目が覚めたら、診療所だった。予想はしていたけれど、いざここのお世話になると、事の重大さに少し肩身が狭くなる。
身体を起こすと、ドクターファンが気がついて、Xに何かを告げて、Xは外へ出ていった。誰か呼びに行ったのかな・・・
ドクターはすぐ近くの薬台に行って何かを作り始めた。
「身体は、問題ない・・・ただ、君の場合は・・・心」
「あー・・・ドクターにもお手上げか・・・」
そう言ったら、ドクターが何かを言おうとしたのと同時に、診療所の扉がド派手な音をたてて開いた。びっくりしてそっちを見たら、ローガンとジャスティスだった。大の大人がそんな乱暴にしたら壊れちゃうのでは?
「「ビルダー!!」」
「おお、名前でハモるとは、君ら仲良いね」
「この期に及んでそんな軽口を叩くとは・・・」
「もう大丈夫なのか・・・?」
ちょっと怒っているジャスティスと、なんだかとても心配しているローガンの二人を足して割ったらちょうど良くなるのではなんて考えていたら、ちょっと笑えてしまった。
「ふふふ」
「笑ってる場合か!倒れたときにちょうどローガンがワークショップの近くにいなかったら、おまえさんはずっと気がつかれなかったんだぞ!」
「え、ああ、あのとき私を呼んだの、ローガンだったのか・・・」
あれ、なんでそんな残念そうなこえが出たんだろう・・・?
「おまえさん、ちゃんとメシ食ってるか?オレとジャスティスで奢るから、ブルームーンに行こう」
「え」
ベッドに座っている私の腕を強引に取って、ローガンは診療所を出ていく。ジャスティスがそれを見て、ドクターへゴルを払い、薬ももらってくれたのが見えた。ジャスティス慌てているから、これはローガンの独断だな・・・大変だなジャスティスも。
ブルームーンについてすぐに、オーナーのオーウェンが私に気がついて駆け寄ってきた。
サンドロックの人たちは優しくて、世話好きが多い。それがありがたいこともあれば、困ることも多々ある。もう慣れたけれど。
「ビルダー」
「ご無沙汰してます」
「いや、それは良いんだが・・・」
いつもみたいに話しながら腕を組んで、こちらを心配そうに見ている。それはそうだ、あの人と一緒にここでデートしたこともある。オーウェンが知らないわけがないのだ。
あんなことになって、心配してくれるのは嬉しいけれど、私としては・・・
「おいローガン!勝手に決めるんじゃない!ビルダーは病み上がりだぞ!?」
診療所と同じようにドアをおもいきり開けて入ってきたジャスティスに、数人いたお客さんが驚いて外へ出ていってしまった。あらら。
「ジャスティス、もう少し静かに入って・・・ん?ローガン、無理矢理連れてきたのかい?」
あれ、優しい声してるけど、オーウェン結構怒ってる気がする。
「あー、えっと、ご飯食べようとおもったら、二人が奢ってくれるっていうから。のこのこついてきただけだよ。なににしようかなあ」
カウンターではなくソファ席に座って、メニューを見ながらなんで庇ってるのかと面白くなってきた。
「好きなもの頼め。いくらでも」
「おお、ずいぶんと太っ腹だね、ローガン」
「自分の体調と相談してくれよ、ビルダー」
自分の向かい側にローガンとジャスティスが座って、私の様子をうかがっているようだ。あなたたちは私の保護者かと言いたくなったが、寸でのところでとどまった。
「倒れたならお粥がいいけどね、食べたいものがあるなら作るよ。なんでも言って」
オーウェンまでが優しすぎて・・・いやオーウェンはいつも親切だったな。心配かけてるなとは思うが、こうするしか私にはないのだから。
「じゃ、今日のおすすめで」
「そんなんでいいのか?」
「後で持ち帰りするし、これくらいがちょうど良いんだよ」
「ちゃっかりしてるな、ビルダーは」
注文を受けてオーウェンがバックヤードに向かったと同時に、ジャスティスとローガンがそれに続いてそちらへ向かった。手伝いを二人でするのかな?と思ったら、オーウェンがバックヤードから顔を覗かせて「一人にしてすまないが待っていてくれ」と声をかけてきた。やっぱり手伝うのかな?
***(視点:オーウェン)
「・・・・・・二人ともこっちに来てどうするんだ・・・」
「「・・・・・・」」
「全く・・・」
仕方なく僕がビルダーに一言声をかけておいた。聡い子だから疑問に思っているだろうけれど、少しはマシだろう。
「ビルダー、相当無理しているらしい。ドクターが薬を寄越したが・・・その時、これ以上無理をして身体が弱れば、心の傷を直せなくなるかもしれないと言っていた」
「そんなに弱っているのか?」
「僕たちだって、君がお尋ね者になったとき、同じような経験をしているよ。まあ、僕たちの場合は、君は無罪になったし・・・心の傷はそこまで深くないだろうけれど」
僕がローガンにそう言うと、彼はため息をついた。理解したかな。
「・・・・・・明後日にはペンが連行されることになったんだ・・・俺としてはその日まで眠っていて欲しいくらいなんだが、それを町長に言ったら、却下された」
ジャスティスも、ビルダーと民兵団としてあちこちに行っているだけあって、心配をしているようだけれど、少し空回り気味のようだな。
「ビルダーは、ペンと決別しなければいけないだろ、寝かしていたらいつまでも引き摺るぞ」
「ローガンの言う通りだ。ただ、ペンが連行されるところを見て、ビルダーは割りきれるか・・・たぶん無理だろう」
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
「声が大きい、ジャスティス。たぶん、ビルダーは食事が終わったら、依頼をこなすはずだ」
「倒れたのにか?なんで」
ローガンの疑問も尤もだ。ジャスティスは大きなため息をついた。
「あの子は、依頼や遺跡ダイブをこなすことによって、なにも考えなくて良いようにしているだけなんだ。だから疲労は二の次三の次。たぶんこのままだと確実にドクターの言うように心が壊れるだろう」
「「・・・・・・」」
「そして、僕たちは、君らが宇宙船から帰ってきたときになにをしたか覚えているかい?」
「パーティーしたな、朝まで。いつのまにか寝てたビルダーをジャスティスが家に運んだんじゃなかったか?」
ローガンの答えに僕は大きく頷いた。
「そうだ、パーティーをしたんだ。恋人を、裏切りという形で失ったビルダーに、おめでとうと声をかけたんだよ」
僕の言葉に事の重大さを理解したのか、二人は目を見開いて口に手をあてた。僕もそれに気がついたときは取り返しのつかないことをしたと思った。きっとビルダーは僕たちを許さないだろうと。
「だから、町の人に不信感を抱いているはずだ。でも二人は違う。だから、ビルダーの事、さりげなく見ておいてあげてくれ」
「言われなくてもそのつもりだ」
「ああ」
続く