そのまま保ってられないのかと自分にツッコミをしながら、その場に倒れた。

「うー・・・うん・・・あ?」

目を覚まして見えた天井は、自分の家ではなかった。

「気がついたか」

起き上がって声の方に顔を向けると、机に向かっていたのであろうドクターファンが、椅子から立って近寄ってきた。

ドクターの話によれば、気を失った私を抱えて来たのはアンスールだったらしい。彼の説明は正確で、どんな処置をすればいいかすぐにわかってありがたかったとか。私の治療を頼んで、そのまま飛び込みドリの後始末に向かったと話してくれた。

それと、ブルームーンのオーナーであるオーウェンがここに来て、薬の準備をしておいてほしいと頼みにきたとか。ああ、あの観光客がブルームーンに寄ったんだな・・・。

「・・・もしかして、あの日から何日か経ってる?」

「ああ・・・二日ほど」

二日も寝ていたなら、機械の燃料もタンクの水も空っぽだろうな・・・手持ちのお金で水買えるかな・・・いやそもそも治療費が・・・なんて悩んでいたら、診療所のドアが開いた。

「ドクター、ビルダーさんはどうですか・・・あっ!」

名前を呼ばれた方を見ると、私が助けた観光客だった。私が起きていることに気が付いて、こちらへ駆け寄ってきた。

「私のせいで、怪我をさせてしまって本当に申し訳ない・・・!」

「いや、民兵団だから当然の仕事だよ、気にしないで・・・なんて言っても気にするか」

「命が助かったのは、あなたのおかげです。なんでも言ってください」

申し出は有り難いけれど、仕事でやったことだからと断った。それより、観光を楽しんでくれる方が私にとっては嬉しいと告げると、その人はせめて治療費だけはと言うので、払ってもらうことにした。不安だったから、これくらいはいいよね・・・

観光客が去ったあと、ジャスティスがやってきた。入れ替りで、ドクターは薬のお試しの日だからと外に出ていった。

「飛び込みドリは、おまえさんの爆弾で完全に倒せていた。だが、もう二度とあんな危ない真似はしないでくれ。地面に窪みが出来ていたぞ・・・」

「え、そんなに?」

「あのな、前も言ったと思うが、ここでは失敗が死に直結するんだ。今回は運良く助かっただけだ。おまえさんが死んだとしたら、どれだけの人が悲しむと思う?」

「ジャスティスは、悲しんでくれるのかな?」

「ビルダー、俺は説教しているつもりなんだが、理解していないのか?頭に怪我して、それも解らなくなったか?」

そういいながら私の頭を小突いてきたので、そのままベッドに倒れておいた。

「私は入院中の患者ですー、乱暴は良くありませんー」

「そんな時だけ病人か・・・」

ため息をついて、ジャスティスは近くにあったドクターの椅子をこちらに持ってきて座った。

「それと、ワークショップの機械についてなんだが・・・」

ジャスティスによると、私がしばらく入院することを知ったミアンが、完成間近のもの以外、時間のかかりそうなキューは全て止めてくれたという。止まっていれば、燃料も水も使うことはないから正直なところ大助かりだ。自分の仕事て手一杯だろうに、私が引き受けていた依頼もミアンが引き継いでくれたから心配はないとのことだった。そういうのって、商業ギルドの責任者であるヤンがやるものじゃないのという疑問を持ってはいけないんだろうな。

なんにせよ、ミアンには頭が上がらない。今度ブルームーンでお昼でも奢らないとだな。

「まあ、おまえさんはよくやったよ。サンドロックに来てから休むことなく働いてきたんだ。少々くらいゆっくりしたらいいさ。じゃあな」

「ありがとう、ジャスティス」

ジャスティスが診療所を出ていった途端、診療所にある不思議な機械がポコポコと音をたてて動いているのが良く聞こえる。それだけ静かなんだな。

力試しをしたくて、危険だと言われている砂嵐の中へ出ていった結果、モンスターに襲われた観光客を助けることが出来た。だけど、私はぼろぼろ、助けた観光客に心配をかけ、更には町の人に迷惑をかけてしまった。

結局、私は私の力量を過信していたということだ。

「カッコ悪いなあ」

ビルダーなんだから、身体を鍛える必要もそこまで感じていなかったけれど、民兵団に入ったからには、どんな状況でも誰のことも守れるようになりたいと、新たに目標をたてて、私は束の間の休息をとることにした。

おわり

@kaketen
きみのまちサンドロックにお熱。 ノベルスキーにいます。興味あったらこちらをどうぞ novelskey.tarbin.net/@kaketen