駅のホームにあるベンチに誘ったら素直に座ってくれたので、その横に私も座った。
「悪いな、聞くつもりじゃなかったんだが・・・」
「あんなところでプロポーズされると思ってなかったし、朝早いから誰もいないだろうと思ってた、まさかローガンがいるとはね・・・ああ、見てしまったのは仕方のない事だから気にしないで」
我ながら説明口調だなあ。意外に動揺しているのを今自覚した。
「ローガンは口軽ではないから、まあいいか。これをパブロやアルビオに見られてたら今頃は、みんなが盛り上がってたかもしれないなあ」
「さっきのあいつとは・・・」
「お、聞いちゃうかあ。宇宙船でどこまで話したっけか」
あんな戦場で、私が文通をしていると話したのは、あの宇宙船に旧世界の人間がメールというものでやり取りをしていた記録を見たからだ。メールというものは、紙を介さず電波だかなんだかで出来るらしいが、面白いことにあの場に紙で残っていた。それを読んで、私がポロッと「これも私みたいに返事が途切れている」なんていったからだった。
そこにいたジャスティスは、触れないように曖昧な返事をしていたけれど、何も知らないローガンはいろいろ聞いて来たから、別に隠すつもりもないので、掻い摘んで説明した。たいして興味もなさそうに見えたけれど、話していると頷いたり、先を促したりと聞き上手な一面を見たと思った。きっと今も私のこのもやもやを晴らすつもりで聞いてくれるんだろう。
「故郷で同じ学校に通ってたクラスメイトだったんだ。あの人のこと嫌いではなかったし、文通のやり取りを付き合いを続けたら好きになっていった。だから、このまま結婚もいいのかなと思った頃に、ね」
「ああ、オレたちのアジトに乗り込んできた時か」
「そう、そこから忙しくなって、怒濤の日々だよ。手紙を書こうにも正直には書けない、嘘はつきたくないから、幼馴染みのニアに無事だよって言っておいてって頼んじゃった。そんなこともあって、返事が遅くなったこともある」
ニアの名前を出したとき、ローガンは首を傾げた。あ、そういえば会ったことなかったか。いつか会えるだろうから気がつかなかったことにしておこう。
「で、結局戦争が始まって、また音信不通だったからね、新聞には戦争開始なんて出たし、私からの手紙はもちろんのこと、向こうの手紙なんか届くわけない。あの人もビルダーだから、こっちが自由都市の依頼が出来なくなってとても忙しくしていたと思うんだ」
「ああ、それで今になったということか」
「そういうこと」
サンドロックの商業ギルドは、トップのゴタゴタでうまく機能していなかったこともあって、最近やっと自由都市の依頼を引き受けるようになった。だから、ハイウィンドのビルダーである彼も手が空いたのだろう。やっと会えたと思ったら、あれだった。
「会って初めての言葉が、あれとは思わなかったなあ」
「サンドロックは危険か、まあ、強ち間違いではないかもな」
うん、最初から聞いていたんだね、あなたは。
「・・・そりゃ危ないこともあったけどさ、住んでいる私だけじゃなくて、住みやすくしようと努力している町のみんなに失礼だし、何よりこの町を守ろうとしたハウレットさんやローガンに失礼だよ」
「ははっ、アンタがそう思ってくれるだけで盗賊に身を窶した甲斐もあったな」
ローガンが笑えるようになったのは、いつからだったか。町のみんなはとっくに許していたのに、遠慮していたのは、ローガンの方だった。ぎこちないながらも、またサンドロックの一員になっていった。その頃から、ブルームーンではオーウェンとジャスティス、そしてローガンの笑い声が聞こえるようになった。
「おや、珍しい組み合わせだ。列車を待っているのかな?」
声の方を向くと、ジェンセンさんが帽子を上にあげて、こちらへ挨拶をしているところだった。
「ジェンセンさん、おはようございます」
「やあ、ジェンセン。アンタが来るということは、オレら結構話していたな・・・そろそろ行かないといけないな」
太陽の方を見たら、確かにかなり高くなっている。そういえば自分も依頼うけてなかったな。ワークショップの機械の調子も見ないとだ。
「そうだね、引き留めてしまってごめん、でもずいぶんスッキリしたよ、ありがとうローガン」
「・・・また困ったら話しに来ればいいさ、いつでも聞いてやるから」
「ありがとう、ハンティング気を付けて、またね」
手を振ってローガンを見送ると、彼はヤクメルバスに乗って、建て直した前哨基地へと向かっていった。昔から、あんな風に誰かの相談に乗っていたのだろうか。誰にでも優しい人なのだろうか。なぜか胸に棘が刺さったような痛みを覚えた。
***
ビルダーに手を振られ、ヤクメルバスのヤモリ駅につくまで、笑いを堪えるのに必死だった。あれなら、奪い取るのは簡単だろう。だが、奪い取るのでは意味がない、ビルダーから此方へ来るようにしなければ。
種は蒔いたはずだ。その種に、水をやり、丁寧に世話をしなければならない。どれだけ時間がかかろうとも、絶対に花を咲かせてみせる。
商業ギルドに行ったら、ウェイが机に向かってなにかを書いていた。前任のヤンは、双子の弟であるウェイを外郭部へ追いやって、ギルドの「社長」として君臨していた。いろいろやらかしたために今は罪を償っているはずだ。たぶんその後始末を未だにしているのだろう。
「やあ、ビルダー。今日も依頼を受けてくれるのですね」
「こんにちは、ウェイ。あなたに担当が変わってから仕事がやりやすくなったよ、私たちが仕事が出来るのは、あなたが影で努力しているからだよ。本当にありがとう」
「あなたのような一流の仕事人に、そう言ってもらえるのは嬉しいですね、こちらこそこれからも素晴らしい仕事をお願いしますね」
なんとなく握手がしたくなったので、手を差し出したら、にっこり笑って応じてくれた。この人もビルダーとして優秀だし、人柄もいい。ウェイが私たちビルダーの「仲間」として商業ギルドを引っ張っていってくれるなら、きっと今までなんか比較にならない程、サンドロックは発展していくだろう。そこに私も一員として立っていたい。
ああ、もうすでに答えは出ていたんだな。私はここに根を下ろしたいんだ。私を役に立つビルダーとして見ているあの人とではなく、私を私と見てくれる「だれか」と。その「だれか」も答えは見えているけれど、きっとそのだれかは、今日もだれかを助けている。